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第一章 フォレスター編
明けない夜はない(side待ち続けた者達)
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この宿は一般的な所よりは上の、防犯がしっかりした所だ。実はフォレスター家が経営に絡んでいるのは知られていない。
フォレスター家の影や、護衛を勤めていた者、元料理人など、怪我や事情により引退した者をフォローするためだが、もちろん、今回のようにフォレスター家で利用することも視野に入れたものである。
しかし、今回は急なことで、しかも奥方様や坊ちゃま(そんな歳ではないが、我らにとっては永遠に坊ちゃま)が宿泊されるなど、一体どうなされたのかと驚いていると。
「実は、アルカス様が見つかったのだ。今日は遅いので、こちらに一泊なさるそうだ」
と、ギルマスの側近から言われた言葉に狂喜乱舞したのは言うまでもない。
長年、待ち続けたのだ。絶対に生きていると。
やっと戻ってきた大切な宝。今夜は出来うる限りのおもてなしをさせていただきますとも。
宿の者達がひと通りの準備を終えた頃、宿に着いた皆は、各自割り当てられた部屋でひと息つき、一階の食堂で夕飯を食べた。
アルカスはマナーを気にしていたが、ここは庶民の宿。
庶民の食べ物だから気にするな、と言われて、しかし綺麗な所作でペロリと平らげた。
その後、部屋に戻り、部屋にあった風呂に大はしゃぎして、クラビスのシャツを寝間着代わりに早々にベッドで横になると秒で寝てしまった。
その晩、アルカスを除いた4人がグラキスの部屋に集まった。
クラビスが防音の結界を張ったタイミングでグラキスが口を開いた。
「それで、アルカスの様子は?」
「そうですね『御飯も美味しいし風呂も最高-!』と、終始ご機嫌でした」
クラビスが頬を緩めてそう言った。
「そうか、よかった」
ほっとした感じでグラキスが笑う。
「保護した時の事を詳しく聞いても? ザインは、ラスの森で保護したと言っただけで、他は情報をくれなかった」
クロウが話を促すと、他2人も居住まいを正す。
いやソレ、たぶん『保護した』って聞いた時点ですぐに駆けつけたので聞けなかっただけでは?
胡乱な目をマール(兄)に向ければ、目を逸らされた。うん、兄さんも苦労してるな。この2人を止められる者はいないだろう。・・・うん、将軍でも奥様は無理だな。
「・・・そうですね。ラスの森での討伐依頼を終えて街へ戻ろうとした矢先に水音がしたのです。少し先の湖へ向かったら、水底に沈んでいくアルカスを見つけて、慌てて引き上げました」
「っ、それで?」
三人とも一瞬動揺したが、そのまま話を促す。
「命に別状はなかったのですが、意識が戻らずそのまま畔で野営しました。ただ、湖から引き上げる時に一瞬見えた瞳がエメラルドグリーンでしたが、夜、目覚めて、見えた瞳がルビーレッドで」
その時の衝撃は忘れられない。
「自分の名前を伝えて彼に名を問うた時、急に震えて、ここはどこ?と。湖にいた理由も分からない、と。混乱したまま再び意識を失ってしまい、その時は確信が持てませんでした」
それに、
「そもそも、あの見た目で19才とは思わなかったもので・・・・・・」
・・・・・・
「そうだよな。確かに小さいよな」
「成人していて尚かつ、もうじき20才になる者の体格としては、あまりにも・・・。アルカスと分かっていても未成年かと思ったぞ」
「これ以上は育たないかもな」
皆ではあ、と溜息を吐く。
「本人が気にしているので、あまり言わないであげて下さい」
「それで? ステータスを見たのか」
「はい。もちろん簡単に見せるなと、信頼している者に見せなさいと。しかしそれでも私ならいいと」
思わずにやける。
「お前のそんな顔初めて見たよ」
呆れたような声で、マールが呟く。ゴホン。失礼。
「それで」
と前置きして、異空間収納バッグから書き留めていたアルカスのステータスを出して見せる。
皆が息を呑んだ。
「・・・・・・なるほど。クラビスの元に現れたのは運命だったんだろうな」
よもや、異世界なんて所にいたとは・・・。
そりゃあ捜しても見つからないはずだ。
「運良く孤児院で育てられたようですが、やはりご苦労されたようです。お小さいのも環境が関係しているのでしょう。口には出しませんが、皆様との体格差を気になさっておいでのようでした」
「・・・初見だが、私の母-アルカスには母方の祖母に当たるが、母がアルカスによく似ている。いやアルカスが似ているのか。隔世遺伝だろう。おそらく、鍛えても筋肉は付きにくい。ステータスを見るに魔導師向きだろうな」
なるほど。そういえば、奥様は大奥様に(体格が)似てないといわれていたな。
「聞いた話だと、どうやらその世界では魔法は存在せず、男女もほぼ同数いて異性婚がほとんど。同性同士も少数ですがいるそうです。しかし、子供は女性しか産めないそうなので・・・」
最初はビックリしていたな。
「幸い、本人は同性結婚も出産も嫌悪感はないそうです。初めに知れてよかった。よもや母君がこんな筋肉「ゴホン!」いや、衝撃的な再会にならずに済みました」
危ない危ない。
「そうか、やけにすんなり私を『母』と認識しているとは思ったが、クラビスのおかげか。まあ、異世界の常識はこちらに当てはまらないことが多いだろう。その辺りはクラビスに任せる。常に寄り添って、支えてやれ。・・・母として頼む」
グラキスが頭を下げる。ビックリして周りを見ると残りの2人も頭を下げていた。
「俺たちからも、家族として頼む。これから先、あいつを幸せにしてやってくれ」
