箱庭

エウラ

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俺の箱庭 2

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「どういうこと!? えっどういうこと!? 後出し情報多すぎなんだけど!」
「落ち着け、ラトナ」

うがーっと毛を逆立てる俺とそれを宥めるサイファを微笑ましそうに見つめる王様達。

何ともカオスなそこに声をかけて来たのはいかにも有能そうなキリッとした顔の侍従っぽい服装の男性だった。
サイファと同じくらいの歳かな?

「ご歓談中、失礼いたします。サイファ様、ラトナ様の御食事をお持ちいたしました」
「おお、そうか。ありがとうナージュ」
「ご飯!」

食事という言葉に耳と尻尾をピンと伸ばして反応した俺を、ナージュと呼ばれた人がやっぱり微笑ましそうに見た。

「ラトナ、彼は俺の侍従をしているナージュという者だ。城ではラトナの世話もしてくれるから気兼ねなく頼るといい」

サイファに紹介されてナージュが俺に向かって綺麗なお辞儀をして言った。

「ナージュと申します。サイファ様はいつもこちらにいらっしゃらないのでお世話のしがいがなく・・・・・・ラトナ様を構い倒───失礼、お世話出来て光栄です」
「・・・・・・よろしくお願いします?」

───オイコラ、今何か不穏な言葉が聞こえたような気がするぞ。
主従揃って大丈夫かな?

「果物や木の実を食されるとのことで、いくつか取り合わせてまいりました。お口に合うものがあればよろしいのですが」

そう言って空いた席に座ったサイファの膝の上でそわそわする俺の前に、何種類もの瑞々しい果物がカットされた状態で盛り合わせた皿を置いた。

「お、美味しそう・・・・・・これ、食べていいのか? サイファ」
「もちろん。どれがいい? ほら、まずはモモンだよ。あーんして」
「あーん・・・・・・んぐ・・・・・・うまぁ・・・・・・」

ナニコレ、島にはない果物だ。とろとろ甘くて、でもさっぱりしてる。味は桃みたい。

「次は?」
「これ、この赤いヤツ!」
「あーん」
「あーん!」

こっちは林檎みたいな味と食感だ。しゃくしゃくしてて甘い蜜がある。

「美味いか?」
「うん、どれも初めて食べる果物だけど美味しい!」

もっくもっくと口を動かしてあーんする俺を四方からガン見する視線も気にならないくらい、ひたすらお腹が膨れるまで口を動かした。

え? だってカーバンクルの姿だとかぶりつくしかないじゃん。
人前でそれはさすがに恥ずかしい。
だからってここで急に獣人型になるのもアレだし、食べさせて貰えるならそれが一番合理的で楽だよね?

───って俺は思ってたんだけど、竜人にとっては『あーん』は重要な意味を持つ給餌行為で、求愛をあらわすらしいと後から聞いた。
うん、後出し情報多すぎ。

でも言われてみれば異世界あるあるな設定にあったな。俺の記憶がポンコツ過ぎる。

つまり俺、公衆の面前でサイファから『好き好き大好き! 結婚して!(もうしてるっぽいけど)』みたいなことをされてたってことだろ!?
知ったらめっちゃ恥ずかしいわ!

まあ、とっくに伴侶という位置づけらしいので今更だし、別にいいけど!

・・・・・・この伴侶云々も地球の常識で考えちゃいけないモノだったとあとで知るわけだが。

本当に遅いよ! 色々先に知っておいてから番いになりたかったよ! と思っても後の祭りだが。

皆にガン見されながら満足いくまで食べてホッと一息吐いた。
最後にサイファが俺の口をナフキンで拭ってくれた。む、果汁が付いてたかな?

「ご馳走様でした」
「美味かったか?」
「そりゃあもう! アレってこの国で採れる果物?」

あの小島にはなかったと思う。カットされた状態だから元の形は分からないけど、味はこっちの世界に来て初めてのモノだったし。

「そうだな。竜人の国は割と南にあって穏やかな気候だから果物は豊富だ」
「なるほど」

ほうほう。それは過ごしやすくてよき。
さて、お腹が膨れて満足したので。

「じゃあサイファ、色々と説明をお願いしますよ」
「分かった」

───そうしてサイファから聞いた話に俺は顔色を真っ青に変えた。いやもふもふで見えないけど、何なら真っ白だったかもしれない。比喩でなく。

「・・・・・・つまり? 俺に真名を贈った時点で魂の番いというのになって、死ぬときも一緒で? えーと、来世でもまた番いになるってこと?」
「そうだな」

ちょっと待て。

要約すると、番いになるということにはいくつかパターンがあるそうだ。

ただ単に相手の首を咬んで伴侶になるだけというのが一つ。これは主に結婚してるよという印の意味合いで、寿命はそれぞれ元のまま。
しかし竜人のように長寿の種族が相手だと、他種族の番い相手は当然あっという間に先に死んでしまうので寿命合わせという裏技があるそうだ。

