パライソ~楽園に迷い込んだ華~

エウラ

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19 波乱の予感(sideフルクベルト)

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公爵邸の庭で朝の鍛錬をしていたところ、腕輪に通信が入った。
急いで四阿に入り、防音結界と認識阻害の魔法を張った。

「・・・・・・どうした、こんなに朝早く」
〔・・・すみません、ちょっと調べて貰いたいことがありまして・・・〕

思った通りアルトからだった。
どうやら色々と問題があるようだな。

〔・・・実は昨夜、泥酔したカムイが錯乱しまして、その、もしかすると以前に囲われて、凌辱されていたのかもしれないのです〕
「---それは、本当か?!」
〔本人は覚えていないようですが、『痛い、触るな、止めて、死にたい、殺して』などと叫んで暴れていたんです。あまりにも酷いので魔法で強制的に眠らせたのですが・・・〕

確かに、そう言う目にあった今までの被害者もよく死にたい、殺してくれと言って錯乱していたな・・・。
まさか、本当に?

〔それで記憶を封じてしまったのかもしれません。また何か分かり次第連絡をしますが、そちらでも情報を集められればと〕
「分かった。調べてみよう。彼の身体的な特徴は?」
〔身長は俺より頭一つ分低くて、体は細いです。俺の厚みの半分ほど。腰まである青銀の髪に翡翠色の瞳、あと・・・彼、俺より年上でした〕

ふむふむと聞いていたが、最後の年齢が・・・。

「年上? 昨日は年下っぽいと言ってなかったか?」
〔見た目はそうです。実は昨夜、お酒の話になってお互いの年齢を確認したんです。ステータスの話になって、それでも確認しました。間違いなく26歳でした〕
「---26歳?! と言うか、ステータスも見たのか!」
〔---色々と問題のあるステータスでした。本人は何が問題なのか全く分かっていませんが・・・それは帰還するときにでも〕
「・・・・・・分かった。引き続き情報を集めてくれ。2,3日は滞在して良いが、母さんも心配しているからちゃんと戻れよ」
〔はい。ではまた〕

通信が切れたので魔法を解くと、いつの間にかエンドルフィンが来ていた。

「おはよう。朝っぱらからアルトからか?」
「ああ、おはよう。そうだ。詳しくは出勤してからだが・・・少々厄介かもしれん」
「・・・と言うと?」
「・・・・・・彼が以前囲われていた形跡があると・・・」
「---っマジか」
「ああ、早急に情報を集めよう」
「了解。うわ---、なあ、本当に良い予感だったの?」
「・・・・・・煩い」
「たまには外れ・・・・・・いや、スマン!!」

だから剣先で突かないで---!!


邸の使用人達も遠目でエンドルフィンを呆れて見ていた。




その日の午後、昼休憩をした直ぐ後に再び通信が入った。
ルーティンと化した人払いと防音結界を張る。

「---はい。どうした?」
〔早急にお伝えする新しい情報です〕
「・・・どのような?」
〔カムイは6年前から消息不明だったようです。転移魔法らしきモノで消えた後、見つからなかったと・・・〕
「---それは、誰からの情報?」
〔精霊です〕
「・・・・・・は?」

フルクベルトは耳を疑った。
精霊に会うなんて、滅多にないことだからだ。

〔カムイは精霊達と契約を結んでいたようで、その内の一人であるウンディーネが偶然、世界樹の近くの湖に眠っていたんです〕
「・・・・・・本当に?」
〔はい。後、アスガルド神の加護を持っていました。ウンディーネもアスガルド神からカムイの記憶喪失を聞いていたようでした〕

淡々と説明するアルト。
いや、報告だから分かるよ!
分かるけども!!

「・・・・・・ちょっと待て。情報が多すぎて飲み込めない。・・・・・・ええ? 精霊と神が絡んでるのか?」
〔後、彼は世界樹の森の魔獣を一刀両断する腕前でした。・・・・・・腕力は劣るようですが、技術は凄いです〕
「・・・・・・待てって言ったろう! 色々とぶっ込みすぎだ!」
〔---すみません。・・・今、彼は自分の部屋で情報を整理中です〕
「だろうな! 私だってそうするわ! で? 他には?!」
〔あっそうだ、彼に俺の任務がバレました〕
「はああ?! それ一番最初に言うヤツ!!」

お前ってそんなにおバカだったっけ?!
そこ、一番大事だろう!!
に身バレしてどうするんだよ!

〔・・・・・・すみません。それで、夕方の通信の時に俺の上司と話したいと言うのですが、構いませんか?〕
「---それは願ったりだが、大丈夫なのか」
〔本人、乗り気なので心配は無いかと・・・では夕方、また連絡を入れます〕

通信が切れた瞬間、どっと疲れが出た。

まだ午後が始まったばかりなのに・・・。

「フルクベルト---どんまい!」

エンドルフィンがポンと肩に右手を置いて、いい笑顔で左手の親指を立てた。

「・・・・・・てめえ、覚えてろよ」
「・・・・・・うわっ口調が崩れてるよ、ガチでヤバい!!」

そして長閑な昼下がり。
ここ数日恒例となった掛け合いが廊下を賑やかしているのだった。


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