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第二章 王都編
王都出陣(sideグラキス)
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「え? 明日、王様に謁見?」
夕方になり、クラビスに抱えられて食堂に来たアルカスにそう告げると、キョトンとした顔で首を傾げた。
「何故に?」
簡潔に疑問を告げるアルカスに、申し訳ない顔で言う。
「お前を長い間捜していた事は陛下もご存じでな、体調を鑑みて断っていたのだが、昨日、誕生日祝いをしたのを知って、元気なら会わせろとの王命でなあ」
「それにしても急ですね。転移魔法陣の使用許可が下りたのですか? 明日は何時で?」
クラビスが渋い顔をする。
「午後なら何時でもいいそうだ。言われたのが今日の昼前でなあ。さすがのイグニスも物申したかったが、王命と言われては諾としか言えんのでな。急ぎタウンハウスに戻り、伝達魔導具で作戦会議をしたのよ」
アルカスは「作戦会議って?」な顔だが、クラビスにはしっかりと通じたようだ。
「アルカスはタウンハウスで衣装を着替えたりするくらいで、何も話さずともよい。そもそも謁見のマナーなど知らんだろう。先にその旨は伝えてある。不敬だなんだと言わせぬからの」
「大丈夫。絶対俺達が護るから」
「ん」
クラビスの言葉に安心したようだ。
クラビスに目配せをして、アルカスが視線を逸らしたときにメモ書きを渡す。
クラビスはさっと目を通し、小さく頷いた。
「取りあえず晩餐にしよう」
そうしてクロウ達も席について食事を済ませる。
クラビスはアルカスを連れて部屋に戻る。
明日の計画の為だ。
・・・・・・アルカスよ。許せ。
夜も更けた頃、クラビスから伝達魔導具で連絡が来た。
アルカスが寝たらしい。
・・・・・・さっきのメモにはアルカスを抱き潰せと書いたのだが。
『寝た』んじゃなくて『気絶した』の間違いだよな?
まあいい。
「簡潔に伝えると、アルカスはまだ体調が万全ではないという体を取る。一度顔合わせをしたのだからもういいだろうと突っぱねるつもりだ」
《そうですね。実際、まだまだですしね》
「後は、謁見中にがっちりお前とアルカスは夫夫と宣言して見せつける」
他貴族達にも周知させて、余計なもめ事を起こさぬよう。
《ということは・・・》
「お前は何時ものようにアルカスを溺愛しておればよい」
《了解です》
お互い、ニヤリと黒い笑みを浮かべる。
「・・・まだまだヤるんだろう? 抱き潰せとは言ったが、加減してやれよ?」
《昨夜よりは手加減してますが、いかんせんアルカスが無意識に煽ってくるので・・・》
苦笑しながら惚気る。
「アルカスは『天然』だからな。まあ、壊さないでくれよ」
《肝に銘じます。・・・では明日はその様に》
「ああ、お休み」
明日のアルカスが可哀想だが、これもお前を護るためだ。
「さあて、俺も久々に暴れたいが、どうかな」
独りごちて、明日に備えて眠った。
翌朝、支度を整えた我とクロウ達が玄関前で集まっていると、支度は済んでいるが眠ったままのアルカスを抱えたクラビスが現れた。
「クラビス、マジで抱き潰したのか」
フェイが呆れたように言う。
フェイも今回、同行するのだ。魔法の教師だからな。何か言われたときに対処するためだ。
「親公認で抱き潰せと言われれば当然だの」
苦笑いでウィスタリア様が言った。
そのウィスタリア様も同行する。彼がアルカスについて色々と説明する事になっている
森の賢者の異名を持つ彼が口添えすれば異論は出まい。
「さて参るか。お前達、邸は頼むぞ」
「行ってらっしゃいませ」
そう言って、転移魔法陣の間に行き、王都のタウンハウスへと移動した。
一瞬で転移し、目の前で待つイグニス達と軽く挨拶をし、作戦の確認をする。
昼餐を取って、皆も身支度を整え直す。
アルカスはとうとう目覚めなかった。
これでよかったのだが、やり過ぎだ。
仕方がないが・・・。
「・・・・・・」
皆がジト目で見る中、クラビスは涼しい顔だ。
イグニスが何とも言えない顔をしている。
私が苦笑して言った。
「蜜月なのだからこんなもんだよ。イグニスも覚えがあるだろう?」
「ぅぐっ、それは・・・そうだが、親としては複雑だ」
はあっと息を吐き出し、気持ちを切り替えたイグニスは、
「出陣!」
と、アルカスが聞いたら『ドコに戦をしに行くの?!』と言いそうなかけ声で王城へ向かった。
さあて、アルカスの初陣を勝利で飾ってやろうではないか!
