パライソ~楽園に迷い込んだ華~

エウラ

文字の大きさ
上 下
29 / 42

29 これから始まる新しい夢

しおりを挟む

アルトは自室で報告書を書き上げていた。

その時ふわりと魔力が動いたのを感じてサンルームへ向かった。

この魔力は『ミズチ』だ。
カムイが呼んだのだろう。
心配ないとは思うが、気になって様子を窺えばロバート達も気付いて集まっていた。

「アルト坊ちゃん、あの方は?」
「カムイの契約精霊で水の精霊ウンディーネだ」
「・・・凄く神秘的ですね」

こそこそと話ながら見ていたが、カムイは気付かなかったようだ。
ウンディーネには気付かれていたけどな。

少し話して去って行ったようだが、何を話していたのだろう。
カムイが側にいるときははっきりと聞こえて理解出来ていたが、ウンディーネは精霊語を話していた。
カムイの影響力なのか、精霊の力なのか。

今は離れていて、分からない。

途中、ウンディーネが不穏な空気を出し、カムイが優しく諫めていたが。

去り際にこちらをチラッと見て微笑んでいた。

優しい表情だったから大丈夫と思いたい。


「お前達も持ち場に戻れ」
「あっ、我々としたことが・・・! スミマセン」

慌てて散って行った。

それを見てからカムイの方へ歩いて行く。

「カムイ、起きたのか?」
「ああ、うん。今ね、『ミズチ』を呼んで話してた」
「何の話か聞いても?」
他愛たわいもない話だよ。ここは居心地が良くて良いところだって」
「そう。・・・ならよかった」

そう言いながらカムイが寂しそうに笑う。
何となく分かる気がして、深くは聞かなかった。

---ハイエルフの寿命を考えてるんだろう。

何か手立てはないものかと考えるも、元々エルフの情報は少ないから全く分からない。

「まあ、とりあえず幸せならそれでいいんだよね!」

吹っ切れたようにカムイが笑った。

「そうだな。今、俺がカムイを好きでいたって良いんだもんな」
「うん、うん? ---え?!」
「もちろん、愛してるの方の好きだよ」
「・・・は、え?」
「カムイが友達の好きって事なのは分かってる」
「・・・・・・えええ、あの、実は俺も・・・・・・愛してるの方で、好き、なんだけど」
「---本当か?!」
「ここに来るときにね、自覚したんだ。アルトが好きだなあって」
「---恋人になって!!」
「ふふ、喜んで」

そしてどちらともなく顔を寄せて、触れるだけの口づけをしたのだった。

日だまりの中、それはとても温かかった。

「でも、アルトの御家族は反対しない?」
「しないと思うけど、されたら駆け落ちするか」
「・・・・・・駄目だよ。家族なんだから、ちゃんと祝福されないと。せっかく、家族がいるんだから、大切にして」
「・・・・・・うん。そうだね」

二人で密かに笑った。

「ところで、何かしてたんじゃないの?」
「---あ、報告書!」
「片付けておいで」
「えええ、せっかく気持ちが通じ合ったのに」
「俺がいたら捗らないでしょ?」
「・・・・・・う・・・・・・分かった。急いで仕上げてくる。待ってて!」
「はいはい。頑張ってね」

ドタバタと走って行ったけど、走るなって怒られてなかったっけ?
大丈夫かな?





※一区切りつきそうなのと、ストックが切れたので不定期更新になると思いますが、良かったら気長にお付き合い下さい。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね、お気に入り大歓迎です!!

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...