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36 晩餐後の密会(side公爵家&イクシード)
しおりを挟む晩餐が思いの外、解毒薬の話で盛り上がったが概ね問題なく済んだ事にホッとする。
カムイはあの後、アルトと部屋に戻って貰った。
元気そうではあったが、なにぶん精神的な疲れがあるだろう。
・・・・・・例え、本人が覚えてなくとも。
「・・・・・・本当に覚えてないんだな」
サロンへ移ったイクシード殿下がぽそりと呟いた。
「予想通りではありましたが・・・辛い物がありますね。ああして記憶を封じ込めないと、精神を保てないのですから」
「---晩餐での私の対応は合格だったかな?」
「ええ。助かりました。ありがとうございます」
実は晩餐の前に、殿下にはただの総長という肩書きだけの紹介にして貰ったのだ。
とにかく王族を連想させないように。
功を奏して、穏やかに晩餐会は終わった。
「彼の記憶喪失の件ですが・・・もしかするとアスガルド神が関わっている可能性があります」
「・・・何故?」
「ジェイドの契約精霊の話から、神が記憶喪失の事を話していたと。それにアスガルド神の加護を授かっておりますので・・・」
「---報告書には記載されていなかったと思うが?」
「まだ調査中でしたので」
イクシードの突っ込みににっこり笑顔でしれっと返すフルクベルト。
---狐と狸の化かし合い・・・。
呆れた顔でエンドルフィンとアルフレッド、シルヴェスタ、ルイーズは二人を見つめた。
「---まあ良い。婚約の件だが、許可しよう。先ほどのやり取りで人となりはおおよそ分かった。そもそも世界樹の聖域に住んでいられる者だしな。それにしてもあの生産の腕は欲しいな。利用するわけではないが、回復薬などは素晴らしい。買えるなら欲しいものだ」
「くれぐれも老害共の私利私欲に晒されないように後ろ盾をお願いしますよ」
フルクベルトが釘を刺す。
それに苦笑して、フルクベルトから書類を受け取り、サインを入れた。
宣誓魔法が発動して、王家と公爵家、後は当人達用に控えが複写されてそれぞれ保管する事になる。
原本は神殿に保管されるので、明日の朝イチで仕事前に提出しようとフルクベルトが預かった。
「それで、肝心の勇者召喚をしたと思われる国ですが・・・」
「王家でも探らせよう。暗部がいるからね。ジェイドを囲っていた事実は消されているかもしれないが、勇者召喚の痕跡はあるだろう」
---特定できたら、証拠など無くてもいくらでもやりようはある。
そういって黒い笑みを浮かべた殿下は、ルイーズと帰って行った。
「さて、ご苦労だったね、お前達も。エンドルフィン、済まなかったな、せっかくの忠告だったのに・・・」
「いや、まあ。・・・あんなに反応するとは思わなかったからなあ。よほど深層が傷付いているんだろう。とにかく『勇者』『王』『王子』などの言葉は禁句だな」
あんなに痛々しい様子は見たくない。
魔力暴走しそうだったしな。
「よし、解散しよう。エンドルフィンは泊まって行くか? 客室の用意はしてある」
「ふむ。お言葉に甘えさせて貰おう。この後、一杯、どうだ?」
「少しなら良いぞ」
「じゃあ俺達は部屋に戻ります。お休みなさい」
「お休みなさい」
「「お休み、良い夢を」」
そうして各々、部屋へと戻って眠りについたのであった。
カムイはアルトに世話を焼かれて、アルトのベッドでギュッと抱き締められて、ぬくぬくと幸せを噛みしめて眠りに落ちていったのだった。
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