そうして向かった謁見の間。
ここまでに通った廊下ですれ違った者は皆、将軍家総出での謁見に何事かと二度見三度見していた。
アルカスが戻ったことを知るものは、この王都では数えるほどしかいない。
クラビスに抱かれているアルカスをチラチラ見ている。
幾人かは髪色で我らが一族の者と察したようだ。
謁見の間に着くと、名乗りを上げる。
「将軍イグニス以下一族、国王陛下に謁見奉る」
兵士が重い扉を開く。
イグニスを筆頭に私、クロウ、クレインと進み、アルカスを抱いたクラビスとマール、ガラシア、ウィスタリア様とフェイが続く。
片膝をつき、右手を左胸に当てて頭を下げる。
そのまま、王が声をかけるまで待つ。
周りの貴族どもがひそひそと話しているが、聞こえているぞ。
アルカスが我らに似ていないなどと。
何も知らぬくせによくしゃべるわ。
そんな悪態を心の中でしていると、陛下が声をかけた。
「面をあげよ。楽にせよ」
「はっ」
体を起こしたイグニスにならい、我らも楽にする。
おうおう、王太子殿下もいらっしゃる。
「将軍は昨日ぶりじゃの。グラキスは久しいの。相変わらずの筋肉だのう」
「は、恐れ入ります」
「それで、その子供がアルカスか?」
陛下が興味深々で聞いてくる。
イグニスが代表で話す。
「はい。申し訳ないのですが、まだ本調子ではないため、今朝からこのように眠ったままで御座います」
そう言ってクラビスに目配せをする。
軽く頷き、クラビスが顔を見せるように抱え直す。
目蓋は閉じたままだが、今日は長い前髪を編み込んでサイドに流し、その顔がよく見えるようにしている。
小顔が強調され、整った眉も小ぶりな鼻も、薄桃色の可愛いらしい唇も陛下の御前に曝される。
見せたくは無い。見せたくは無いがっ!!
陛下達が息を呑んだのが分かった。
そうだろう!
アルカスは世界一可愛いのだ!
(たとえ親馬鹿と言われようとも)
少し間があって、陛下が動いた。
「随分と小さいの。本当に先日20歳になったのか? まだ未成年のようではないか」
陛下が驚いたように言う。
アルカスが起きていたら『小っさい言うな!』と言いそうだ。
何となく、皆がそれに思い至った感じがする。
我慢をしろ。
皆、肩が若干震えているぞ。
「これで20歳とは、色々と壊れそうだな」
王太子殿下も同意するが、『色々』とはどういう意味かな?
