16 / 30
冒険者ギルドヘ 1
しおりを挟む
サイファに宥められて何とか落ち着いた頃、どうやら到着したようで馬車が静かに止まった。
「ラトナ、ココは一般庶民街の入り口付近にある馬車の駐車場なんだ。大抵の者は皆、ココに馬車を預けて歩いて行く」
「ほうほう。じゃあ降りるんだね」
わくわくしながらそう言うと、サイファはキャスケットを俺に渡してきた。
「その前にさっき言ったように帽子を被って、更に少しの間フードも被って貰うがいいか?」
「うん、大丈夫!」
ちょっと申し訳なさそうに言うサイファに俺はにっこり笑って言った。全然気にしてないよーって感じで。実際、全く気にしてないからな。
そうして俺の装備を万端にしてからサイファもローブのフードを被った。
「すまない、俺はそれなりに顔が知られているので周りが騒がしいかもしれない」
「あー、Sランク冒険者だもんね。あっ、王子様っていうのも知られてるの?」
「王族として公務に出ることはあるが、一般庶民に大っぴらに顔を見せたことはないので、知っているのは一部の者くらいだな」
ということは、もしかしてこれから紹介される人は知ってるってことかな?
まぁ、王族以上に凄い身分の人とかいないだろうし大丈夫だよね?
そんなやり取りをしてからサイファが先に降りて、当然のように俺を抱き上げて左腕で縦抱っこする。
俺も慣れちゃって、無意識にサイファの首に腕を回して抱き付いた。
それを微笑ましそうに見守る馬車の御者と護衛騎士達。
抱っこは慣れたが、その視線は慣れなくてなんかいたたまれない。むぎゅっと顔を隠すようにしがみ付くとサイファがクスリと笑った。
「嬉しいが、そんなにしがみ付いてると周りがよく見えないだろう」
「うう・・・・・・うん。えと、周りキョロキョロ見ても大丈夫? 不審者って思われない?」
ハッとしてそう聞くと、サイファは笑って言った。
「豪商のお坊ちゃまの初めてのお忍び街歩き風だから、微笑ましそうに見られるだけだ」
「うえぇ・・・・・・それはそれでイヤだ」
「ははっ」
そうなのだ。今回、街を歩くにあたりどうしても俺達は一般庶民に見えないということで、それなりのお金持ちの商人の子息とその護衛達という体で身形を揃えたんだ。
これなら護衛達がいても不自然じゃないから。
サイファは伴侶だけど、専属護衛に見えるように俺を抱き上げて歩くんだって。
え? それってデフォルトだよね? 設定じゃないよね?
ただ単に俺への独占欲でやってるんじゃないの?
そう言って見つめたらサイファはちょっと目を逸らした。
図星か。
俺以外にも、護衛騎士達もナージュも思わず笑っていたら───。
『ただ、ちょっと不自由にはなるけどね。でも俺は冒険者として身を守れるがラトナには危険な目に合って欲しくないから、そこはすまないが・・・・・・』
サイファにそう言われたけど、俺としては全然、普通に気にしていない。だってそもそも街に行けるとは思わなかったんだから。
『大丈夫だって。それにサイファにくっ付いてれば危険なときは転移で逃げれそうだし、ずっとくっ付いていられて嬉しいし』
俺が存在する、サイファ達の生きるこの世界がどんなところなのか知りたかっただけで、あとはのんびり過ごせれば万事オッケーなんだよ。
そんなスローライフはサイファ達に頼りきりで成り立つというダメダメな俺なんだけどね!
「じゃあ御者さんもゆっくりしててね。護衛さん達もよろしくね」
「はい。お気をつけて」
「我々も少し離れて付いていきます」
護衛達はさっきも城で護衛してくれてた騎士達。
軽装備だけど腰に剣を佩いてる。護衛という見た目をワザと強調して周りを牽制する意味もあるんだって。
前に一人、名前はエリックさん。右斜め後ろがハサードさん、左斜め後ろがモーガンさんというトライアングルフォーメーションだ。
「では行こうか。まずは件の冒険者ギルドヘ」
「は、では周りを固めます」
そう言って自分達の位置について歩き出した。
俺はもちろん抱っこ移動だよ。
街歩きしてないじゃんって言うな。自分の足で歩くだけが散歩じゃないから!
