男前で何が悪い!

エウラ

文字の大きさ
上 下
2 / 54

1 或る青年と幻獣

しおりを挟む

北に位置する国ノルドの更に北、辺境伯が治める領地のフォルセオという街。

その街で冒険者として活動している青年。

夕焼けが辺りを橙色に染め上げる時間。
竈に小さい鍋をかけてスープを作っている。

冬に降る雪のように真っ白で真っ直ぐ癖のない長い髪を後頭部の高めの位置でポニーテールにし、右目を薄い水色の布で覆った彼は不意に顔をあげた。

布で覆われていない左目は透けるような銀色。
その銀の瞳が捕らえたのは、鷲の頭部に獅子の身体、背中に大きな鷲の翼を持ったグリフォンである。

いわゆる幻獣と呼ばれるソレは、滅多にお目にかかれない稀少な生き物だ。
体長は3mほどだろうか。

その幻獣が彼の青年の目の前に降り立つ。
しかし青年は全く動じず、反対に近付いていった。

そして幻獣もいそいそと青年の元へ近付いていき・・・。

『狩ってきたぞ! さあ、早く食わせろ!』

そう念話で言って、異空間収納魔法インベントリから青年の倍ほどもある大きな魔獣を取り出した・・・と同時に、入れ替えるように青年が自分のインベントリに納める。

その瞬間、青年のインベントリの中で勝手に解体されて素材と食べられる部位に仕分けられ、分類された。

ちなみに、念話は従魔の繋がりのあるこの二人にしか聞こえない。

「・・・うん。かなり食べるところがある。良かったな。じゃあ早速調理しよう」
『───何時もながら便利だな、解体魔法ソレ。我も欲しい』
「うーん・・・コレなぁ・・・説明が難しくてなぁ。そもそも、教えて出来るもんか分からんし?」

・・・ていうか、こうだったら便利なのにって思ったら出来ちゃったんで、説明のしようが無いんだよな・・・。

『仕方ない。お前のインベントリがオカシイだけだと思っておくわ』
「オイコラ、言い方!」

確かにその通りなんだけどよ。

ブツブツと文句を言いつつ、手慣れたナイフ捌きでインベントリから出した肉と野菜を刻み、調味料で漬け込んでからもう一つの竈にかけたフライパンでソレを炒める。
ひたすら炒める、炒める、炒める・・・。

そして特注の大皿に山盛り盛って、グリフォンへ声をかけた。

琥珀コハク、ご飯出来たぞー!」
『おお! 美味そうだ! 何時もながら料理上手だな、雪花セッカは!』

コハクと呼ばれたグリフォンはいそいそと大皿に寄っていく。
セッカと呼ばれた青年は、満更でも無い顔をしつつも応える。

「まぁな。でも褒めてもこれ以上は何も出んぞ」
『がーん・・・なんて嘘だよ! そんな冷めた目で見るな!』
「分かればよろしい。あ、何時ものように小型化して食えよ? ソレなら腹いっぱいになるだろ?」
『・・・ソレはそうだが・・・何時かこの姿で腹いっぱい食いたいなぁ・・・』

小さなサイズになってがっかりしながらそう呟くコハクに、セッカがしょんぼりして言った。

「・・・悪いな、俺の稼ぎが悪くて」

お前を満足させるだけの魔獣を狩るのが難しくて・・・。
・・・だってお前、体格に見合って大飯食らいなんだもん。
毎日、お前くらいのサイズの魔獣を何匹も狩れねえよ。

───なんて考えていたら、コハクが慌てて言った。

『いやそういうことじゃあなくて、何時も元の姿グリフォンで過ごせたらいいなって意味で・・・!』

その慌て振りにクスリと笑って。

「・・・・・・分かってるよ。何時か、堂々と過ごせるようにするよ」

普段はただの鳥型の従魔に擬態して貰ってるからな。

従魔の証の足輪に認識阻害の魔法を付与してあって、周りには普通の鷲にしか見えない。
幻獣とバレると大騒ぎになるし、テイマーを殺してまで無理矢理奪い取ろうとしたり取り込もうと付き纏われたりするらしいので。

外では元の姿で活動しているが、ソレさえも認識阻害のおかげで、ただデカいだけの鳥魔獣と思われている。

コレはかなり助かっている。
自分でも良い仕事したなと思ったぜ。

『・・・おう。期待しないで待ってるわ』
「はいはい。ソレこそ秘境にでも引き籠もらないと無理かもな。さて俺も頂きまーす」

そう軽く言って自分も一口。

「・・・美味っ。自分で言うのもなんだけど美味い!」
『うん。めっちゃ美味いよ! 自慢して良いと思うぞ!』
「───あぁ、金貯まったら飯屋でもやろうかな。露店で良いんだけど。あちこち旅しながら美味いモン売って。肉はコハクに狩ってきて貰って・・・・・・良いかも」
『あん? んー、食い扶持くらいは自分で狩るけどよ。ソレならもっと北の大森林辺りに行かないと大物はいねえよ?』
「・・・・・・だよなぁ」

ソレを考えるとなぁ・・・。

「・・・・・・ココもそろそろ潮時かな」

この街に流れ着いてはや一年。
文字通り俺は、その時の出来事を思い出していた。

───ちょうど一年前。

次の街へと向かう途中で偶然起こったスタンピードに巻き込まれ。

何とかやり過ごした最後、川に流されて、這々の体で川岸に辿り着き倒れていた所を、偶然通りかかった商隊の護衛の冒険者達に発見されて着いたフォルセオの街。

冒険者の身分証になるギルドカードを持っていたおかげですんなり入街出来たし、商隊の人達がいい人で宿を紹介してくれたり商品を値引きして売ってくれたりしてくれて助かった。

ソコで、ここを拠点に暫く稼ごうということになって今にいたる。


「・・・から8年・・・その後ココに流れ着いて1年。もう9年か・・・。早いなあ・・・」


何かから逃げるように、北へ北へと進んできた。
いや、それとも逆に引き寄せられているのか・・・?

・・・何かって何だ・・・?
俺も分からない。

ただ勘に従ってひたすらランクを上げて、移動して・・・。


コレより先は大森林。

ソコを抜けられたら、隣国。

まあ、魔物の跋扈する大森林を抜けられるヤツは相当のバケモノだろうが・・・。



「───何処まで行けば・・・イヤ、たぶん何処まで行っても・・・・・・」


きっと俺に平穏は無いのだろうな。

あの9年前の時から、ずっと・・・・・・。







※相変わらず見切り発車。初オメガバース。
今回はオメガバースをベースに自分の都合にあわせて変えてあります。
(自分も詳しくないのと、不幸はイヤなので)
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...