男前で何が悪い!

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28 怒髪衝天(side辺境伯家)

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怒髪衝天どはつしょうてんは、怒り狂う形相のこと。




「───どういう事だ、コレはっ!!」


今、ロルフ達はセッカにあてがわれた客間に集まっている。

少し前、セッカを晩餐に誘うべく執事のマーカスに声をかけたら、セッカは疲れたので部屋で一人で食事を摂りたいということで、パンテルが部屋に料理をサーブしたという。

自分達ならいざ知らず、セッカは幾ら鍛えようとも人族でオメガだ。
やはり疲れが溜まっていたのだろう、今晩は残念だがゆっくりさせてやろう、と気を利かせたのだが・・・。

さすがに自分達の食事を終えてもセッカに何の動きも無く。
もしや疲れ果ててもう眠ってしまったのかと心配になり、厨房にセッカの食事を確認すると、食器はまだ下げられていないという。

セッカの世話役につけたという侍従に確認を取ろうと探すも見つからず、マーカスに事情を説明して一緒にセッカの部屋へ向かったのだが・・・。


───ここで冒頭に戻る。


セッカの部屋には料理が手をつけられずに残っており、寝室やトイレ、クローゼットなどにももちろんおらず、浴室かと向かえば、脱衣所に残る、男娼が身に纏うようないかがわしい薄絹の下着とシャツが手を触れた様子も無く置かれていた。

そしてセッカの代わりに隣の空き部屋に隠れるように潜んでいた世話役のパンテルを見つけたのだ。

───コイツ、知らない顔だな。

もっともロルフ達はこの一年は数回しか邸に戻っていないため、新しく雇用された新顔にはほとんど面識がないのだが。

「お前はマーカスがセッカにつけたという世話役か? こんなところで何をしている。セッカはどうした。何故脱衣所にこんな服がある? 何故、料理がそのまま手付かずなんだ? セッカは、何処へ行った?」

立て続けに問うロルフに、一瞬ぽおっと顔を赤らめてから、悲壮な声と顔でロルフ達に訴えた。

「あのっ、あの方が・・・僕をこの部屋に追い出して・・・衣服も食事も、あの方の指示です! 服は、あんな恥ずかしい、いかがわしい服を用意しろ、食事もここで食べるから用意しろと。僕は、その後、追い出されてしまって、後は分かりません・・・!」

ぽろぽろと涙を流すパンテル。
だがロルフ達は冷めた目で見下ろすばかり。
パンテルは焦って、更に言い募る。

「さ、さっきから、あまりにも静かなので怒られるのを覚悟して、扉を開けて覗いたんです。そうしたら、もう、どこにもいなくって・・・。服も料理も、僕には何故か、触れなくって・・・!」

それを聞いたスレッドが軽蔑したようにパンテルを見下ろす。

「───ふーん、そう。触れなかったんだ?」
「そうです! きっとあの方の魔法で・・・」
「ああ、セッカの魔法には違いない。俺達以外は魔法で弾かれるように構築されてる。・・・証拠隠滅を恐れたんだろうな。こんないかがわしい服を用意されて、食事に盛られたんだ。お前が破棄して証拠を消さないようにしたんだろう」
「───何、を、言って・・・・・・?」

パンテルは青い顔で声を震わせた。
ダートも心底軽蔑したように詰問する。

「誰とつるんでいたんだ? 動機は?」
「・・・・・・え?」
「セッカは心が清らかでこんな服は着たことが無いし持ってもいない。食事も勿体ないからと食べ残して捨てるなんてしない子だ。ソレが一口も手をつけていない。・・・・・・ソレは食事に、身体に良くないモノが混入されていたからに他ならない」

ロルフがつらつらと説明をした。
そして食事に盛られたモノを断定しているようだ。

「───嘘だ! 分かるもんか、だってアレは獣人でも気付けない、無味無臭だってアイツが言って・・・・・・あっ!!」

パンテルが慌てて口を塞ぐが、時すでに遅し。
ロルフが絶対零度の眼差しを向けた。

「───やはり盛ったんだな」

そこに詳しく鑑定をしていたスレッドが驚くべき事を言った。

「ロルフ、コレ・・・・・・全ての料理と飲み物にも致死量の毒が入ってる。しかもコレは『悪魔の吐息』だ」
「───!! ほんの一滴で竜種も殺せるという、アレか?!」

ダートが思わず叫ぶ。
その毒薬は本来、凶悪で災害級の魔物に使うために開発されたモノで、冒険者でさえ簡単には手に入らない代物だった。

「───う、嘘だ! だってアイツが言ってたもの!! ちょっと発情させる媚薬だって! それで誰彼構わず咥え込めばロルフ様と、破局するって───!! だからっ!!」
「・・・・・・だからこんなことをしたと?」
「だって・・・・・・僕は、ロルフ様が・・・好きで」
「お前、何なの? 俺はお前なんか知らないけど。大体、何時ここの使用人になったんだ?」
「・・・マーカス?」

ここに来てやっと口を出したオーウェン。
どういう事だとマーカスに無言で圧をかける。

「───申し訳御座いません。私の調査不足で御座いました。とある貴族家からの推薦状をお持ちでしたので・・・。処分は如何様にも・・・」

そう言うマーカスの顔には後悔の念が浮かんでいた。
温泉を素直に喜ぶ可愛らしいセッカの笑顔がちらつく。

「・・・最終確認をしたのは俺だ。今回の事は俺にも責任はある。今はソイツの背後を洗い、セッカ殿を探すことが急務だ」

そうオーウェンが指示を出す。
先ほどから静かなダートとスレッドが困惑気味にロルフに告げた。

「・・・・・・ロルフ、念話でコハクと繋がれねえか? 俺達じゃ繋がらねえんだが・・・」
「俺も全然・・・どうしよう。困るよ」
「---俺もさっき、一瞬繋がったが・・・と言って一方的に切られた・・・」
「・・・そうか。ロルフでも拒絶されたか。・・・・・・はっ、仕方がねえよな。護るっつって懐に入れといて、そこで早速死にかけてるんだもんな」

自嘲気味に笑うダート。
スレッドも苦渋の表情だ。
ロルフは握った拳から血を滴らせている。

そこでオーウェンが動く。

「とにかく今はやれることをやるぞ。そしてセッカ殿を探し出したら、彼の気の済むまで怒られよう」

その言葉で皆が各々、役目を全うするため動き出した。

「───あと、シュネー・・・!! 隠れているのは分かっている。即刻出て来い!! この大馬鹿者めが!!」
「───ヒエッ?! お、親父・・・バレて・・・」
「当たり前だ!! 今、この家にいる家族はアルスレッドの他にお前だけだ! 奸計をめぐらすヤツは他におらんだろうが!! このたわけ!!」

パンテルが隠れていた部屋にはもう一人・・・。

辺境伯家の三男であるシュネーが気配を殺して潜んでいた。
すごすごとベッドの下から現れたのはスレッドに似た青年・・・シュネーである。

「お前のせいでセッカ殿が行方を眩ませた。申し開きは?」

先ほどから威圧をガンガン飛ばすオーウェンに今度は静かに問い詰められ、コレはかなりのお怒り具合だと、シュネーは涙目になって呟いた。

「・・・・・・す、すみませんでした・・・・・・」




※予約忘れてました。
次話も主に辺境伯家視点です。たぶん。















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