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9 息苦しい夜
しおりを挟む───痛い。
───助けて。
───どうして僕が。
・・・・・・苦しい・・・。
・・・何だ?
誰の感情?
・・・・・・これは、アシェル?
───僕は何もしてないのに。
───誰も信じてくれない。
───全部、全部、アイツが・・・。
・・・アイツって、誰?
───アイツが来てから、誰も僕を見ない。いない者のように無視する・・・。
───そうか、僕は要らないのか。
───じゃあ、もういいや。
・・・何が?
───生きてても意味がない。邪魔だと言うのなら・・・。
───このまま消えてしまおう。
・・・消える?
───一つだけ、心残りは・・・。
───ごめんね・・・・・・『 』・・・。
・・・・・・・・・『 』って誰? 分からない。
・・・俺は・・・俺・・・・・・。
───ッカ・・・。
「───セッカ!」
「───っ?!」
名前を呼ばれてハッと目を開けた。
───ココは何処だ?
俺は・・・?
「・・・気付いたか、良かった。セッカ、苦しそうに魘されてたようだが・・・大丈夫か?」
───『ルゥルゥ』・・・?
「・・・・・・僕、僕は・・・・・・馬車・・・・・・落ちて、死んだ・・・・・・俺? 僕・・・? アイツって、何、誰・・・? ごめん・・・? 僕、は・・・・・・あ・・・しぇ・・・・・・?」
荒い息を吐きながら、途切れ途切れに虚ろな瞳でそう呟くと、セッカはぷつりと糸が切れたように再び目蓋を閉じて眠ってしまった。
頬には涙のあと・・・。
「・・・・・・セッカ?」
ロルフが声をかけるが、もう起きる気配は無さそうだ。
ロルフは桶に浸したタオルを絞って、セッカの涙に濡れた頬と酷い寝汗を拭っていく。
───ソマリ殿とダート達が冒険者ギルドへの報告を終えて治療院に来たときに、ココに一泊する事を告げて。
彼等が帰った後、セッカを寝間着に着替えさせた時に気付いた、オメガの首輪。
・・・この時ロルフはまさか、と思った。勘違いだったのか、と・・・。
この顔、瞳の色はどう見てもあの時の子にそっくりだった。
だが彼はオメガでは無かったはず・・・。
しかしさっきの譫言はやはり・・・。
「───コハクは何か知っているのか?」
『・・・お前に答えるコトは何も無い』
思わずそう呟けば、冷たい返事が返ってきた。
元よりただの呟きだったので答えは期待していなかったが、それが返って信憑性を齎した。
───おそらくセッカから何かしら聞いていてその上で黙っているのだろう。
そもそも俺がコハクと念話が出来ていなければ知る由も無かった情報だ。
・・・・・・いずれは、セッカから話して貰えるくらい距離を詰めれば良い。
ロルフはそう心に決めた。
翌朝、熱の下がってきたセッカは、カーテンから漏れる光の中、重い頭でぼんやりと考えていた。
───何か、夢を見たような気もする・・・。
でも思い出せない。
残ってるのは、苦しいような哀しいような感情だけ。
・・・ま、いいか。
頭も身体もだいぶ重いが、昨日ほどじゃ無い。
部屋をぐるりと見渡せば、白を基調とした部屋だ。
前世の病室に近いか。
どうやらココは治療院の個室らしい。
一晩、泊めて貰ったんだろう。
そういえばルゥルゥがいたような気がする・・・。
『目が覚めたか、セッカ。調子はどうだ?』
「・・・ああ、重怠いがだいぶ良い。熱は下がったっぽい?」
『・・・・・・まだ少しある。後、お前、魔力欠乏症になりかけてるって治癒師が言ってたぞ。そのせいで余計に体調崩してるんだと』
「・・・・・・どおりで・・・あそこまで魔力使うの初めてだったしなぁ・・・」
はあ、と熱っぽい溜息を吐いていると、扉が開いてルゥルゥが入ってきた。
「───! セッカ、目が覚めたのか。良かった。・・・まだ怠そうだな」
そう言いながら足早に近付いてきて額に掌をあてた。
「───だいぶ良いが、それでもまだ熱いな。治癒師を呼んでくるから待ってて。許可が下りたら俺の定宿に行こう」
そう言って部屋をあとにしたロルフに、セッカは『ルゥルゥの宿に行くのは決定なんだ』と微笑んだ。
それがイヤじゃ無い自分に驚いたが、どのみちこの体調ではルゥルゥの手助け無しじゃどうにもならないと思い直した。
初めての街で何もかも分からないのだから。
───旅は道連れ・・・ってね。
その後の診察の結果、ロルフが付き添うのであれば退院しても良いとの事で、ロルフに甘えて宿に移ることになった。
「───セッカ、昨夜は何か・・・覚えてるか?」
セッカが着替えた後、患者のいなくなったベッドを軽く整えて部屋を片付けながらロルフがセッカに聞いてきた。
セッカは具合が悪いので、その様子を椅子に座って見ているだけだ。
昨夜の事をぼんやりした頭で考えてみる。
「・・・・・・うーん、夢を見た気がするんだけど・・・良く覚えてないんだ。ぼんやり・・・苦しいような哀しいような・・・?」
「・・・・・・そうか。イヤ、魘されていたから・・・」
「───え、俺、ヘンなこととか言ってた?」
ギョッとして聞き返すセッカ。
ということは魘されていたことも覚えてないんだろう。
「うーん・・・言ってた、かな? ぶつぶつ呟いて、パタッと寝直してた。熱のせいだろうけど・・・」
苦笑してそう言うロルフに熱で仄かに赤い頬を更に赤くしたセッカは思わずコハクに確認をした。
「・・・・・・えー、ナニソレ・・・・・・コハク・・・?」
『・・・・・・まあ、喚いてはいなかったし、暴れてもいなかったから、大丈夫だ』
若干、目を逸らしながらそう応えたコハクに、何時もなら目聡く気付いてツッコむところだが、熱でぽやぽやしているセッカは気付かずに流した。
「・・・・・・コハクがそう言うなら・・・いっかぁ。悪かったね、ルゥルゥ・・・・・・ん?」
「・・・セッカ?」
「・・・あー、うん・・・? 夢で、ルゥルゥって聞いた気がして・・・」
夢の中のアシェルが呼んだ名前・・・。
夢? それともアシェルの・・・記憶の欠片?
「───ソレは光栄だな。夢でも思って貰えてたんだ?」
「へ? あっ・・・・・・うん、そうだな・・・」
喜ぶロルフに微妙な顔で曖昧に返事をするセッカ。
そうこうしているうちに支度も済んだ。
「じゃあ、俺の定宿に向かおうか」
「・・・・・・よろしく頼む」
そう言うとヒョイと横抱きにされた。
───そんなに軽くないだろうに、迷惑ばっかりだな。
後で纏めてお礼をしようと誓うセッカだった。
※ストックが無いので、不定期更新になります。
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