男前で何が悪い!

エウラ

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34 水底に沈む記憶の中で

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深く暗い水底にゆらゆらと沈む小さい身体。

喪ったはずの記憶。

忘れたはずの思い出。

水の中で、アシェルが微笑んでいる。
目の前にはアシェルと同じ黒い髪に、でもアシェルとは違うルビーのような紅い瞳の、少し痩せて大人しそうな男の子。

『ようこそウェイバー家へ。僕はアシェル。君と同じアルファだ。歓迎するよ、リアム。今日から君は僕の義弟おとうとだ。仲良くしようね』

そう言って握手を交わすアシェルの表情は、慈愛に満ちた、でもどこにでもいる普通の子供の顔だった。

『・・・・・・よろしくお願いします』

おずおずと手を握り返すリアムと呼ばれた子供は、顔を真っ赤にして俯いた。

『よろしくね、リアム義兄様。僕はルカです。オメガなんだ!』

隣にいた、アシェルと同じ黒髪に銀の瞳の末の弟がリアムに飛びついてぎゅっとした。

リアムは驚いてルカと一緒に倒れ込んだ。

『ルカ、危ないじゃないか! 気を付けないと怪我をするよ』
『えへへ、嬉しくてつい・・・・・・ごめんなさい』
『大丈夫? えと、ルカ君』
『えー? もう家族なんだし、ルカって呼んで欲しいな?』
『そうだよ。僕もアシェルで良いよ』
『・・・・・・ルカ・・・・・・アシェル・・・・・・』

そう言われてニコニコするアシェルが見えた。



───その後は、何故か暗い表情のアシェルばかり・・・。

アシェルの部屋だろうか。
ベッドのシーツに潜って泣いていた。

『・・・どうして。僕は何もしてない・・・。知らない。でも誰も信じてくれない・・・・・・』

違う日。

『リアムに、罵倒していたなんて・・・アレはただ気を付けるように注意しただけで・・・。ソレなのに・・・何故?』

部屋の隅で声を押し殺し、泣いていた。



───いつの間にか、何故か家の中の誰もがアシェルを悪者にしていた。
誰も信じてくれない。
庇ってくれる人はいない。

実の親でさえも、アシェルを嫌悪の表情で睨んでいた。

間もなく敷地内の別邸に一人閉じ込められて、無機質に掃除や食事の配膳をして去って行く使用人をただただ無言で眺める日々。

この別邸に移ってからは義弟リアム実弟ルカさえも、寄り付かなくなった。

たった一人。
話し相手なんて当然いない。
そこそこの広さの邸にたった一人の10歳の子供アシェル

誰もがアシェルを無視する。
空気のように、誰も目を合わせない、声もかけない。

当然、アシェルから行動して声をかけても素通り・・・。
だから声をかける事を諦めた。

『僕が何をしたって言うの?』

困惑と絶望。

知らないうちに、アシェルの居場所はとっくに無くなっていた。

たった一つ。

生誕祭だから仕方なく、という理由で一人別行動だったが、王都に連れられて。

王都の国王陛下の生誕祭でたまたま知り合った辺境伯の連れていたロルファングというアルファの子。
ルゥルゥと呼ばせてくれた彼。

二人でこっそり王都を散策したたった2日足らずの逢瀬。

その一時だけが幸せだった。


馬車での転落事故の時、思ったのはルゥルゥの事・・・・・・。


───ごめんね、ルゥルゥ。



───僕は、またね、が、もう出来ない。



───さよなら。



───大好きだったよ。











『───ッカ』

『・・・セ・・・・・・セッカ』

『愛してる』

『目を覚まして』


───優しい声。

暖かい、耳障りの良い声。

俺が大好きな人の・・・・・・。


「───セッカ・・・!」
「・・・・・・ルゥ・・・・・・?」


セッカがゆっくりと目蓋を開けると、綺麗な銀髪にアイスブルーの瞳の、俺が愛した愛しい男の顔がぼやけて映った。

「・・・・・・セッカ、良かった・・・泣いてるから、何処か辛いのかと・・・・・・」
「・・・・・・え?」

そう思って顔に手をやると、頬が濡れていた。

「───ああ、夢じゃ無かったんだ・・・」

ポツリと呟くセッカ。

「───セッカ?」
「・・・・・・ルゥに、逢えないと思って。馬車での転落事故の時、ごめんねって・・・ルゥに、泣いてた」
「・・・ソレって・・・」
「・・・・・・全部じゃ無いけど。所々、夢で見た感じ・・・。王都の生誕祭で、会ってたんだね、俺達。・・・・・・凄く幸せだった」
「・・・っああ、俺も。あの時またねって別れたのに、逢えなくなって・・・。今度もまた、逢えないかと・・・っ」
「───探してくれてたんだな。ありがとう。ごめんね、勝手に消えちゃって」
「セッカのせいじゃない」

そう言ってぎゅうぎゅうと抱き締めるロルフに、愛おしい気持ちが溢れてくる。

「ルゥ、顔をあげて?」
「・・・?」

キョトンとしているロルフの唇にチュッと自分の唇を重ねるセッカ。

「迎えに来てくれてありがとう」


そう言ってセッカは満面の笑みを見せた。








※ちょっと辛い記憶でした。アシェルの記憶の一部を夢で見た感じです。
実は奥底には残ってるんです。という話でした。











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