そこで重要になってくるのが真名。

竜人の場合は番いだけが呼べる真名を持って生まれるそうで、生まれた瞬間に本人と親兄弟の頭に浮かぶらしい。
ただ知ってても文字におこしたり口には出せないそうで、通称というか愛称のみで呼び合うそうだ。

そんな真名を番いに教えることで魂が繋がり、どちらか寿命が長い方にあわせるように相手の身体が変化するのだとか。

「・・・・・・それで、変化するために俺はひと月も眠っていたってこと?」
「そうだ。過去の例を見てもおおよそひと月で目覚めるとあったから、ウチに連れて来て世話をしていたわけだ」

ふむふむ。あの猛烈な睡魔はそれが理由だったんだ。よかった、具合が悪いわけじゃなくて。
でももう一つの疑問が。

「寿命は分かったけど、来世でも番いっていうのは? 普通はそういうのないんでしょ?」

普通は来世でも番えたらラッキーくらいだよね? 確定じゃないよね?

「それは・・・・・・ほら、ラナトは名前がなくて、俺に付けてくれって言ったろう? それで俺が真名を贈ったから・・・・・・」
「・・・・・・え、それで普通よりもガッチリ魂が繫がっちゃったってこと!?」
「・・・・・・だな。俺もそういうことがあるらしいと耳にしたことがあっただけで、半信半疑だったんだが───」
「───事実だったというわけだ」

サイファに被せるようにシヴァがそう言った。

「来世でも番いのままということで、生まれ変わるのも一緒、生まれる場所もごく近くですぐに番と分かるように印も付いてるらしいよ」

どんな印かは知らないけどね? と笑って言った。

「さっき言ったように俺も半信半疑で、事前に説明もなく悪かったと思ってる。でも───もし来世でも別世界で生まれ変わって会えないかもって思ったら、いても立ってもいられなくて・・・・・・イヤだったか?」

そういうサイファにちょっと考えるも、全くイヤな気持ちにはならないな。
じゃあ来世でも番い、いいんじゃない?
俺、よく能天気って言われたけど、ちゃんと考えてるよ?

「いや? 全然イヤじゃないけど・・・・・・もしかして俺のあの話、皆にもしたの?」

サイファに話した奇想天外な転生の話を?
そう言ったら、不安に揺れた瞳でヘタレな顔になったサイファ。
それでもイケメンだな、このヤロウ!

「・・・・・・君に断りもなく、すまなかった。でも、君の状況を説明するには話すしかなくて」
「あー、別に責めたり怒ったりするわけじゃないよ。ただ信じて貰えるのかなって?」

そういう俺の方の不安が若干あるだけで、サイファに怒ったりはしないよ。

「それは大丈夫! ちょうど帰ってきたとき神から神託があったと神官長が来て教えてくれたから」

サイファが慌ててそう言って、皆もうんうん頷いた。

───はぁ!?

「え!? 神様のお告げ!? ナニソレ、俺のときは時間がないだの言って雑に転生させておいて、一年間ほったらかしで今頃後出し!? しかも本人以外に!? ふざけんなよ神様!」

思わず悪態を吐いたら、何もない空間からひらりと一枚の紙が降ってきた。
サイファが受け止めてサッと目を通すと、苦笑して俺に見せてくれた。

それを読んで、俺は眉(の場所)を寄せて渋面になった。

『ごっめーん! 君にはお詫びにのんびり過ごして欲しくて色々と説明省いちゃったんだ! でも神域に長くいて影響がちょっと出ちゃってたから急いだのは本当のことだから許してね。でもおかげで人化する特殊なカーバンクルになって幸運値EXだから、彼と幸せになること確定! おめでとう!』

「・・・・・・紙のように軽い神様だな、だけに」
「───ふはっ!」

俺のぼやきを聞いてサイファが吹き出し、周りで見守っていた王様達がなんだなんだと手紙を回し読んでやっぱり苦笑い。

読み終わると最後はふわりと跡形もなく消えた手紙。

俺はしばらくムスッとして、サイファは宥めすかすことを口実にずっと俺の毛並みをもふってスーハー吸っていた。






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