19 / 42
19 波乱の予感(sideフルクベルト)
しおりを挟む公爵邸の庭で朝の鍛錬をしていたところ、腕輪に通信が入った。
急いで四阿に入り、防音結界と認識阻害の魔法を張った。
「・・・・・・どうした、こんなに朝早く」
〔・・・すみません、ちょっと調べて貰いたいことがありまして・・・〕
思った通りアルトからだった。
どうやら色々と問題があるようだな。
〔・・・実は昨夜、泥酔したカムイが錯乱しまして、その、もしかすると以前に囲われて、凌辱されていたのかもしれないのです〕
「---それは、本当か?!」
〔本人は覚えていないようですが、『痛い、触るな、止めて、死にたい、殺して』などと叫んで暴れていたんです。あまりにも酷いので魔法で強制的に眠らせたのですが・・・〕
確かに、そう言う目にあった今までの被害者もよく死にたい、殺してくれと言って錯乱していたな・・・。
まさか、本当に?
〔それで記憶を封じてしまったのかもしれません。また何か分かり次第連絡をしますが、そちらでも情報を集められればと〕
「分かった。調べてみよう。彼の身体的な特徴は?」
〔身長は俺より頭一つ分低くて、体は細いです。俺の厚みの半分ほど。腰まである青銀の髪に翡翠色の瞳、あと・・・彼、俺より年上でした〕
ふむふむと聞いていたが、最後の年齢が・・・。
「年上? 昨日は年下っぽいと言ってなかったか?」
〔見た目はそうです。実は昨夜、お酒の話になってお互いの年齢を確認したんです。ステータスの話になって、それでも確認しました。間違いなく26歳でした〕
「---26歳?! と言うか、ステータスも見たのか!」
〔---色々と問題のあるステータスでした。本人は何が問題なのか全く分かっていませんが・・・それは帰還するときにでも〕
「・・・・・・分かった。引き続き情報を集めてくれ。2,3日は滞在して良いが、母さんも心配しているからちゃんと戻れよ」
〔はい。ではまた〕
通信が切れたので魔法を解くと、いつの間にかエンドルフィンが来ていた。
「おはよう。朝っぱらからアルトからか?」
「ああ、おはよう。そうだ。詳しくは出勤してからだが・・・少々厄介かもしれん」
「・・・と言うと?」
「・・・・・・彼が以前囲われていた形跡があると・・・」
「---っマジか」
「ああ、早急に情報を集めよう」
「了解。うわ---、なあ、本当に良い予感だったの?」
「・・・・・・煩い」
「たまには外れ・・・・・・いや、スマン!!」
だから剣先で突かないで---!!
邸の使用人達も遠目でエンドルフィンを呆れて見ていた。
その日の午後、昼休憩をした直ぐ後に再び通信が入った。
ルーティンと化した人払いと防音結界を張る。
「---はい。どうした?」
〔早急にお伝えする新しい情報です〕
「・・・どのような?」
〔カムイは6年前から消息不明だったようです。転移魔法らしきモノで消えた後、見つからなかったと・・・〕
「---それは、誰からの情報?」
〔精霊です〕
「・・・・・・は?」
フルクベルトは耳を疑った。
精霊に会うなんて、滅多にないことだからだ。
〔カムイは精霊達と契約を結んでいたようで、その内の一人であるウンディーネが偶然、世界樹の近くの湖に眠っていたんです〕
「・・・・・・本当に?」
〔はい。後、アスガルド神の加護を持っていました。ウンディーネもアスガルド神からカムイの記憶喪失を聞いていたようでした〕
淡々と説明するアルト。
いや、報告だから分かるよ!
分かるけども!!
「・・・・・・ちょっと待て。情報が多すぎて飲み込めない。・・・・・・ええ? 精霊と神が絡んでるのか?」
〔後、彼は世界樹の森の魔獣を一刀両断する腕前でした。・・・・・・腕力は劣るようですが、技術は凄いです〕
「・・・・・・待てって言ったろう! 色々とぶっ込みすぎだ!」
〔---すみません。・・・今、彼は自分の部屋で情報を整理中です〕
「だろうな! 私だってそうするわ! で? 他には?!」
〔あっそうだ、彼に俺の任務がバレました〕
「はああ?! それ一番最初に言うヤツ!!」
お前ってそんなにおバカだったっけ?!
そこ、一番大事だろう!!
マルタイに身バレしてどうするんだよ!
〔・・・・・・すみません。それで、夕方の通信の時に俺の上司と話したいと言うのですが、構いませんか?〕
「---それは願ったりだが、大丈夫なのか」
〔本人、乗り気なので心配は無いかと・・・では夕方、また連絡を入れます〕
通信が切れた瞬間、どっと疲れが出た。
まだ午後が始まったばかりなのに・・・。
「フルクベルト---どんまい!」
エンドルフィンがポンと肩に右手を置いて、いい笑顔で左手の親指を立てた。
「・・・・・・てめえ、覚えてろよ」
「・・・・・・うわっ口調が崩れてるよ、ガチでヤバい!!」
そして長閑な昼下がり。
ここ数日恒例となった掛け合いが廊下を賑やかしているのだった。
117
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる