男前で何が悪い!

エウラ

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25 いざ、旅立ちの時

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翌日、回復したセッカはロルフと共に冒険者ギルドに顔を出して依頼達成の報酬を確認していた。
ダート達は準備でいない。

「セッカさん、ご無事で良かったです」
「・・・ああ。無事・・・うん、無事だったかな・・・」

受付のお兄さんに曖昧な返答をして苦笑するセッカ。

───アレを無事だったとは言うまい。
いや誰にも言わんけど。

「そういえば近いうちにロルフさん達とフォルセオを出るんですって? その為にセッカさんともPTパーティー登録するって、ね? ロルフさん」
「ああ。ついでに今、頼む」
「そうだな。じゃあ、はい。ギルドカード」
「はい。じゃあ手続きするのでお待ち下さい」

受付のお兄さんが手続きしてる間、ぼーっとギルド内を見回す。

───ここに一年もいたんだなぁ・・・。

自分が狙われているらしいとの野生の勘で、一カ所には長く留まることはなかった。
精々が一月、長くても三月ほど。
目立たぬように依頼も地味なものを受けてのランク上げはかなり時間も労力も必要だった。

やっとAランクに上がり、移動しようとした矢先のあのスタンピード・・・。

ルゥルゥに助けて貰えなければ、あそこで命を落としていたかもしれない。

───ロルフの側は居心地が良くて、離れがたかった。

たとえセフレだとしても、あまりにも心地良すぎて・・・いつの間にか・・・。

「───好きだったんだな」
「・・・え?」

隣のロルフが剣呑な顔になって、セッカはハッと気付いた。
ロルフ、もしかして受付のお兄さんの事だと思った?!

「ああ、そう言うんじゃ・・・、えっと、いつの間にかルゥのこと好きになってたんだなって事を思ってて・・・」
「───! そ、そうか・・・嬉しい」

ちゃんと訂正したおかげで、勘違いからの流血沙汰&お仕置きコースを免れてホッとするセッカ。

気分良くニコニコするロルフを見て、内心で溜息を吐く。

───あー、面倒くせえ。

元から面倒事が嫌いなセッカだったが、その中でも一等、コハクよりも面倒臭いと思った。

だが、好きになっちまったんだから仕方がないか・・・と苦笑するに留めたのだった。


PT登録も無事に済み、その間にギルマスにこの前の討伐依頼の話をする予定を思い出して慌ててギルマスに面会すると、セッカは吸血鬼騒動のあらましを伝えた。

「・・・おおよそロルフの話と同じだな。ありがとう。気を付けてな」
「ギルマスも気を付けて」
「お邪魔しました」

この時すでに辺境伯にはロルフから聞いていてセッカがアシェルだったと連絡を入れていたギルマス。

───うん、俺も気を付けよう。


ロルフ達は明日の朝に街を出るコトを告げてギルドをあとにした。

「辺境伯の邸って、ここからどのくらいかかるんだ? 移動は如何すんの?」
「───ああ、馬で二日ほどだが俺達は獣化出来るからそれで駆けて一日で着くかな。だがセッカは人族だから馬を・・・と思ってたんだが、そうか、俺達は獣化してセッカはコハクに乗って翔べば良いんだな」

そう言われて、そういえばダートとスレッドも獣人だったんだと気付いた。

「ダート達も獣人なんだ? ・・・えーと、何の獣人なのか聞いても・・・?」

だが本人がいないところでそんな個人情報を他の人から聞くのもなあ・・・と躊躇しつつも好奇心には勝てなかった。

「ああ、ダートは黒狼でスレッドは雪豹だ」

ソレにあっけらかんと応えてくれたロルフ。
良いのか。
それにしても・・・。

「・・・黒狼に雪豹・・・うん、イメージ通りだ」

ガッチリタイプのダートにしなやかそうなスレッド。
なるほど、獣性が現れやすいのかも。
そう思っていたら、ロルフが口を少し尖らせて聞いてきた。

「じゃあ俺は? 俺は?」
「ルゥルゥはガッチリだけどしなやかで・・・王子様ぽかった。でもそうか、本物だったからか。納得」

最後は周りに聞こえないようにぽそっと呟いた。
内緒だもんな。

そう言ったら、ニコニコしだしたロルフ。
どうやらダート達に嫉妬していた模様。

───それくらいでムッとして可愛いなあ。

そんな風に思う俺も大概か。
自覚したら、どんどんルゥルゥを好きになっている。

───ま、いっか。
どうせもう、ルゥルゥから逃げられそうも無いからな。

───逃げる手段を考えるのも面倒くせえ。
逃げるのは追っ手からだけで良い。


この後、コハクに乗せて貰うことになったセッカはダート達に馬の手配を取り消して貰い、準備の最終確認をした。
そして翌日の朝、日が昇る前に街を発つことにして、夕方、宿を引き払う手続きをした。

もちろんロルフ達が昨日の時点で宿主にはその旨を伝えておいたからあっさりと済んだが。

「そうか。暫くは戻らないのか。寂しくなるなあ」
「宿主には随分と御世話になりました」
「それが俺の仕事だからね。ロルフさん達がいるから大丈夫だと思うが、気を付けるんだよ」
「ありがとうございます」

その後、皆に朝と昼の分のお弁当を作ってくれてて、有難く頂戴した。

「じゃあセッカ、コハク。また明日」
「「また明日、下で待ってるぜ」」
「うん、明日の朝に。お休みなさい」

コハクもクルルと一鳴きして、それぞれ部屋に入っていった。

「さて、明日は一日頼むな」
『それしき、大した手間では無いわ。大船に乗った気でいろ』
「ふふっ。頼りにしてるよ」

セッカはベッドに潜ると、久しぶりに穏やかな気持ちでストンと眠りに落ちた。

・・・・・・ロルフ達がいる。
それだけで心が軽くなって、大丈夫だと、何故か思えたのだった。










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