ウィスタリア様がこちらへと目配せをして、話し始めた。
「国王陛下、発言をよろしいでしょうか?」
「許す。ウィスタリア殿だな?」
「はい。ありがとう御座います。アルカスが時空の歪みで異世界へと渡っていた事はすでにご存じですね? その異世界では魔力が存在しません」
その言葉に陛下や王太子殿下、周りの貴族達もザワザワとする。
「ご存じの通り、魔力は成長し生きるために必要不可欠な物。それが一切無いそんな世界でアルカスが生き延びたことは本当に奇跡なのです」
皆が固唾を呑んでいる。
本当に生きていたことが奇跡だ。
だからこそ我らは全力でアルカスを護るのだ。
「無い魔力の代わりに、本来なら成長するべき骨や筋肉などを生命の維持に回していたと思われます。その弊害として、小柄な体のまま成長が止まってしまったと」
「・・・そうか。ではこれ以上は育たないのだな。不憫な・・・」
ヨシ!
陛下の同情が出たところでたたみかけるぞ!
「確かに不幸でした。ですが、こちらに戻ってこられた事によって、運命の出逢いがあったのです」
私がすかさず声を大にして言う。
陛下と王太子殿下がギョッとした。
先手必勝。
「クラビスという伴侶を得たのです」
「何だと?! それは誠か?!」
「はい。先日の20歳の誕生日にあわせて婚姻を致しました。神殿にも届は済んでおります」
「・・・・・・なんと」
あからさまに落胆する2人に、やはりと思う。
ここでアルカスを王太子の側妃辺りに据えようと思ったのだろう。
小柄で可愛いアルカスを見て、能力云々以外に気に入ったようだったしな。
「・・・クラビスとは、その方か」
「はい」
「其方はよいのか? その、子供のような容姿で」
言外に『見た目子供で欲情するのか?』と言っているようなものだ。
何とか言いくるめて離婚させようという腹づもりが見えるが・・・。
「問題御座いません。アルカスは私の元に現れました。神の采配です。私のステータスには『アルカスの夫』の称号が、アルカスには『クラビスの嫁』の称号が御座います。私達は神に認められた夫夫なのです」
そう言って、陛下の御前にも拘わらず愛おしげにアルカスに頬擦りをしてうっとりするクラビス。
・・・うむ。
安定の溺愛ぶり。演技でも何でもない、本気の溺愛だ。
陛下および周りの貴族どもが『ロリ』だの『ショタ』だの『変態』だの口々に呟いているが、聞こえているからな?
そんな事を言われてもクラビスには何のダメージもないぞ。
おいフェイ、先程より肩が震えているぞ。耐えろ。
そして残念だが、お前の出番はなさそうだ。
「・・・どういう事だ? 婚姻しても称号になどならないはずだが?」
陛下が驚いたように言う。
それにウィスタリア様が応えた。
「教会で神託がありました。アルカスが異世界で不遇な生活を送ったお詫びとして、愛する者と添い遂げられるようにと、番としてクラビスが選ばれました」
「・・・・・・そんな事が」
呆然とする陛下と王太子殿下、その他の貴族達。
「それが事実ならば、無理にでも引き裂こうものなら・・・」
「神罰が降るものと」
謁見の間は静寂に包まれた。
誰も何も言えずにいたが、ふと、アルカスが身じろいだ。
皆がハッとしてアルカスに注目する。
「・・・クラビス?」
か細い、やや高い声が静まり返った空気の中に響く。
「ここに。どうした?」
そう囁いてギュッと抱きしめると、嬉しそうに微笑んで、一言。
「大好き」
そう言って、再び眠ってしまった。
クラビスが何も言えずにアルカスの首筋に顔を埋めた。ちらりと見えた耳が赤い。
国王陛下、以下全員一致で思ったことだろう。
『ナニコレ。ノロケか!! 他所でやれ!』
結局、いたたまれない空気の中、陛下が
「もうよい、分かった。無理を言って済まなかったの。アルカスは養生するように」
と言って王太子殿下と退場していったので、小さく息を吐く。
他貴族達に声をかけられる前に謁見の間を後にした。
ひとまずこれで牽制にはなった。
アルカスのアレは完全に予定外だったが、結果的によい方向へと向いた。
クラビスのダメージだけで済んでよかったよかった。
しかし、私はもっと(物理的に)暴れたかった。
残念だ。
