【完結】水と夢の中の太陽

エウラ

文字の大きさ
上 下
21 / 90
第一章 フォレスター編

ちょっとソコまでのはずが(sideクラビス)

しおりを挟む
気絶したアルカスを抱えて、それこそ風のように邸に戻った。

門のところで先に連絡をしてあったにもかかわらず、当然のように邸中大騒ぎになったが、ひとまずアルカスをベッドに寝かせて、イグニス様とクレイン様、ウィステリア様にも伝達魔導具で連絡をする。

領主代理のクロウ様と夫人のグラキス様はすぐに会えて、ひとまず先に状況報告をした。

「そうか。急なレベルアップの可能性か。しかし、ホーンラビットだろう?」
ふむ、と顎に手をあててしばし考えるグラキス様。
「見た感じ、怪我も無く特に体に異常はなさそうだな」
クレイン様は先にアルカスの様子を見てきたようで、そう言った。

「それで、アルカス様はエストレラ神の加護を持っていたのを思い出しまして」
フェイがそう告げると、お二方もハッと気付いたようだ。
「その加護が作用した可能性があるかと」
「・・・なるほど。有り得ん話では無いな。ともかく、イグニス達もおそらく転移してくるだろうから、揃ったらまた話し合おう」

私も、様子を見てくると言って、グラキス様は席を立った。




程なく、思った通りイグニス様とクレイン様、ガラシアが転移して来た。挨拶もそこそこに皆してアルカスの部屋に向かう。

「今は眠っているだけですが、倒れる前は痛みを訴えておりました。耐えきれずに気を失ったようです」
「・・・そうか。先に聞いた話ではレベルアップの影響かもと?」
「エストレラ神の加護が関係ある可能性が・・・。とにかく、アルカスが目覚めてからの確認になりますが」
「何時目覚めそうか分からないか?」
クレイン様が尋ねてくるが、正直分からない。

「こういう状況は初めてで、如何とも・・・」
苦虫をかみつぶしたように言う。
「・・・大丈夫だ」
クレイン様が背中をポンポンと叩いて慰めてくれた。

門でケビンさんにも励まされたのに、俺がしっかりしなくちゃ・・・。

「ホント、お前はアルカス絡みだと弱いな。死ぬわけじゃ無いんだから。お前がそんなんだと、目が覚めたときに幻滅されて振られるぞ!」
フェイが軽口を叩く。それに少し気持ちを浮上させていった。



そして皆ひとまずサロンに行ってお茶を飲むか、となった頃にウィステリア様も来て、お茶をしながら再びの状況報告。

結局、情報の擦り合わせだけで、詳しいことはアルカス待ちとなった。

ウィステリア様も暫く滞在する事になり、フェイもこのまま泊まることになった。
晩餐の後は各自の部屋で休むが、俺はアルカスが目覚めるまで一緒に居たくて、アルカスの部屋に泊まった。

「何かあればすぐに連絡を」

そう言って皆は戻って行った。


静かだ。アルカスが起きていないだけでこんなにも・・・。
連れ帰ってきたときも、周りがあんなに大騒ぎしていたのにピクリともせずに、ベッドに寝かせる時もその後も、生きているのか、本当に息をしてるのか心配になるくらい。

今だって、俺がこんなに側にいて抱き込んで口付けているのに・・・。
何の反応も返さないアルカスに、まさかこのまま・・・なんて嫌な考えがよぎる。

「本当に、俺はアルカスに関してはポンコツだな」
自嘲気味に呟く。
こんな日が来るとは思わなかった。
君のせいで弱くなる。
でも君のために強くもなる。

「一生一緒にって約束したんだから、こんなことで手放す気はないよ」

もう一度抱き込み直し、ぬくもりを感じながら目を閉じた。




そうして次の日、お昼前に眩しそうに目覚めたアルカスに歓喜と不安を覚えた。

支度を手伝っていたときはうわの空だった。何か考え事をしていたようで、俺の視線に気付いていないようだった。

嫌な予感がする。

はたしてそれは的中した。

本人は頭の中で考えたつもりだったのだろうそれは、しかしハッキリと、食堂にいた者全てに聞こえていた。

さっきは、そんなことを考えていたのか。
違う、違うよ。どう言えば伝わる?
俺達は皆、君を待ってた。
大切なんだ。

愛する君にならこの命差し出せるほどに。

君が死ねと言うなら死ぬし、一緒に死んでと言えば一緒に死のう。

君が別れてと言ったら、ソレだけは出来ないかな。君を殺して俺も死のう。

だから。


お願い。君を愛する気持ちを、君が俺に向ける愛情を。


疑わないで・・・・・・。


泣きそうな顔で皆を見てから俺を見て、やっと安心した表情で涙を拭って笑ってくれた。



その後のステータスチェックでの称号に『クラビスの嫁』って。

え、神様にも認定された?!

神様公認・・・・・・?!

この後の俺の気持ちは押してはかるべし。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら本でした~スパダリ御主人様の溺愛っぷりがすごいんです~

トモモト ヨシユキ
BL
10000回の善行を知らないうちに積んでいた俺は、SSSクラスの魂として転生することになってしまったのだが、気がつくと本だった‼️ なんだ、それ! せめて、人にしてくれよ‼️ しかも、御主人様に愛されまくりってどうよ⁉️ エブリスタ、ノベリズムにも掲載しています。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。 目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。 そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。 どうして僕はこんな所に居るんだろう。 それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか…… コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。 【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】 反応いただけるととても喜びます! 匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(⁠^⁠^⁠)  

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

俺のスキルがエロゲー仕様で泣けてくる

藤雪たすく
BL
ある事件から学校へ登校できなくなり引きこもっていたある日……目を覚ますと知らない場所へと飛ばされていた。 そこはまるでゲームの様な世界。 目覚めた俺が握りしめていた武器は……これ?

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

処理中です...