「---ご家族皆で、でしょうが。頭をお上げ下さい!!」
「そうだな。皆で今までの分を取り戻しながら幸せにしてやろうな」
そう言って散開した。
フォレスター家の影や、護衛を勤めていた者、元料理人など、怪我や事情により引退した者をフォローするためだが、もちろん、今回のようにフォレスター家で利用することも視野に入れたものである。
しかし、今回は急なことで、しかも奥方様や坊ちゃま(そんな歳ではないが、我らにとっては永遠に坊ちゃま)が宿泊されるなど、一体どうなされたのかと驚いていると。
「実は、アルカス様が見つかったのだ。今日は遅いので、こちらに一泊なさるそうだ」
と、ギルマスの側近から言われた言葉に狂喜乱舞したのは言うまでもない。
長年、待ち続けたのだ。絶対に生きていると。
やっと戻ってきた大切な宝。今夜は出来うる限りのおもてなしをさせていただきますとも。
宿の者達がひと通りの準備を終えた頃、宿に着いた皆は、各自割り当てられた部屋でひと息つき、一階の食堂で夕飯を食べた。
アルカスはマナーを気にしていたが、ここは庶民の宿。
庶民の食べ物だから気にするな、と言われて、しかし綺麗な所作でペロリと平らげた。
その後、部屋に戻り、部屋にあった風呂に大はしゃぎして、クラビスのシャツを寝間着代わりに早々にベッドで横になると秒で寝てしまった。
その晩、アルカスを除いた4人がグラキスの部屋に集まった。
クラビスが防音の結界を張ったタイミングでグラキスが口を開いた。
「それで、アルカスの様子は?」
「そうですね『御飯も美味しいし風呂も最高-!』と、終始ご機嫌でした」
クラビスが頬を緩めてそう言った。
「そうか、よかった」
ほっとした感じでグラキスが笑う。
「保護した時の事を詳しく聞いても? ザインは、ラスの森で保護したと言っただけで、他は情報をくれなかった」
クロウが話を促すと、他2人も居住まいを正す。
いやソレ、たぶん『保護した』って聞いた時点ですぐに駆けつけたので聞けなかっただけでは?
胡乱な目をマール(兄)に向ければ、目を逸らされた。うん、兄さんも苦労してるな。この2人を止められる者はいないだろう。・・・うん、将軍でも奥様は無理だな。
「・・・そうですね。ラスの森での討伐依頼を終えて街へ戻ろうとした矢先に水音がしたのです。少し先の湖へ向かったら、水底に沈んでいくアルカスを見つけて、慌てて引き上げました」
「っ、それで?」
三人とも一瞬動揺したが、そのまま話を促す。
「命に別状はなかったのですが、意識が戻らずそのまま畔で野営しました。ただ、湖から引き上げる時に一瞬見えた瞳がエメラルドグリーンでしたが、夜、目覚めて、見えた瞳がルビーレッドで」
その時の衝撃は忘れられない。
「自分の名前を伝えて彼に名を問うた時、急に震えて、ここはどこ?と。湖にいた理由も分からない、と。混乱したまま再び意識を失ってしまい、その時は確信が持てませんでした」
それに、
「そもそも、あの見た目で19才とは思わなかったもので・・・・・・」
・・・・・・
「そうだよな。確かに小さいよな」
「成人していて尚かつ、もうじき20才になる者の体格としては、あまりにも・・・。アルカスと分かっていても未成年かと思ったぞ」
「これ以上は育たないかもな」
皆ではあ、と溜息を吐く。
「本人が気にしているので、あまり言わないであげて下さい」
「それで? ステータスを見たのか」
「はい。もちろん簡単に見せるなと、信頼している者に見せなさいと。しかしそれでも私ならいいと」
思わずにやける。
「お前のそんな顔初めて見たよ」
呆れたような声で、マールが呟く。ゴホン。失礼。
「それで」
と前置きして、異空間収納バッグから書き留めていたアルカスのステータスを出して見せる。
皆が息を呑んだ。
「・・・・・・なるほど。クラビスの元に現れたのは運命だったんだろうな」
よもや、異世界なんて所にいたとは・・・。
そりゃあ捜しても見つからないはずだ。
「運良く孤児院で育てられたようですが、やはりご苦労されたようです。お小さいのも環境が関係しているのでしょう。口には出しませんが、皆様との体格差を気になさっておいでのようでした」
「・・・初見だが、私の母-アルカスには母方の祖母に当たるが、母がアルカスによく似ている。いやアルカスが似ているのか。隔世遺伝だろう。おそらく、鍛えても筋肉は付きにくい。ステータスを見るに魔導師向きだろうな」
なるほど。そういえば、奥様は大奥様に(体格が)似てないといわれていたな。
「聞いた話だと、どうやらその世界では魔法は存在せず、男女もほぼ同数いて異性婚がほとんど。同性同士も少数ですがいるそうです。しかし、子供は女性しか産めないそうなので・・・」
最初はビックリしていたな。
「幸い、本人は同性結婚も出産も嫌悪感はないそうです。初めに知れてよかった。よもや母君がこんな筋肉「ゴホン!」いや、衝撃的な再会にならずに済みました」
危ない危ない。
「そうか、やけにすんなり私を『母』と認識しているとは思ったが、クラビスのおかげか。まあ、異世界の常識はこちらに当てはまらないことが多いだろう。その辺りはクラビスに任せる。常に寄り添って、支えてやれ。・・・母として頼む」
グラキスが頭を下げる。ビックリして周りを見ると残りの2人も頭を下げていた。
「俺たちからも、家族として頼む。これから先、あいつを幸せにしてやってくれ」
「---ご家族皆で、でしょうが。頭をお上げ下さい!!」
「そうだな。皆で今までの分を取り戻しながら幸せにしてやろうな」
そう言って散開した。
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