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40 短い逃避行と再会
しおりを挟むロルフと再会したあと、嬉しくて思わず自分から口付けをしてしまい、ロルフが固まるという事態になってしまった。
しかしすぐ硬直が解けたロルフから熱烈な抱擁を受けて、苦しさのあまりロルフの背中をタップして、弛んだ腕にホッとひと息つく。
そして話を聞くと、どうやら毒を盛られて逃げたあの日から、ずっと俺は眠っていたらしい。
・・・・・・うん、思い当たるのは不貞寝という名の現実逃避。
おそるおそるコハクに尋ねる。
「・・・俺、一体どれくらい寝てた?」
『およそひと月、かの』
「え”、マジ?」
『マジ』
「───え、ガチで眠りっぱなしだったのか、セッカ?! その間、絶食だよな?! 何処か身体の異常は・・・?! そういえば窶れたような───」
コハクがしれっとセッカが眠っていた期間を応え、それに唖然としていたら慌てたロルフに全身をくまなくチェックされた。
いや俺、窶れたか?
空腹感も無いし、自分じゃ分からん。
「・・・コハク?」
『いやあ・・・どうだろう? 最低限の生命維持活動はしてたようだが、うむ・・・言われてみれば多少は痩せたかも・・・?』
うへえ。
つまりは仮死状態の様な感じだったと?
無意識とはいえ、俺、凄えな・・・じゃ無くて!
「・・・・・・ルゥルゥ、俺のこと、ひと月も探してくれたんだ」
其れを実感したら、何とも言えない歓喜がじわじわと湧き上がってきた。
何なら若干、瞳が潤んでいる気もする。
「もちろん、当然だろう! 本当はもっと早く見つけて会いたかったが、色々と問題をだな、片付けていて・・・いや、言い訳だな。すまない、遅くなって」
「そんな事ない。・・・嬉しいから。目覚めて最初に顔を見られたのがルゥルゥで良かった」
「───セッカ・・・愛してる!」
ロルフも思わず、という感じでセッカに抱き付いた。
「ふふ、俺もだよ。・・・詳しい話、聞いても良いか?」
「───・・・あまり気持ちの良い話では無いが」
「・・・それでもだ。事実を認めた上でアシェルの過去と決別したい・・・。俺の我が儘だな。ルゥルゥと一緒に、この先の未来を歩きたいんだ」
そう言うと、より一層強く抱き締められた。
───大丈夫。
もう、絶望して泣いていた小さなアシェルはいないから。
これはロルフと共に前を向いて生きていくための必要な試練。
「もう、怯えて逃げ続けなくて良いなら・・・俺はルゥルゥとずっと一緒に、いたい。死ぬまで」
「・・・・・・分かった。俺と共に歩む未来のために、全てを詳らかにしよう」
そうしてリビングに移動したセッカ達は、お茶を淹れ、軽く軽食を食べながらロルフから事の次第を聞いた。
コハクは情報をすでに得ていたようで驚いた様子はみられず、黙々とセッカの料理を頬張って平らげていたが・・・。
『ひと月も我慢したのだ! 好きなだけ食わせろ!』
「・・・お前、俺の心配より飯の事かよ」
「コハクらしいな」
呆れたようにツッコむセッカにロルフが笑って言った。
コハクは食べるのに夢中で我関せず。
眠る前にあった当たり前のような何時もの日常に、殺伐としていた空気が霧散して、笑いが溢れた。
ロルフから聞かされた内容はあまりにも理不尽な、酷い話だった。
以前のアシェルだったら胸を痛めるものだったが、セッカとしての記憶が甦りアシェルの記憶が薄い今となっては、客観的な感想しかでない。
───まあ、直近で殺されかけたことはさすがに多少の傷にはなったが、おかげで根本的な元凶は排除され、コレからは不安な影に怯えずに済む。
それがセッカには嬉しいことだった。
「ルゥルゥ、そういえばどうやってここを探し当てたんだ?」
今更な疑問を投げかけるセッカ。
ここは自分も初見の場所で、大森林の結構奥の方なのだが・・・。
強力な魔獣もいるため、結界も張っていて見つかりにくいはずだった。
「ああ、まあ・・・・・・それは、獣化して匂いを、だな・・・・・・辿って・・・・・・」
「───え、そんな、匂いって分かるのか?! でもそういえばイヌ種の嗅覚ってめちゃくちゃ鋭いって聞いたような・・・。あれ、俺そんなにヤバい匂いとかしてる?!」
言い辛そうに目を泳がせてちょっと頬を赤らめるロルフを見て、驚きのあまり焦って自分の腕やシャツをくんくんと嗅ぐセッカ。
「いやいや、逆に良い匂いで! その・・・発情期の時に香る匂いがだな、仄かに・・・その・・・・・・スマン」
「───・・・・・・うそ」
「・・・・・・」
ロルフも焦って、言わなくても良いことまで思わず口走ってしまう。
セッカは唖然呆然。
・・・・・・ていうか、そんな匂いまで分かるんかーい!!
セッカは心の中で叫んでいた。
───そういや、ロルフは何時も的確に俺の発情期を把握していたが、それってそういうこと?!
発情期が近付くと匂いが強くなるそうで、そろそろだなと準備しているのだとか。
───いやそれ、一体どんな準備だよ?!
コハク以外は気まずい空気を醸し出す二人だった・・・。
※思ったよりも短い逃避行でした。皆様は短く感じましたか? 長く感じましたか?
自分は最初、1年を想定してました(笑)ので、早い印象です。
※セッカは普段はルゥルゥと愛称呼びで心の内では主にロルフと呼んでるのですが、ゴッチャになってしまって普段の口調もロルフになってました。
ボケまくってますね、スミマセン。訂正しておきました。
応援ありがとうございます!
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