そうして初めての、本当に初めての王都の街歩きが始まった。
俺は見るモノ全てが物珍しいので、あっちこっちキョロキョロと顔ごと動かして、分からないこと全部サイファに質問した。
サイファはフードの下で笑いながら律儀に全部応えてくれて、それで俺は更に興奮して自然と声が大きくなり、ローブから覗いている白いもふもふの尻尾をぶんぶんと振り回していた、らしい。
「ラトナ、尻尾振りすぎ。可愛いけど、俺の視界が奪われる。真っ白で見えない」
「えっあっ・・・・・・うわあ、ごめんね! ヤだ、恥ずかしい。サイファ、俺の尻尾押さえててくれない?」
「・・・・・・ソレは構わないが・・・・・・いやいや、人前でソレはマズい。やはり無理だ」
「何で?」
サイファに注意されたので押さえてて貰おうとしたら、葛藤したあと、断られた。
首を傾げると、左斜め後ろにいたモーガンさんがサッと近付いてコソッと耳打ちしてくれた。
「尻尾は、その、性感帯なので───」
「───え、あ、うえっ!?」
そこで言葉は切れたけど、鈍い俺でも察したよね!
公衆の面前で性的な接触になっちゃうよね!?
何なら公然わいせつ罪とかで通報されちゃうね!? そんな法律あるのか知らんけど!
俺はかあぁーっと顔を赤くしてサイファの首筋に顔を埋めた。サイファごめんね!
「・・・・・・分かったならいい。その代わり、城に帰ったら───」
「はい、ごめんなさい。もう言いません」
「よろしい」
シュンと萎れた俺の頭をフードの上からポンポンと撫ぜる手が優しいから怒ってはいないんだろうけど・・・・・・。
言動には気を付けねばと反省するのだった。
「ラトナ、ココは一般庶民街の入り口付近にある馬車の駐車場なんだ。大抵の者は皆、ココに馬車を預けて歩いて行く」
「ほうほう。じゃあ降りるんだね」
わくわくしながらそう言うと、サイファはキャスケットを俺に渡してきた。
「その前にさっき言ったように帽子を被って、更に少しの間フードも被って貰うがいいか?」
「うん、大丈夫!」
ちょっと申し訳なさそうに言うサイファに俺はにっこり笑って言った。全然気にしてないよーって感じで。実際、全く気にしてないからな。
そうして俺の装備を万端にしてからサイファもローブのフードを被った。
「すまない、俺はそれなりに顔が知られているので周りが騒がしいかもしれない」
「あー、Sランク冒険者だもんね。あっ、王子様っていうのも知られてるの?」
「王族として公務に出ることはあるが、一般庶民に大っぴらに顔を見せたことはないので、知っているのは一部の者くらいだな」
ということは、もしかしてこれから紹介される人は知ってるってことかな?
まぁ、王族以上に凄い身分の人とかいないだろうし大丈夫だよね?
そんなやり取りをしてからサイファが先に降りて、当然のように俺を抱き上げて左腕で縦抱っこする。
俺も慣れちゃって、無意識にサイファの首に腕を回して抱き付いた。
それを微笑ましそうに見守る馬車の御者と護衛騎士達。
抱っこは慣れたが、その視線は慣れなくてなんかいたたまれない。むぎゅっと顔を隠すようにしがみ付くとサイファがクスリと笑った。
「嬉しいが、そんなにしがみ付いてると周りがよく見えないだろう」
「うう・・・・・・うん。えと、周りキョロキョロ見ても大丈夫? 不審者って思われない?」
ハッとしてそう聞くと、サイファは笑って言った。
「豪商のお坊ちゃまの初めてのお忍び街歩き風だから、微笑ましそうに見られるだけだ」
「うえぇ・・・・・・それはそれでイヤだ」
「ははっ」
そうなのだ。今回、街を歩くにあたりどうしても俺達は一般庶民に見えないということで、それなりのお金持ちの商人の子息とその護衛達という体で身形を揃えたんだ。
これなら護衛達がいても不自然じゃないから。
サイファは伴侶だけど、専属護衛に見えるように俺を抱き上げて歩くんだって。
え? それってデフォルトだよね? 設定じゃないよね?
