男前で何が悪い!

エウラ

文字の大きさ
上 下
49 / 54

48 一時帰国 2

しおりを挟む

ロルフの生国エーデルシュタインまでは大森林を大幅に迂回する街道を通って行くらしい。

「えー、突っ切れば早いのに」

面倒くさがりな俺がそう呟けばロルフとダート、スレッドはすぐさま反応した。

「お前なあ、冒険者でもない普通の一般人があんなトコ突っ切れるわけないだろう」

俺だって相当ヤバいのに──とはロルフ。まあ、そもそも突っ切れたところで関所は大通りの一カ所だけなんだし意味ないか。

「だいたい冒険者だって一歩入れば魔獣の餌食になるっての」

ダートも頷きながらそう言う。

「まあ何とかなりそうなロルフも大概だけど、セッカの強さはもう別枠だよね」
「それな! 本当に人族かよって思うわ!」

しまいにはスレッドの呆れた声での人外発言に同意するダート。そんなに?

「・・・・・・そういう自覚がないトコロも含めてもの凄く心配なんだよ、セッカは」
「ごめん?」
「分かってないのに謝らないで」
「ご、ごめんて!」

実際、言ってる意味が分かっていなかったのでそれもそうかと思い直す。
そんな会話をしながらのんびりと街道を歩いていく一行。

「でも、時間がかかってもこうしてのんびりと行くのもいいな」

俺がそう呟くとロルフ達も頷いた。

「だろう? 何かこう、今まで焦りながら忙しなく過ぎていく日々だったからさ。すげーのんびりとできていいよな」
「特に9年前の事件のあとはロルフだけでなく俺達や辺境伯家も慌ただしかったからね」
「・・・・・・あー、あの頃は荒れてたな。悪かったなと思うよ」

ロルフに至っては思うところがあったのか、もの凄く申し訳なさそうな顔だった。
それを見て俺も思う。

「俺もさ、記憶喪失で生き残るためにがむしゃらに冒険者ランク上げて何かから逃げる生活に疲弊してたから、そういう余裕のない心っていうのは凄く分かるよ」

だから今、すげー幸せ。

そう言ったらロルフが破顔して、ダート達も和やかに笑った。

『お前ら、何やら楽しそうだの?』
「あ、お帰りコハク。どうだった?」
『うむ! 上々だっ!』

そこにご機嫌な様子で戻ってきたコハク。今は小型の鳥型魔獣に擬態している。たぶん大森林では元のグリフォン姿で暴れてきたのだろう。
少し前にコハクが大森林に自分の食い扶持を狩りに行くと言うので、ついでに俺達の分も頼んでおいたのだ。これは今夜は期待できそうか!?

「何を狩ってきたんだ?」
『色々よ』

ダートが興味津々でコハクに聞くので、ひとまずこの先の休憩所に行ってからと足早に向かった。

夕方には少し早いが休憩所にはすでに一組の冒険者パーティーが野営の準備をし始めていた。よく見ると商人の荷馬車があり、その商人の護衛らしい。

「やあ、俺達も隅を使わせて貰うよ」
「あぁ、構わない。俺達はエーデルシュタインに帰る商人の護衛なんだ。あんたらも向こうに?」
「俺達も向かうところだ。今夜はよろしく」

人当たりのいいスレッドがそう声をかけると向こうも手を上げて応えてくれた。
彼らとは反対側の離れた場所に向かうと、俺は大きな防水加工された布をインベントリから取り出して地面に広げた。

ソコに獲物を出して貰う。

「コハク、ここに出していいよ」
『おう、じゃあまずそこそこデカいのをな』
「何が出るやら?」
「楽しみだっ!」
「・・・・・・ここに乗るよな?」
『たぶん?』

俺が広げた布は一応五メートル四方あるんだが、ちょっと心配になってきたな。直接俺のインベントリに収納した方がいいのでは?
そんな俺の心配を他所にデンっと自分のインベントリから今夜の食材の一部を出したコハク。

・・・・・・うん、一応乗った。でも尻尾がはみ出てるぞ、おい。

「・・・・・・セッカ」
「うん」
「サラマンダーに見えるんだが・・・・・・」
「そうだな」

どうした、ルゥルゥ? サラマンダーと言っても火を吐く大きなトカゲだ。翼竜ではないのでそんなに驚くモノじゃない・・・・・・はず。

「肉は脂身が少なくて淡白で美味いぞ」

キョトンとしてそう言う俺にロルフがギョッとした。

「まさか普通に食うのか!?」
「え? 食べないのか?」
「いやいや、そもそも滅多に流通しないからな! 見付けるのも大変だが討伐も大変だから!」
「・・・・・・マジ?」
「はー、コレだからセッカは・・・・・・」

そんな俺達のやり取りを呆然と見つめる護衛の冒険者パーティーと、目をキランと光らせるやり手っぽい商人の青年。

「───マジかよ」
「俺、まるっとほぼ無傷のサラマンダー、初めて見た・・・・・・」
「・・・・・・有り得ない」
「何なんだ、アイツら」
「───コレは是非お近づきにならねば!」

顔を引き攣らせる冒険者パーティーを他所に、千載一遇のチャンスとばかりにセッカ達に向かう商人の青年だった。





※基本ソロでコハクと行動するセッカは記憶喪失で常識知らずなので何が凄いのか分かってません。普段はそもそもインベントリにさっさと収納して、コハク曰くの便利な自動解体しちゃってるので(一話目参照)誰かに現物を見せることがほぼなかった。






しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

一日の隣人恋愛~たかが四日間、気がつけば婚約してるし、公認されてる~

荷居人(にいと)
BL
「やっぱり・・・椎名!やっと見つけた!」 「え?え?」 ってか俺、椎名って名前じゃねぇし! 中学3年受験を控える年になり、始業式を終え、帰宅してすぐ出掛けたコンビニで出会った、高そうなスーツを着て、無駄にキラキラ輝いた王子のような男と目が合い、コンビニの似合わない人っているんだなと初めて思った瞬間に手を握られ顔を近づけられる。 同じ男でも、こうも無駄に美形だと嫌悪感ひとつ湧かない。女ならばコロッとこいつに惚れてしまうことだろう。 なんて冷静ぶってはいるが、俺は男でありながら美形男性に弱い。最初こそ自分もこうなりたいと憧れだったが、ついつい流行に乗ろうと雑誌を見て行く内に憧れからただの面食いになり、女の美人よりも男の美人に悶えられるほどに弱くなった。 なぜこうなったのかは自分でもわからない。 目の前のキラキラと俺を見つめる美形はモデルとして見たことはないが、今まで見てきた雑誌の中のアイドルやモデルたちよりも断然上も上の超美形。 混乱して口が思うように動かずしゃべれない。頭は冷静なのにこんな美形に話しかけられれば緊張するに決まっている。 例え人違いだとしても。 「男に生まれているとは思わなかった。名前は?」 「い、一ノ瀬」 「名字じゃない、名前を聞いているんだよ」 「うっ姫星」 イケメンボイスとも言える声で言われ、あまり好きではない女のような名前を隠さずにはいられない。せめて顔を離してくれればまだ冷静になれるのに。 「僕は横臥騎士、会えて嬉しいよ。今回は名前だけ知れたら十分だ。きあら、次こそはキミを幸せにするよ」 「はい・・・おうが、ないと様」 「フルネーム?様もいらない。騎士と呼んで」 「騎士・・・?」 「そう、いいこだ。じゃあ、明日からよろしくね」 そう言って去る美形は去り際までかっこいい姿に見惚れて見えなくなってから気づいた。美形男のおかしな発言。それと明日?? まさかこれが俺の前世による必然的出会いで、翌日から生活に多大な変化をもたらすとは誰が思っただろう。 執着系ストーカーでありながら完璧すぎる男と平凡を歩んできた面食い(男限定)故、美形であればあるほど引くぐらいに弱い平凡男の物語。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

箱庭

エウラ
BL
とある事故で異世界転生した主人公と、彼を番い認定した異世界人の話。 受けの主人公はポジティブでくよくよしないタイプです。呑気でマイペース。 攻めの異世界人はそこそこクールで強い人。受けを溺愛して囲っちゃうタイプです。 一応主人公視点と異世界人視点、最後に主人公視点で二人のその後の三話で終わる予定です。 ↑スミマセン。三話で終わらなかったです。もうしばらくお付き合い下さいませ。 R15は保険。特に戦闘シーンとかなく、ほのぼのです。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

処理中です...