夕方になり、クラビスに抱えられて食堂に来たアルカスにそう告げると、キョトンとした顔で首を傾げた。
「何故に?」
簡潔に疑問を告げるアルカスに、申し訳ない顔で言う。
「お前を長い間捜していた事は陛下もご存じでな、体調を鑑みて断っていたのだが、昨日、誕生日祝いをしたのを知って、元気なら会わせろとの王命でなあ」
「それにしても急ですね。転移魔法陣の使用許可が下りたのですか? 明日は何時で?」
クラビスが渋い顔をする。
「午後なら何時でもいいそうだ。言われたのが今日の昼前でなあ。さすがのイグニスも物申したかったが、王命と言われては諾としか言えんのでな。急ぎタウンハウスに戻り、伝達魔導具で作戦会議をしたのよ」
アルカスは「作戦会議って?」な顔だが、クラビスにはしっかりと通じたようだ。
「アルカスはタウンハウスで衣装を着替えたりするくらいで、何も話さずともよい。そもそも謁見のマナーなど知らんだろう。先にその旨は伝えてある。不敬だなんだと言わせぬからの」
「大丈夫。絶対俺達が護るから」
「ん」
クラビスの言葉に安心したようだ。
クラビスに目配せをして、アルカスが視線を逸らしたときにメモ書きを渡す。
クラビスはさっと目を通し、小さく頷いた。
「取りあえず晩餐にしよう」
そうしてクロウ達も席について食事を済ませる。
クラビスはアルカスを連れて部屋に戻る。
明日の計画の為だ。
・・・・・・アルカスよ。許せ。
夜も更けた頃、クラビスから伝達魔導具で連絡が来た。
アルカスが寝たらしい。
・・・・・・さっきのメモにはアルカスを抱き潰せと書いたのだが。
『寝た』んじゃなくて『気絶した』の間違いだよな?
まあいい。
「簡潔に伝えると、アルカスはまだ体調が万全ではないという体を取る。一度顔合わせをしたのだからもういいだろうと突っぱねるつもりだ」
《そうですね。実際、まだまだですしね》
「後は、謁見中にがっちりお前とアルカスは夫夫と宣言して見せつける」
他貴族達にも周知させて、余計なもめ事を起こさぬよう。
《ということは・・・》
「お前は何時ものようにアルカスを溺愛しておればよい」
《了解です》
お互い、ニヤリと黒い笑みを浮かべる。
「・・・まだまだヤるんだろう? 抱き潰せとは言ったが、加減してやれよ?」
《昨夜よりは手加減してますが、いかんせんアルカスが無意識に煽ってくるので・・・》
苦笑しながら惚気る。
「アルカスは『天然』だからな。まあ、壊さないでくれよ」
《肝に銘じます。・・・では明日はその様に》
「ああ、お休み」
明日のアルカスが可哀想だが、これもお前を護るためだ。
「さあて、俺も久々に暴れたいが、どうかな」
独りごちて、明日に備えて眠った。
翌朝、支度を整えた我とクロウ達が玄関前で集まっていると、支度は済んでいるが眠ったままのアルカスを抱えたクラビスが現れた。
「クラビス、マジで抱き潰したのか」
フェイが呆れたように言う。
フェイも今回、同行するのだ。魔法の教師だからな。何か言われたときに対処するためだ。
「親公認で抱き潰せと言われれば当然だの」
苦笑いでウィスタリア様が言った。
そのウィスタリア様も同行する。彼がアルカスについて色々と説明する事になっている
森の賢者の異名を持つ彼が口添えすれば異論は出まい。
「さて参るか。お前達、邸は頼むぞ」
「行ってらっしゃいませ」
そう言って、転移魔法陣の間に行き、王都のタウンハウスへと移動した。
一瞬で転移し、目の前で待つイグニス達と軽く挨拶をし、作戦の確認をする。
昼餐を取って、皆も身支度を整え直す。
アルカスはとうとう目覚めなかった。
これでよかったのだが、やり過ぎだ。
仕方がないが・・・。
「・・・・・・」
皆がジト目で見る中、クラビスは涼しい顔だ。
イグニスが何とも言えない顔をしている。
私が苦笑して言った。
「蜜月なのだからこんなもんだよ。イグニスも覚えがあるだろう?」
「ぅぐっ、それは・・・そうだが、親としては複雑だ」
はあっと息を吐き出し、気持ちを切り替えたイグニスは、
「出陣!」
と、アルカスが聞いたら『ドコに戦をしに行くの?!』と言いそうなかけ声で王城へ向かった。
さあて、アルカスの初陣を勝利で飾ってやろうではないか!