ただ単に俺への独占欲でやってるんじゃないの?
そう言って見つめたらサイファはちょっと目を逸らした。
図星か。
俺以外にも、護衛騎士達もナージュも思わず笑っていたら───。
『ただ、ちょっと不自由にはなるけどね。でも俺は冒険者として身を守れるがラトナには危険な目に合って欲しくないから、そこはすまないが・・・・・・』
サイファにそう言われたけど、俺としては全然、普通に気にしていない。だってそもそも街に行けるとは思わなかったんだから。
『大丈夫だって。それにサイファにくっ付いてれば危険なときは転移で逃げれそうだし、ずっとくっ付いていられて嬉しいし』
俺が存在する、サイファ達の生きるこの世界がどんなところなのか知りたかっただけで、あとはのんびり過ごせれば万事オッケーなんだよ。
そんなスローライフはサイファ達に頼りきりで成り立つというダメダメな俺なんだけどね!
「じゃあ御者さんもゆっくりしててね。護衛さん達もよろしくね」
「はい。お気をつけて」
「我々も少し離れて付いていきます」
護衛達はさっきも城で護衛してくれてた騎士達。
軽装備だけど腰に剣を佩いてる。護衛という見た目をワザと強調して周りを牽制する意味もあるんだって。
前に一人、名前はエリックさん。右斜め後ろがハサードさん、左斜め後ろがモーガンさんというトライアングルフォーメーションだ。
「では行こうか。まずは件の冒険者ギルドヘ」
「は、では周りを固めます」
そう言って自分達の位置について歩き出した。
俺はもちろん抱っこ移動だよ。
街歩きしてないじゃんって言うな。自分の足で歩くだけが散歩じゃないから!
そうして初めての、本当に初めての王都の街歩きが始まった。
俺は見るモノ全てが物珍しいので、あっちこっちキョロキョロと顔ごと動かして、分からないこと全部サイファに質問した。
サイファはフードの下で笑いながら律儀に全部応えてくれて、それで俺は更に興奮して自然と声が大きくなり、ローブから覗いている白いもふもふの尻尾をぶんぶんと振り回していた、らしい。
「ラトナ、尻尾振りすぎ。可愛いけど、俺の視界が奪われる。真っ白で見えない」
「えっあっ・・・・・・うわあ、ごめんね! ヤだ、恥ずかしい。サイファ、俺の尻尾押さえててくれない?」
「・・・・・・ソレは構わないが・・・・・・いやいや、人前でソレはマズい。やはり無理だ」
「何で?」
サイファに注意されたので押さえてて貰おうとしたら、葛藤したあと、断られた。
首を傾げると、左斜め後ろにいたモーガンさんがサッと近付いてコソッと耳打ちしてくれた。
「尻尾は、その、性感帯なので───」
「───え、あ、うえっ!?」
そこで言葉は切れたけど、鈍い俺でも察したよね!
公衆の面前で性的な接触になっちゃうよね!?
何なら公然わいせつ罪とかで通報されちゃうね!? そんな法律あるのか知らんけど!
俺はかあぁーっと顔を赤くしてサイファの首筋に顔を埋めた。サイファごめんね!
「・・・・・・分かったならいい。その代わり、城に帰ったら───」
「はい、ごめんなさい。もう言いません」
「よろしい」
シュンと萎れた俺の頭をフードの上からポンポンと撫ぜる手が優しいから怒ってはいないんだろうけど・・・・・・。
言動には気を付けねばと反省するのだった。
524
お気に入りに追加
595
あなたにおすすめの小説
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?
左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。
それが僕。
この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。
だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。
僕は断罪される側だ。
まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。
途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。
神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?
※ ※ ※ ※ ※ ※
ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。
男性妊娠の描写があります。
誤字脱字等があればお知らせください。
必要なタグがあれば付け足して行きます。
総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる