パライソ~楽園に迷い込んだ華~

エウラ

文字の大きさ
上 下
7 / 42

7 初めての来客

しおりを挟む

とりあえず、ココで話してるのもなんだし、とアルトをホームに招待した。

隠蔽と結界を解いたら急に現れたロッジに驚いていたけど。

ちょうどおやつの時間だしね。

「・・・嬉しいが、初対面の見ず知らずの男をそんなに簡単に家に上げたら駄目だろう。もう少し警戒心を持ってだな・・・」

ブツブツと苦言を呈するアルト。

「? 家に入れるのはアルトが初めてだし、ここに来た動物以外の生き物もアルトが初めてだよ。それに結界を越えてきたのなら悪い人じゃ無いでしょ?」
「えっ・・・初めてっ・・・いやそれでもだ!」

動揺したのか、真っ赤になったアルト。
めちゃくちゃ心配してくれるのが嬉しくてつい笑ってしまう。

「大丈夫だよ。一応自分の身は自分で守れる。でもありがとう。自分以外の人に会ったの初めてで、心配して貰うのも初めて」
「・・・・・・ここには独りで?」

コホン、と咳をして落ち着いたアルトが神妙に聞いてきた。

「うん、まぁね。気付いたら独りだった。ここから北のかなり遠いところで目が覚めて、周りは薄暗い森で何にも分からなかったから」

ここに辿り着けて良かったよ。

お茶とお菓子をテーブルに出しながら笑って言った。
アルトは何か考えていたようだけど。
お腹が空いた俺はピチのタルトをもっくもっくと食べては紅茶を飲んでいた。

「どうしてこの森にいたのか分からないのか」

アルトがカムイに尋ねた。
それになんと応えようか悩む。
巻き込まれ召喚なんて言えないし。
そもそもこの体ですでにこの世界の住人になってるしなぁ・・・。

うーんうーんと唸っていたらしい。
アルトが、分からないなら無理に話さなくてもいいよ、と言ってくれたのでそれに乗ることにした。

「とにかく知らないことが多すぎて。あの、ヘンなこと聞くけど、ここって何処? なんていう名前の場所なの? 森の外ってどうなってるの? どんな人が住んでるの?」
「・・・・・・カムイ、それって・・・」

アルトが悲痛な顔で聞いてくるけど、ごめんね。
絶対勘違いしてるだろうけど、本当に知らないんだもの。

「森で目覚めたときには何にも分からなくて。自分の名前くらいしか分からなかったから・・・教えてくれる人もいないから、ここから下手に動けずにいたんだ。なあ、アルトは詳しいの?」

せっかくの情報源を逃すものかと、かなり前のめりでアルトに迫っていたようで、若干引かれた。
ショック。

「それはまぁ、一般的な事は当然ね。・・・聞きたい?」
「! 聞きたい! 教えてくれるのか?! なら家に泊まっていって・・・ぁ、でも何か用事があったんだよな? 終わったら帰らないといけないなら・・・また後で・・・来られる・・・・・・?」

興奮してグイグイいっちゃったけど、よく考えたらアルトは森の外から来た人だから、帰る家があるんだよな。

・・・・・・泊まってなんて、無理だよな。

何しに来たのか知らないけど、用事が済んだらいなくなる人だった・・・。

思い至って、段々尻すぼみになっていく。

最初の勢いはどこへやら・・・・・・。
急に萎れたカムイに同情したのか、アルトが言いにくそうにしながらも泊まってやるよ、と約束してくれた。

「───ありがとう。じゃあ、二階の部屋を泊まれるように確認してくる。一階は好きに見てて。お風呂とトイレはそっちね」

そう言って部屋に向かったカムイの足取りは軽かった。





───その後ろ姿を見送った後、アルトが魔導具で何処かに連絡を取っていることには気付かなかった。




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

処理中です...