そうして向かった謁見の間。
ここまでに通った廊下ですれ違った者は皆、将軍家総出での謁見に何事かと二度見三度見していた。
アルカスが戻ったことを知るものは、この王都では数えるほどしかいない。
クラビスに抱かれているアルカスをチラチラ見ている。
幾人かは髪色で我らが一族の者と察したようだ。
謁見の間に着くと、名乗りを上げる。
「将軍イグニス以下一族、国王陛下に謁見奉る」
兵士が重い扉を開く。
イグニスを筆頭に私、クロウ、クレインと進み、アルカスを抱いたクラビスとマール、ガラシア、ウィスタリア様とフェイが続く。
片膝をつき、右手を左胸に当てて頭を下げる。
そのまま、王が声をかけるまで待つ。
周りの貴族どもがひそひそと話しているが、聞こえているぞ。
アルカスが我らに似ていないなどと。
何も知らぬくせによくしゃべるわ。
そんな悪態を心の中でしていると、陛下が声をかけた。
「面をあげよ。楽にせよ」
「はっ」
体を起こしたイグニスにならい、我らも楽にする。
おうおう、王太子殿下もいらっしゃる。
「将軍は昨日ぶりじゃの。グラキスは久しいの。相変わらずの筋肉だのう」
「は、恐れ入ります」
「それで、その子供がアルカスか?」
陛下が興味深々で聞いてくる。
イグニスが代表で話す。
「はい。申し訳ないのですが、まだ本調子ではないため、今朝からこのように眠ったままで御座います」
そう言ってクラビスに目配せをする。
軽く頷き、クラビスが顔を見せるように抱え直す。
目蓋は閉じたままだが、今日は長い前髪を編み込んでサイドに流し、その顔がよく見えるようにしている。
小顔が強調され、整った眉も小ぶりな鼻も、薄桃色の可愛いらしい唇も陛下の御前に曝される。
見せたくは無い。見せたくは無いがっ!!
陛下達が息を呑んだのが分かった。
そうだろう!
アルカスは世界一可愛いのだ!
(たとえ親馬鹿と言われようとも)
少し間があって、陛下が動いた。
「随分と小さいの。本当に先日20歳になったのか? まだ未成年のようではないか」
陛下が驚いたように言う。
アルカスが起きていたら『小っさい言うな!』と言いそうだ。
何となく、皆がそれに思い至った感じがする。
我慢をしろ。
皆、肩が若干震えているぞ。
「これで20歳とは、色々と壊れそうだな」
王太子殿下も同意するが、『色々』とはどういう意味かな?
ウィスタリア様がこちらへと目配せをして、話し始めた。
「国王陛下、発言をよろしいでしょうか?」
「許す。ウィスタリア殿だな?」
「はい。ありがとう御座います。アルカスが時空の歪みで異世界へと渡っていた事はすでにご存じですね? その異世界では魔力が存在しません」
その言葉に陛下や王太子殿下、周りの貴族達もザワザワとする。
「ご存じの通り、魔力は成長し生きるために必要不可欠な物。それが一切無いそんな世界でアルカスが生き延びたことは本当に奇跡なのです」
皆が固唾を呑んでいる。
本当に生きていたことが奇跡だ。
だからこそ我らは全力でアルカスを護るのだ。
「無い魔力の代わりに、本来なら成長するべき骨や筋肉などを生命の維持に回していたと思われます。その弊害として、小柄な体のまま成長が止まってしまったと」
「・・・そうか。ではこれ以上は育たないのだな。不憫な・・・」
ヨシ!
