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17 執着する男
しおりを挟むテントで仮眠をしているセッカをそっと見つめる視線・・・。
アイスブルーの瞳の銀狼───獣化したロルフだ。
『───無事のようだな』
独りごちて、ほぅ、と息を吐く。
ロルフは一昨日のやり取りを思い出していた。
「───本来、聞かれても他の冒険者が受けた依頼をペラペラと話してはいけないのですが、ロルフさんですしお相手がセッカさんですからねぇ。・・・特別ですよ?」
そう前置きして受付の彼が教えてくれた。
ここから東の、馬車で二日ほどかかるアイスの村で異常な魔物の発生があり、対処に困った村が緊急に依頼を出してきたと。
それをすぐに受けて、村人のあとを追うようにすぐに出立したらしい。
セッカが受けた討伐依頼の内容を冒険者ギルドで確認したロルフは今すぐ追いかけていきそうな勢いだったが、ダートとスレッド、それと宿主に止められた。
「もう遅い時間だ。今から街を出るのは幾らお前でも危険だ」
「それにかなりの時間が経ってるんだ。セッカがどれくらい先に行ってるかなんて分からんだろう?」
「せめて明日の朝一で出かけたらどうだ? 俺で良ければ弁当も何日分か用意するから。そんな顔で行ったらセッカさんが心配すると思うよ」
そう言われて仕方なく自分の部屋に戻り洗面台の鏡を見れば、焦燥とした自分の顔・・・。
「───はは・・・。情けねえ顔・・・」
離れるのはたったの数日間・・・長くても一週間ほどだというのに、この体たらく。
「・・・・・・俺、どんだけセッカに依存してるんだ」
セッカが近くにいないと不安になるって・・・。
───いや、違うな・・・。
「・・・コレは執着だ。セッカは一年前のアレが俺と初めて出会った日だと思っているが、俺はもっとずっと前から知っている。初めて見たその時から、俺はもう・・・・・・」
記憶を失う前のセッカは───アシェルは・・・・・・俺と同じアルファだったから、跡取りだったから・・・・・・そう思って気持ちに蓋をしたんだ。
死んだと聞かされて、形見分けだと、血に塗れたちぎれたブレスレットを渡されたときのあの例えようのない気持ち・・・・・・。
そして偶然再会した一年前のあの日の気持ち・・・・・・。
「再びお前の口から『ルゥルゥ』と呼んで貰える奇跡を、俺は・・・・・・っ」
例え記憶が無くなっていようとも、俺のことを1ミリも思い出せなくても構わない。
今度こそ、絶対に離さない。
いつの間にかオメガになっていたこともきっと運命・・・。
───もう二度と失うものか。
そうして呼びに来たダート達と晩飯を済ませ、明日の朝一で出ることを告げると、宿主が急いで二日ほどの弁当を渡してきた。
「あんまり急いでもろくな事が無いから、落ち着いて行くんだよ。ちゃんと食べて、休憩もするように」
「ははっ、オヤジさん、コイツの親みたいだな!」
「ロルフ、そういうわけだから焦るなよ?」
「・・・分かってる。助かる、ありがとう」
翌日、朝日が昇る頃に街を出たロルフは、人目の付かない林の陰に入ると獣化した。
もちろん衣服は脱がないし、獣化しても脱げない。
本来、衣服に魔法が付与されていて着たまま獣化も人化も可能なのだ。
セッカと出会ったあの時は、テント内で目覚めたセッカがどういう反応をするのかと思ってワザと裸だったのだが、熱を出したせいで全く何も無かった・・・。
ともかく、人化でもかなり素早い身体能力だが獣化して駆けた方が圧倒的に早いため、ロルフは最初からこれで行くつもりだった。
おかげで、ちゃんと食べて休憩して眠っても十分に追いつくことが出来た。
そして獣化したまま、村から離れた、セッカやコハクに気付かれにくい距離からこっそりと見守っているのだ。
『・・・それにしても・・・』
ロルフは村の奥の森から微かに感じるイヤな気配に目を向けた。
『セッカ達も気付いているだろうが・・・』
普通は気付かないくらいの微かな気配に思わず鼻面に皺を寄せるロルフ。
───今夜、動きそうだな。
何かあれば俺がセッカを手助けすれば良い・・・。
後で文句を言われようと、セッカに何かあるよりはよほど良い。
そう思ってロルフも少し仮眠しようと目を瞑った。
※遅くなりました。ちょっと短いです。
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