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20 お宅訪問前日
しおりを挟むどうやら話の詰めは終わったようで、雑談に興じるアルトをぼんやりと見つめながら、何とも言えない郷愁を感じていた。
親とあんな風にくだらないことを言って笑い合ったのは遠い昔・・・。
その幸せがずっと続くと信じて疑わなかった。
あの後、晩御飯を食べて風呂に入って、精神的な疲れもあって自室で夢も見ずに熟睡した・・・はずなのに。
妙に気怠い。
見てないはずの夢をずっと見てたような・・・。
俺、寝てたつもりで眠れてなかったんだろうか。
・・・多分、ホームシックなんだろうな。
今まで考える余裕もなく、いや、無意識に避けていた思いが、アルトに出会って緊張が解けて。
昨日のアルトとお父さんの気安いやり取りで、一気に溢れ出してしまったんだろう。
---俺、本当にずっとこのまま、独りでここで生きていけるのか?
堂々巡りの思考が、ドアをノックする音で霧散した。
アルトだ。
「カムイ? おはよう、起きてるか?」
「---ああ、おはよう。起きてるよ」
裸足のままペタペタと床を歩いていき、ドアを開ける。
「昨夜は疲れてたみたいだから・・・」
「ううん、ありがとう。着替えて朝食にしよう。ちょっと待ってて」
そう言うとベッドに向かって歩きながら寝衣を脱いだ。
頭から被るタイプのチュニックのようなモノだから、裾から捲ってバサッと・・・ん?
「・・・アルト?」
背中を向いてる。
「・・・別に裸なんて見られても気にしないよ?」
男同士だし?
「・・・俺が構う・・・」
「え?」
何で?
って聞く間もなく、バタバタと部屋から出て行ったアルトに俺はピンときた。
「・・・同性愛者って事かな? 俺は別にそういうのに忌避感は無いけど・・・この世界って、ありなのかな?」
嫌悪感とか無いんだけど・・・・・・んん? なんか、モヤッとする・・・?
「何だろ、ヘンなの?」
黒いパンツを履き、白いシャツに深緑のベストを羽織ってキッチンへ向かうと、すでにアルトがコーヒーを煎れていた。
自分ちのように慣れたね、アルト君。
サラダとパン、スープを運んで貰い、フライパンでベーコンとスクランブルエッグを作る。
・・・アルトには大皿に山盛り。
それでも足りないかも。
朝食の後にアルトは少し世界樹の周りを見廻ってくると言うので、俺は家に引き籠もって久々に生産をしていた。
気を紛らわせる為でもある。
何かに打ち込んでる時だけは何もかも忘れていられた。
両親の死も、それに伴う裏切りも、憐れみの視線も・・・・・・俺が独りだっていう事も・・・。
そうやって黙々と隣接する作業場でポーションを作り、マジックバッグ(コッチではアイテムバッグをそう呼ぶので)用のバッグに刺繍を刺していたら、いつの間にかアルトがいて、俺の手元を覗き込んでいた。
「・・・あっアルト、いたんだ。ビックリしたぁ」
「驚かせてごめん。ノックしたんだけど、凄い集中してたみたいで。それ、綺麗だね」
俺が刺した刺繍を褒めてくれた。
「だろう? この辺りの野草を図案にしたんだ。アルトのお母さんにどうかなあって」
「---え、家の人に? 良いの?」
「もちろん。今、マジックバッグにするからちょっと待ってて・・・・・・はい。出来たよ。容量はこの家ぐらいで時間停止付き!」
「・・・・・・ありがとう。でも他所では絶対やっちゃ駄目だ。人に渡すのも。大騒ぎになって監禁されちゃうよ!」
「・・・・・・分かった」
そうだった。
ただでさえハイエルフでヤバいのにこれ以上目立って捕まりたくない。
監禁も軟禁も奴隷も駄目!! 絶対!!
考えたらなんか急に苦しくなって、息が・・・。
あ、ヤバいこれ、過呼吸だ。
ああ、ごめん。
アルトに心配かけちゃった・・・。
そのまま倒れた俺は夜まで眠っていたらしい。
お腹が空いて目が覚めた。
そう言えばお昼食べてないや。
生きているから腹が減る。
・・・うん、現実的だ。
どうも情緒不安定だなあ。
御飯食べよ。
キッチンではアルトが男飯を作っていた。
ドンと盛られた大皿には塩コショウして焼いた何かの肉、肉、肉!
おまけ程度のサラダとスープ。
「・・・カムイ、食べよう!」
「・・・・・・うん、す、凄いね?」
「・・・・・・ごめん。野営とかの大人数の大雑把な料理しか出来なくて・・・・・・」
シュンとするアルトに笑って言う。
「そんなことないよ。美味しいし、気持ちが嬉しい。ありがとう」
アルトは照れながらも凄いスピードで肉を平らげてた。
俺は笑いながら、とっても幸せな気分だった。
明日の朝、軽く朝食を取ってから、ワイバーンに乗っていくそうだ。
騎士団の人がアルトのワイバーンを連れて来てくれるらしい。
「ワイバーン!!」
格好良さそう。
プテラノドンみたいなのかな?
楽しみ!
「じゃあ、早く寝て早く起きなくちゃ!」
気分は遠足前夜。
ワクワクして眠れないかもと言ったら、アルトが『眠り』の魔法をかけてくれることになった。
そっか、そういう使い方もあるんだ。
「レジストしないように気を付けて。魔法がかかり難くなるから。・・・・・・言っておくけど、誰彼構わず信じないでよ?」
「分かってるってば。アルトだけだから!」
「誓ってね?」
「『誓います』これでいいでしょ? 宣誓魔法!」
「---っ嬉しいけど、無闇矢鱈に使わ「ないです!」・・・・・・了解」
やっとのことで納得したアルトにようやく魔法をかけて貰って、この日はぐっすりと眠れたようだった。
「おやすみ、カムイ。良い夢を」
額に口付けを貰ったような気がした。
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