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2 青年の回想 1
しおりを挟む───今から9年前のとある日、俺は目が覚めたら10歳くらいの子供の姿で、鬱蒼とした木々の生い茂った薄暗い森に寝転がっていた。
見たことのない植生だ。
いや俺が知らないだけなのかもしれないが・・・。
夢にしては湿った空気や匂いがやけにリアルだ。
「・・・・・・なんだ、ここ」
起き上がりながら思わず呟けば、自分から出たとは思えない高い声変わり前のようなボーイソプラノに驚き。
慌てて全身を見回したら、薄汚れてはいるが質の良い衣服に身を包んだ白髪の子供・・・。
身に着けているモノで何か分かりそうなものは、見たことのない文字?記号?の刻まれたブレスレットくらいか。
剣ダコっぽいモノと擦り傷などはあるが、およそ労働とは無関係と思われる綺麗な掌。
───俺は白髪じゃ無いし、ましてや子供でも無かった。
俺は20歳になったばかりの大学生で、深夜のコンビニバイトを終えてアパートに帰る途中・・・だったはずだ。
「・・・・・・あの後の記憶が無いって事は、何かあって、死んだ? 全く見覚えの無いこの場所・・・コレってもしかして異世界転生ってヤツ?」
そういや、巷でめちゃくちゃ流行ってたよなぁ。
俺もネット小説で色々と読んだが、まさか当事者になるとは思わなかった。
・・・・・・しかし、考えてもこの子としての記憶は無い。
元々この子として転生して、何かのトラブルで死ぬような目にあって前世の記憶が出て来たのか、後は考えたくは無いがこの子が死んで、たまたま俺の魂が乗り移ったのか・・・?
小説では定番の『神様に会った』なんてのも記憶には無いし。
「───あーもー、考えても分かんねぇ! 止めだ止め。今はとにかくココから移動して生き延びることを考えねえと」
何にしても、今、俺はココでこの身体で生きてる。
夢じゃ無いって言うなら生きるしかない。
俺だってこんな所で死にたくはない。
見た感じ、大きな怪我は無い。手足も動く。
ただ一つの懸念が、この子はたぶんいいとこのお坊ちゃまだって事。
こんなサバイバルな事には慣れていないだろう、いや絶対やったこと無い。
だからちょっと体力が心配なんだよなぁ。
「とりあえず、水の確保を最優先に・・・・・・ん?」
周りをキョロキョロとして気付く。
何か、ゲーム画面のような表示が見えるんだが。
草木にカーソルが当たって、名前とかレベルとか効果みたいな説明文・・・。
俺はゲームも好きで、特にファンタジー系のMMORPGを良くやっていた。
・・・ぼっちだったが、ソレが何か?
「・・・・・・マジ? ココってもしかして魔法とかある世界ですか?!」
テンション上がって思わずヘンな言葉遣いになっちまったよ。
そういえば、さっきは読めなかった記号のような文字のようなモノがゲーム画面の文字なのにいつの間にか読めるようになっていた。
「───俺とこの身体が馴染んできたって事かな? 何にしても助かる。・・・おお、さっきのブレスレットも読めるぞ。何々・・・?」
───え、マジ?
ブレスレットに刻まれた文字はこの身体の身分証のようだった。
ソレによると、この身体の持ち主の名前はアシェル。
ウェイバー侯爵家の第一子でアルファ・・・。
そう、この世界には俺の前世の世界と同じバース性があったのだ。
もちろん向こうには魔法なんて無かったが。
俺もやはり混乱していたんだろう、全然気付かなかった。
だが、アルファ・・・?
「───いや、この身体、アルファじゃないだろう。前世オメガだった俺だから分かる。偽っていた? ・・・いや、何かのきっかけで後天的にオメガに変化したのか・・・?」
前世の世界でも稀に後天的にバース性が変化することがあった。
まあ、大抵はベータからオメガが多かったが、ごく稀にアルファからオメガになる例もあった。
逆にオメガがアルファになったっていうのは聞いたことがないが。
しかしソレがこの子に起こったとしたら・・・。
顔立ちは現時点では分からないが、元アルファだったらベースはアルファの身体だから運動神経は良かったろうし、子供でも体格は良いはず。
それならオメガと違って体力もあるし、かなり動けるのでは?
「前世オメガだった俺は、見てくれは典型的な儚げ美人だったけど性格は男前だったからか、アルファにはモテなかったんだよな。オメガのくせに護身術と称して鍛えててバリバリ武闘派だったし」
アルファはプライドが高く征服欲の強いヤツが多くて、俺みたいな勝ち気で反抗するタイプのオメガは敬遠しがちだ。
たまに、逆に屈服させてやるぜってやって来るヤツは鍛えた護身術で叩きのめして返り討ちだったし。
「───ソレを考えると、後天的にオメガになったっぽいこの子には悪いけど、俺には理想的だわ。前世よりも強い身体で、前世の護身術で自分の身を守れる。アルファとなんか別に番いたくないし。オメガに見えないだろうからこのままアルファっぽく擬態しよう」
さすがにまだこの身体にヒートは来てないだろうし、抑制剤もあるだろう。
早いとこここから出て、手に入れる必要があるな。
服用中はヒートになりにくいはず。
後は、首輪がいるな。
目立ちにくいモノを身に着けて、アンダーシャツに首までのを身に着けて隠せばいい。
間違って襲われても、うなじさえ護れれば良い。
番いになんかなったら、捨てられたときが悲惨だからな。
番い契約を解除出来るのはアルファからだけで、アルファはまた新しく番えるけど、解除されたオメガは元の番いのアルファにしか欲情しない身体に変化していて戻ることは無い。
ヒートが来るたび、番い以外には抱いて貰えない身体を薬で誤魔化しやり過ごす。
終いには心も身体もボロボロになって早世する。
中には堪えられずに自ら命を絶つ───。
向こうの世界じゃ最近は番い契約解除されてもオメガのヒートや精神をフォロー出来る薬や設備があったが・・・。
・・・この世界にはそんなもの、ないと思う。
だから自衛は必須だ。
ブレスレットの名前は見なかったことにして、俺は自分に新しく名前を付けた。
「雪花」
雪の別称。
字の如く、花に例えられる雪の呼び名だ。
この白い髪で閃いた。
前世の俺でもなく、今世の俺でもない。
新しい俺の再出発だ。
※説明が多くてスミマセン。
次話も過去の話で進みます。
この後6話くらいまで、回想予定です。
お付き合い下さいませ。
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