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18 夜の帝王 1
しおりを挟む夜、村人達も寝静まった深夜───。
セッカとコハクはそっとテントから出ると、今しがたまで寝ていたテントもインベントリにしまう。
───おそらく今夜、動く。
セッカは予感めいたモノを感じていた。
『コハク、アレの気配が強くなった』
『・・・ああ。いよいよお出ましかな?』
『たぶん村には結界で入れないと思うけど・・・』
『うむ。お前くらいの魔力でも無いと破れまい。そんなヤツは我等幻獣くらいしかおらんだろう。心配ない』
『そうか。じゃあ、行くか』
セッカはコハクとの会話を全て念話に切り替えると認識阻害の魔法で姿と気配を消しながら探索魔法であの気配の主を探す。
コハクは微量の魔力を拾って場所を探しているようだ。
・・・そして二人は居場所を特定する。
今日の昼間に薄らと感じた森の奥の大木の辺り。
昼間でも暗くてじめじめしていた場所。
そこに気配が集まり出している。
素早く走って、そこへ急ぐセッカ。
その間もコハクと念話をしている。
『・・・ずいぶん気配が強くなってきているが、しかし・・・』
『───ああ。同じ気配なんだよな・・・。コレって、やっぱり・・・』
問題の場所に到着して、セッカとコハクは確信した。
『『吸血鬼』だな』
───そう、気配が薄くバラバラだったのは、身体を霧状にして森中に散らしていたからだったのだ。
それが夜になって集まり出し、ゆっくりと形作っていく。
セッカとコハクはそのまま認識阻害の魔法で姿と気配を消しながら、離れたところでジッと様子を窺っていた。
セッカ達が見つめる中、黒髪に緋色の瞳の吸血鬼がその姿を現す。
『───アレは吸血鬼の中でも男爵位程度のヤツだな』
コハクがそう呟く。
セッカは吸血鬼を見るのは初めてだ。
今世では知識として名前くらいは知っているが詳しい生態は分からない。
元々、魔物の中でも遭遇率は低く詳しい情報が少ないのと、吸血鬼に遭遇した場合、大抵は襲われ致死量の血を吸われて死ぬからな。
だから幻獣の情報は非常に有難い。
『吸血鬼にも階級があるんだ?』
『うむ。人型で知能が高いからな。そこら辺の魔物とは格が違う。そもそも魔物という括りになっているが、正確には魔人族の中の一つの吸血鬼族ということだ。始まりの真祖が最上位で、その下にこの大陸の階級と同じく公侯伯子男とあって、純血種が力が強い』
やはり血統主義ってヤツか。
力が強いヤツが生き残れる、弱肉強食の世界だもんな。
『だから吸血鬼も独自のコミュニティを作っている。そして上位種はその吸血鬼のテリトリーから出ることは少ない。むやみやたらと襲いかかる訳では無く、ヤツらにも好みの血があるからな。大抵は爵位のない雑魚が獲物を狙って出て来て冒険者達に狩られてる』
『そういや、血を吸われても必ずしも被害者が吸血鬼化するわけじゃないんだよな?』
そうじゃなかったらバンバン吸血鬼が増えてるもんな。
『ああ。相手を吸血鬼化・・・眷属に出来るのは純血種の貴族階級のみで、なおかつ自身の血を相手の体内に相当量注ぐことが必要になる。しかしそれをすると力が一時的に弱くなり敵に狙われやすくなるので、あまりやらん。やるときは本当に気に入ったヤツを血を貰うために眷属にする時だな。上位種は眷属を一人は持っているらしいから、血の為に外に行くことはほとんど無い』
コハクがその辺りの細かい説明をしてくれる。
すっごく助かる情報!
『へー、自分専用の血液タンクにするのか。それなら爵位持ちで彷徨いてるらしいアレは眷属がいないって事かな。・・・しかしずいぶん詳しいな、コハク。まるで見てきたようだ』
『数百年前に実際見たし、直に吸血鬼の一人に聞いた』
『・・・・・・おう、マジか。まさかの知り合い。そういや長生きしてたな、コハク』
・・・・・・実話だった。
幻獣凄え・・・。
───などとコハクの講義を受けている間にしっかりと実体化した吸血鬼。
十中八九、コイツの気配に怯えて森の魔獣達が移動した結果がこの前の大量発生だろう。
村人達を餌にするためにやって来たのかは分からないが・・・しかし男爵とはいえ爵位持ちが何故こんな辺境に・・・?
そう疑問に思っていると、吸血鬼は独り言を言った。
「───さあて、アシェルを殺るかな」
それを聞いたセッカとコハクは息を飲んだ。
『───今、アシェルって・・・・・・』
『・・・・・・ああ、言ったな』
『・・・何故・・・』
『・・・・・・分からん。このまま少し様子をみるか・・・?』
『---そうだな』
そう言って、二人はそのまま暫くジッとしてることにした。
セッカは言いようのない不安に揺れていた。
一方、セッカとコハクの後を付けていたロルフの耳にも、あの吸血鬼の言葉が聞こえていた。
───アシェルを殺るって、どういうことだ?
アイツ、アシェルを知っているのか?
そうだとして何故アシェルが辺境伯領にいると思ったんだ。
そもそもアイツの言うアシェルって、あのアシェルの事なのか?
もしそうなら、誰かがアシェルが生きていると分かっていて狙っているのか?
それに、セッカがアシェルだと知っている・・・?
俺がその話を通したのは辺境伯だけだ。
あそこから漏れることはまず無い。
命を狙っているヤツが、どういう手段か知らないがアシェルの居場所を把握しているのか?
それともたまたま、偶然なのか・・・?
───なんにせよ、セッカ達が動かないのだから、俺も待てしか出来ない。
ロルフは歯痒い思いでセッカを見つめていた。
※遅くなりました。ちょっとシリアス続きます。
次回はちょっと流血表現があるかもしれません。冒頭に表記しますが、苦手な方は御自衛下さいませ。
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