パライソ~楽園に迷い込んだ華~

エウラ

文字の大きさ
上 下
20 / 42

20 お宅訪問前日

しおりを挟む

どうやら話の詰めは終わったようで、雑談に興じるアルトをぼんやりと見つめながら、何とも言えない郷愁を感じていた。

親とあんな風にくだらないことを言って笑い合ったのは遠い昔・・・。

その幸せがずっと続くと信じて疑わなかった。

あの後、晩御飯を食べて風呂に入って、精神的な疲れもあって自室で夢も見ずに熟睡した・・・はずなのに。

妙に気怠い。

見てないはずの夢をずっと見てたような・・・。
俺、寝てたつもりで眠れてなかったんだろうか。

・・・多分、ホームシックなんだろうな。

今まで考える余裕もなく、いや、無意識に避けていた思いが、アルトに出会って緊張が解けて。
昨日のアルトとお父さんの気安いやり取りで、一気に溢れ出してしまったんだろう。

---俺、本当にずっとこのまま、独りでここで生きていけるのか?

堂々巡りの思考が、ドアをノックする音で霧散した。
アルトだ。

「カムイ? おはよう、起きてるか?」
「---ああ、おはよう。起きてるよ」

裸足のままペタペタと床を歩いていき、ドアを開ける。

「昨夜は疲れてたみたいだから・・・」
「ううん、ありがとう。着替えて朝食にしよう。ちょっと待ってて」

そう言うとベッドに向かって歩きながら寝衣を脱いだ。
頭から被るタイプのチュニックのようなモノだから、裾から捲ってバサッと・・・ん?

「・・・アルト?」

背中を向いてる。

「・・・別に裸なんて見られても気にしないよ?」

男同士だし?

「・・・俺が構う・・・」
「え?」

何で?
って聞く間もなく、バタバタと部屋から出て行ったアルトに俺はピンときた。

「・・・同性愛者って事かな? 俺は別にそういうのに忌避感は無いけど・・・この世界って、ありなのかな?」

嫌悪感とか無いんだけど・・・・・・んん? なんか、モヤッとする・・・?

「何だろ、ヘンなの?」

黒いパンツを履き、白いシャツに深緑のベストを羽織ってキッチンへ向かうと、すでにアルトがコーヒーを煎れていた。

自分ちのように慣れたね、アルト君。

サラダとパン、スープを運んで貰い、フライパンでベーコンとスクランブルエッグを作る。

・・・アルトには大皿に山盛り。

それでも足りないかも。


朝食の後にアルトは少し世界樹の周りを見廻ってくると言うので、俺は家に引き籠もって久々に生産をしていた。

気を紛らわせる為でもある。

何かに打ち込んでる時だけは何もかも忘れていられた。
両親の死も、それに伴う裏切りも、憐れみの視線も・・・・・・俺が独りだっていう事も・・・。

そうやって黙々と隣接する作業場でポーションを作り、マジックバッグ(コッチではアイテムバッグをそう呼ぶので)用のバッグに刺繍を刺していたら、いつの間にかアルトがいて、俺の手元を覗き込んでいた。

「・・・あっアルト、いたんだ。ビックリしたぁ」
「驚かせてごめん。ノックしたんだけど、凄い集中してたみたいで。それ、綺麗だね」

俺が刺した刺繍を褒めてくれた。

「だろう? この辺りの野草を図案にしたんだ。アルトのお母さんにどうかなあって」
「---え、家の人に? 良いの?」
「もちろん。今、マジックバッグにするからちょっと待ってて・・・・・・はい。出来たよ。容量はこの家ぐらいで時間停止付き!」
「・・・・・・ありがとう。でも他所では絶対やっちゃ駄目だ。人に渡すのも。大騒ぎになって監禁されちゃうよ!」
「・・・・・・分かった」

そうだった。
ただでさえハイエルフでヤバいのにこれ以上目立って捕まりたくない。
監禁も軟禁も奴隷も駄目!! 絶対!!

考えたらなんか急に苦しくなって、息が・・・。
あ、ヤバいこれ、過呼吸だ。

ああ、ごめん。
アルトに心配かけちゃった・・・。


そのまま倒れた俺は夜まで眠っていたらしい。

お腹が空いて目が覚めた。
そう言えばお昼食べてないや。

生きているから腹が減る。
・・・うん、現実的だ。

どうも情緒不安定だなあ。

御飯食べよ。



キッチンではアルトが男飯を作っていた。

ドンと盛られた大皿には塩コショウして焼いた何かの肉、肉、肉!
おまけ程度のサラダとスープ。

「・・・カムイ、食べよう!」
「・・・・・・うん、す、凄いね?」
「・・・・・・ごめん。野営とかの大人数の大雑把な料理しか出来なくて・・・・・・」

シュンとするアルトに笑って言う。

「そんなことないよ。美味しいし、気持ちが嬉しい。ありがとう」

アルトは照れながらも凄いスピードで肉を平らげてた。
俺は笑いながら、とっても幸せな気分だった。



明日の朝、軽く朝食を取ってから、ワイバーンに乗っていくそうだ。

騎士団の人がアルトのワイバーンを連れて来てくれるらしい。

「ワイバーン!!」

格好良さそう。
プテラノドンみたいなのかな?
楽しみ!

「じゃあ、早く寝て早く起きなくちゃ!」

気分は遠足前夜。

ワクワクして眠れないかもと言ったら、アルトが『眠り』の魔法をかけてくれることになった。

そっか、そういう使い方もあるんだ。

「レジストしないように気を付けて。魔法がかかり難くなるから。・・・・・・言っておくけど、誰彼構わず信じないでよ?」
「分かってるってば。アルトだけだから!」
「誓ってね?」
「『誓います』これでいいでしょ? 宣誓魔法!」
「---っ嬉しいけど、無闇矢鱈に使わ「ないです!」・・・・・・了解」

やっとのことで納得したアルトにようやく魔法をかけて貰って、この日はぐっすりと眠れたようだった。

「おやすみ、カムイ。良い夢を」

額に口付けを貰ったような気がした。






しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね、お気に入り大歓迎です!!

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...