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34 騎士団長と王太子の密会 3
しおりを挟む残った者はひとまずサロンに移動した。
殿下が座り、後ろの定位置に護衛騎士のルイーズが立つ。
フルクベルトとエンドルフィン、アルフレッドとシルヴェスタも座った。
「---さて、説明はあるのかな?」
イクシード殿下が神妙な顔で問う。
自身の挨拶でジェイドがああなったのだ。
何となく察してはいるのだろう。
「・・・・・・まず始めに、申し訳ありませんでした、殿下。私も想定外の事でした」
そういって頭を下げる。
「まあ、そうなのだろうな。別に不敬でどうのとは言わないよ。元々、私が無理を言ったようなものだしね」
イクシード殿下は鷹揚に頷いて許してくれた。
「ありがとうございます。そうですね・・・・・報告に上げた事を念頭に置いて聞いて下さい。ジェイドは私達が知る限り、二度錯乱しております。それは飲酒で箍が緩んだ結果、深層の記憶が出たものと思っておりましたが・・・」
日常生活では問題は無かったのだから。
「実際、今日は飲酒はしていないのだろう?」
「ええ。なのに錯乱した。・・・それはおそらく王族を連想する言葉に反応したからだと思われます。それが切っ掛けで思い出したのでしょう。自身を凌辱し傷付け続けた者達を・・・」
「---それは・・・。しかし我が国の王族ではなく召喚された先の・・・何処かの国の王族の事だろう?」
やや戸惑いがちにイクシード殿下が言う。
「そうですが・・・6年もの間、その様な肩書きの者達に酷い目にあわされていたならば、記憶が無くともトラウマになっているでしょう。王や王子などの言葉は禁句ですね」
フルクベルトは自分の浅慮な思考に後悔していた。
エンドルフィンがせっかく忠告してくれていたのに、深く考えずに行動してしまった。
「---そうか・・・いや、私もさすがに思い至らなかったな。好奇心が勝ってしまった。すまない」
頭を下げることは無かったが、王太子という立場上、これが限界だ。
「でだ、この後はどうしようか? 私はこのまま帰った方が良いかな?」
殿下がふむ、と神妙な顔で聞いてきたが、さすがに『はい、そうですね』と追い返す訳にもいくまい。
「いえ、せっかく晩餐の用意をさせたのです。このまま食事をしていって下さい。ジェイドは目覚めるかどうか分かりませんが・・・」
「---そうか? では頂こうか」
「それで、殿下。少しご相談が---」
「---うむ。それでいこう」
皆にも了承を得て、今度は食堂へと移動した。
和やかに晩餐が始まった頃、寝室で眠っていたカムイは唐突に目が覚めた。
「・・・・・・アレ、知ってる天蓋だ。ていうか、何でベッド? ・・・・・・俺、どうしたっけ・・・・・・?」
薄い紗が下ろされた自分用のベッドに横たわっていた。
直前の記憶が無い。
玄関先でフルクベルトを出迎えたような気がするけど・・・・・・?
「・・・・・・何だろう、モヤモヤしてて思い出せない」
頭が重い感じがする。
何か嫌な事が・・・・・・?
上半身を起こして右手で体を支えながら、ふらつく頭を左手で覆って溜息を吐く。
---コレって、思い出すなって事?
忘れたままでいろって事かな?
・・・・・・よく分かんねえけど、この辺りも神様の思惑なんだろうか。
忘れてた方が良いっていう記憶は、大抵嫌な記憶だ。
神様が忘れさせた記憶なら無かった事にしたいんだろう。
絶対に俺が思い出して得するもんじゃ無いな。
---ヨシ、忘れていよう!
今後?の方針も決まったところで静かに扉が開いた。
入ってきた人は、ベッドに起き上がったカムイを見て慌てて駆け寄ってきた。
「・・・・・・カムイ、目が覚めたのか? 何処か具合悪く無いか?」
側にきたアルトが静かに聞いてくる。
うん、頭が重いから、小声で助かるわ。
「・・・・・・ちょっと、頭がね・・・重怠くて、ぼやあっとする。ね、俺、どうしたっけ? なんでベッドに・・・?」
「---覚えてない? 父さんを出迎えてて急に倒れたんだよ」
「・・・ああ、お父さんがいたのは、何となく・・・・・・? 後は分かんない」
「そっか。俺がベッドに運んだんだ。水、飲む?」
「飲む」
俺の問いにアルトが応えて、水差しからコップに注いで介助しながら飲ませてくれた。
「今日来客があって、父さん達は先に食べ始めてるんだけど、カムイはどうする?」
「お客様? 俺、邪魔じゃない?」
「元々皆でって話だったんだ。邪魔じゃないよ」
「---じゃあ、着替えてからいこうかな。お腹空いたし」
その頃には、頭もスッキリしてるかな。
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