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32 真祖の吸血鬼情報網(ヴァンピールネットワーク) 3
しおりを挟む「アイスの村と今回の件が繋がっているだって?」
ロルフが眉を顰めてアルカードに問う。
「おお、そうよ。先に話した行商人を覚えているだろう? とある貴族が接触していたのがその行商人でな。その時に購入した薬が『悪魔の吐息』で、それを別の貴族家の使用人だったアレに媚薬と触れ込み持たせてこの邸に潜り込ませた。おおかた元の雇い主に、その使用人は真面目でよく働くから辺境伯家に推薦すると良い、とでも言いくるめたのだろう」
「・・・紹介状を書いた貴族家は、今時珍しく策を巡らすような腹黒いことが苦手な家だったので、鵜呑みにしてしまったが・・・そうか。本人達は単なる善意で寄越したのか」
アルカードの言葉に、オーウェンが溜息を吐いた。
「それで、ロルファングに横恋慕していたアレが、今回セッカが来ることを知って行動に移したと。・・・・・・それもまあ、とあるヤツの指示で動いていたようだが」
「───そこも知ってるんですか?!」
「吸血鬼の情報網を舐めるなよ? ───あの行商人はな、ある貴族家の影が一般人に扮した仮の姿だ。ただ、その影が誰の指示で動いているのかまではまだ、なあ・・・」
ニヤリと笑ってアルカードは言った。
しかしその後、表情を消す。
「その貴族の名前は───」
「・・・・・・名前は?」
ロルフ達はその様子にイヤな予感を覚えた。
背筋を冷たい汗が伝う。
「───ウェイバー。ウェイバー侯爵家だ」
───辺境伯家に沈黙が落ちる。
───もしかして、という気持ちが無かった訳じゃ無い。
アシェルが馬車の事故で行方不明になったときも、のらりくらりと時間をかけるばかりでなかなか捜索に力を入れない。
それどころか、魔獣に襲われた痕跡を認めてからはすぐに捜索を打ち切り、俺や辺境伯の問い合わせにもおざなりな対応で。
───これは形見分けです。どうぞお納め下さい。
そう冷たく告げて渡された細い鎖の切れた、血の付いたブレスレット。
プレートには『アシェル・ノーチェ・ウェイバー』の刻印・・・。
信じられなくて辺境伯卿も手を尽くしてくれたが、生きている痕跡すら無く・・・。
それでも絶対生きていると、俺だけは信じていると。
そうして一年前、奇跡の再会と記憶の無い事実に感情は上がったり下がったり忙しなかったが。
───これから思い出を作って記憶に残れば良いとグイグイいった結果、セフレ認識と知ったときの俺の絶望とセッカの戸惑いを経て、漸く結ばれたのにここに来て・・・。
「───実の家族に・・・?」
ロルフの声が掠れた。
「・・・どうやら、事故の数ヶ月前から急にアシェルと他の家族との折り合いが悪くなったらしい。そこは幾ら吸血鬼の情報網といえどもさすがに詳しくは無い。が、アシェルは我が儘で傲慢で差別的だ、後継に相応しくない、弟が後継になるべきだという噂が漏れ聞こえていたようだな。・・・ソレが事実かどうかまでは分からんが・・・おそらくは・・・」
「───冤罪。アシェルは・・・セッカはそんな子じゃ無い」
きっぱりと言い切ったロルフ。
オーウェンも過去、実際に接触していたからか、同意するように頷いた。
アルカードも一つ頷く。
「・・・そうだな。俺もそう思うよ。・・・それともう一つ。例の、セッカを調べるために使われた魔力が籠められた魔石だが、持ち主は弟のリアムだ。───弟といっても、元孤児でアルファだと分かってウェイバー侯爵家で養子に取った義理の弟だがな。事故の半年前頃に引き取られている」
「・・・・・・ではその義弟が・・・?」
「どうだろうな? 当時引き取られたばかりで8歳だったと聞く。今回の件に関係したとしても不思議では無いが、アルファとはいえ当時はまだ何も出来ない子供だろう」
「・・・・・・そちらは別の誰かが・・・ということも」
「有り得るな」
そこまで言ってからアルカードは腰を上げた。
「さて、ひとまず俺は帰るぞ。用件は済んだしな」
「───・・・・・・有用な情報をありがとうございました」
「セッカに会わせろとは言わんのか?」
「・・・・・・追い詰めたのはこちらです。どの面下げて・・・言えるわけが無い。探すなら自分の力でやります」
「・・・・・・ふむ。及第点だな。良かろう。さっきセッカの魔力が付いたネックレスがあると言ってたな?」
「あ、はい、こちらに・・・・・・」
スレッドが慌ててアルカードによって差し出すと、彼は謳うように何かを呟いた。
するとネックレスが仄かに光った。
「・・・ほれ、セッカの半径100mに近付くと反応するように魔法付与してやったから。ヒントは『大森林』。励めよロルファング。ではな。ふふふ」
そう言って笑ってロルフに投げ渡すと、来たときと同じように唐突に消えた。
「───へ?」
「・・・・・・嵐が来たようだったな」
「『大森林』って言った?! あの大森林?! セッカ、そんなところに逃げ込んだの?!」
「───つか、せっかく付与してくれたけど半径100mって、狭くね?」
「セッカなら近付くと1キロ先からでもバレるだろ!!」
「絶対アレ、探させる気ねえよな。しかも大森林って・・・・・・どんだけ広くて危険だと思ってんだよ」
「マジかぁ・・・」
周りが騒いでぶつぶつと言っている中、ロルフはネックレスを黙って握っていた。
「・・・・・・ロルフ?」
スレッドが気遣わしげに声をかけると、ネックレスを大事そうに首にかけた。
「───これだけでも、セッカを身近に感じられるから、良い。・・・・・・頑張る」
魔石に口付けを落としてそう呟いた。
───次は逃がさない。
その瞳は昏く輝いていた。
※手助けに来たけど引っ掻き回してもいったアルカードでした。
一人でくふくふと笑っていることでしょう。
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