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29 これから始まる新しい夢
しおりを挟むアルトは自室で報告書を書き上げていた。
その時ふわりと魔力が動いたのを感じてサンルームへ向かった。
この魔力は『ミズチ』だ。
カムイが呼んだのだろう。
心配ないとは思うが、気になって様子を窺えばロバート達も気付いて集まっていた。
「アルト坊ちゃん、あの方は?」
「カムイの契約精霊で水の精霊ウンディーネだ」
「・・・凄く神秘的ですね」
こそこそと話ながら見ていたが、カムイは気付かなかったようだ。
ウンディーネには気付かれていたけどな。
少し話して去って行ったようだが、何を話していたのだろう。
カムイが側にいるときははっきりと聞こえて理解出来ていたが、ウンディーネは精霊語を話していた。
カムイの影響力なのか、精霊の力なのか。
今は離れていて、分からない。
途中、ウンディーネが不穏な空気を出し、カムイが優しく諫めていたが。
去り際にこちらをチラッと見て微笑んでいた。
優しい表情だったから大丈夫と思いたい。
「お前達も持ち場に戻れ」
「あっ、我々としたことが・・・! スミマセン」
慌てて散って行った。
それを見てからカムイの方へ歩いて行く。
「カムイ、起きたのか?」
「ああ、うん。今ね、『ミズチ』を呼んで話してた」
「何の話か聞いても?」
「他愛もない話だよ。ここは居心地が良くて良いところだって」
「そう。・・・ならよかった」
そう言いながらカムイが寂しそうに笑う。
何となく分かる気がして、深くは聞かなかった。
---ハイエルフの寿命を考えてるんだろう。
何か手立てはないものかと考えるも、元々エルフの情報は少ないから全く分からない。
「まあ、とりあえず今幸せならそれでいいんだよね!」
吹っ切れたようにカムイが笑った。
「そうだな。今、俺がカムイを好きでいたって良いんだもんな」
「うん、うん? ---え?!」
「もちろん、愛してるの方の好きだよ」
「・・・は、え?」
「カムイが友達の好きって事なのは分かってる」
「・・・・・・えええ、あの、実は俺も・・・・・・愛してるの方で、好き、なんだけど」
「---本当か?!」
「ここに来るときにね、自覚したんだ。アルトが好きだなあって」
「---恋人になって!!」
「ふふ、喜んで」
そしてどちらともなく顔を寄せて、触れるだけの口づけをしたのだった。
日だまりの中、それはとても温かかった。
「でも、アルトの御家族は反対しない?」
「しないと思うけど、されたら駆け落ちするか」
「・・・・・・駄目だよ。家族なんだから、ちゃんと祝福されないと。せっかく、家族がいるんだから、大切にして」
「・・・・・・うん。そうだね」
二人で密かに笑った。
「ところで、何かしてたんじゃないの?」
「---あ、報告書!」
「片付けておいで」
「えええ、せっかく気持ちが通じ合ったのに」
「俺がいたら捗らないでしょ?」
「・・・・・・う・・・・・・分かった。急いで仕上げてくる。待ってて!」
「はいはい。頑張ってね」
ドタバタと走って行ったけど、走るなって怒られてなかったっけ?
大丈夫かな?
※一区切りつきそうなのと、ストックが切れたので不定期更新になると思いますが、良かったら気長にお付き合い下さい。
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