陛下の同情が出たところでたたみかけるぞ!
「確かに不幸でした。ですが、こちらに戻ってこられた事によって、運命の出逢いがあったのです」
私がすかさず声を大にして言う。
陛下と王太子殿下がギョッとした。
先手必勝。
「クラビスという伴侶を得たのです」
「何だと?! それは誠か?!」
「はい。先日の20歳の誕生日にあわせて婚姻を致しました。神殿にも届は済んでおります」
「・・・・・・なんと」
あからさまに落胆する2人に、やはりと思う。
ここでアルカスを王太子の側妃辺りに据えようと思ったのだろう。
小柄で可愛いアルカスを見て、能力云々以外に気に入ったようだったしな。
「・・・クラビスとは、その方か」
「はい」
「其方はよいのか? その、子供のような容姿で」
言外に『見た目子供で欲情するのか?』と言っているようなものだ。
何とか言いくるめて離婚させようという腹づもりが見えるが・・・。
「問題御座いません。アルカスは私の元に現れました。神の采配です。私のステータスには『アルカスの夫』の称号が、アルカスには『クラビスの嫁』の称号が御座います。私達は神に認められた夫夫なのです」
そう言って、陛下の御前にも拘わらず愛おしげにアルカスに頬擦りをしてうっとりするクラビス。
・・・うむ。
安定の溺愛ぶり。演技でも何でもない、本気の溺愛だ。
陛下および周りの貴族どもが『ロリ』だの『ショタ』だの『変態』だの口々に呟いているが、聞こえているからな?
そんな事を言われてもクラビスには何のダメージもないぞ。
おいフェイ、先程より肩が震えているぞ。耐えろ。
そして残念だが、お前の出番はなさそうだ。
「・・・どういう事だ? 婚姻しても称号になどならないはずだが?」
陛下が驚いたように言う。
それにウィスタリア様が応えた。
「教会で神託がありました。アルカスが異世界で不遇な生活を送ったお詫びとして、愛する者と添い遂げられるようにと、番としてクラビスが選ばれました」
「・・・・・・そんな事が」
呆然とする陛下と王太子殿下、その他の貴族達。
「それが事実ならば、無理にでも引き裂こうものなら・・・」
「神罰が降るものと」
謁見の間は静寂に包まれた。
誰も何も言えずにいたが、ふと、アルカスが身じろいだ。
皆がハッとしてアルカスに注目する。
「・・・クラビス?」
か細い、やや高い声が静まり返った空気の中に響く。
「ここに。どうした?」
そう囁いてギュッと抱きしめると、嬉しそうに微笑んで、一言。
「大好き」
そう言って、再び眠ってしまった。
クラビスが何も言えずにアルカスの首筋に顔を埋めた。ちらりと見えた耳が赤い。
国王陛下、以下全員一致で思ったことだろう。
『ナニコレ。ノロケか!! 他所でやれ!』
結局、いたたまれない空気の中、陛下が
「もうよい、分かった。無理を言って済まなかったの。アルカスは養生するように」
と言って王太子殿下と退場していったので、小さく息を吐く。
他貴族達に声をかけられる前に謁見の間を後にした。
ひとまずこれで牽制にはなった。
アルカスのアレは完全に予定外だったが、結果的によい方向へと向いた。
クラビスのダメージだけで済んでよかったよかった。
しかし、私はもっと(物理的に)暴れたかった。
残念だ。
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