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第一章 フォレスター編
街へ行こう
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詳しい話は道すがら、ということで、野営地を後に、街へ向かった。
どうやらクラビスはギルドの依頼でここに来ていたらしく、ひとまず依頼完了の手続きをしないといけないそうだ。
「俺のせいで一日無駄にしちゃった? ゴメン」
「そんなことないよ。おかげでアルカスに逢えた。最高のご褒美だ」
ちなみに口調は今まで通り、俺も普通に話すからって言って了承して貰った。
最初は渋ったけど、俺の両腕の鳥肌を見て苦笑交じりでおっけーして貰ったよ。
地球では親無し、一般人を地で行ってたから、急に敬われても反応に困る。
「ここから半日くらい歩くけど、アルカスに合わせて少しペースを落とそう。キツいから」
まあ、いつでも抱えて運んであげるけどね。と、爽やか男前イケメン。滅びろ。
どうせタッパも足の長さも違うヨ!
そうして歩きながらまずは家族のことを聞いてみた。
フォレスター家はこの世界にある大国ユグドランの侯爵家で、東に位置する辺境伯領の隣に領地を持つ武系の家だそう。
侯爵家って上から数えたほうが早くね? 専属の護衛の家があるくらいだからそこそこな家柄とは思ったけど。ひえぇ・・・。
「ちなみにお父上は将軍だよ」
「暴れん坊か?!」
某馬に乗ったショーグン様を思い浮かべてしまった。
「? 確かに昔はやんちゃだったと聞いたが」
「ああ、いや何でもない。そっか」
次に、某馬に乗った覇王を思い浮かべて、慌てて頭を振って忘れた。
「それで、俺が三男だから上に兄が二人いるんだよね? どんな人?」
話を変えた俺にちょっと苦笑してクラビスが答える。
「嫡男殿は、今年30になる。次期当主で、10年前に御結婚され、ご長男が今、7才だよ。将軍職でお忙しいお父上に代わり、領主代行をされている。奥方は同い年で、俺の兄だ。護衛兼従者をしていた」
「へぇ、甥っ子かあ・・・・・・。ん?」
なんか、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
「クラビスのお兄さんが奥さん? え、出産したってこと?!」
「そうだ。何か変か? ごく普通だぞ。そもそも女性は少ない」
「おおう・・・・・・。出た。『俺の常識、非常識』ってヤツだあ」
思わず天を仰ぐ。
それを聞いてクラビスが眉をひそめた。
「・・・もしかして、あっちの世界では同性同士はないのか?」
「いやいや、少ないけどあるよ。結婚できる国もあるし。・・・ただ一般的には異性婚かな。男女比は同じくらいだし、そもそも男は子供が産めない」
これにはクラビスが驚いた。
「じゃあ、アルカスは、その、同性同士は・・・」
「いや? 別に嫌悪なんてないよ。好きなら別に男だって構わない。好きな人いたこともないけど」
ほっとしたクラビスを見つめる。
「俺、向こうで運良く拾われて。コッチでいう孤児院で育ったんだけど、親に捨てられたり育児放棄や虐待で入ったヤツもいて」
施設を出るまでずっと、出てからも・・・。
「俺も捨てられたクチだから、そういうの見たり聞いたりするたび、いつも、無責任だなって思ってた。俺は独りでいいって」
「っ、アルカス、それは」
ずっと、捨てられたと、要らない子だと思ってた。この事実は一生消えないと思ってた。
「愛情を持ってキチンと育てる気持ちがないなら、子供作んなっていつも思ってた。やむを得ない事情もあるかもだけど、子供は親を、生まれる場所を選べないんだから」
クラビスが何かを言う前に言葉を続ける。
「貴族とかって、政略結婚とか多そうだよね。俺は悪いけどお断りだ」
そう言って、にっこりと笑ってやった。牽制も兼ねて。
案の定、何かを言いたそうな顔をしていたが、口は閉じてくれた。
大丈夫、俺は要らない子じゃなかったって知ったから。きっと、人を愛せる。
今ならそう言えるよ。
で、詳しく聞いたら、基本、そういう魔法があって、そういう行為の時に使うとデキるらしい。百発百中ではないので、欲しいときは数を熟すと・・・。生々しいです。恥ずかしいです。聞いててナンだけど、この歳で未経験者。
悪いか---!!
絶対クラビスにバレてる! 顔が熱い。生温かい目が・・・。
そして俺は嫁ポジだそうだ。だよね?! 分かってたよ!!
でも、
「クラビスならありだな」
なんて、ぽそっと口から溢れて。
存外、クラビスと一緒にいることに心地よさを感じている自分に驚いた。さっきは独りでいいって言ってたくせに。
それを拾ったクラビスが片手で口を覆って耳まで赤く染めてた事には気付かなかった。
脱線したが、次兄の事を聞く。
「次兄殿は、武芸もそうだが、魔法にも長けていて、国の魔法騎士団で副団長をされている。歳は25。やはり護衛兼従者の俺の従兄弟と御結婚され、3歳になるご長男がおられる。ちなみに従兄弟は27で姐さん女房ってヤツだ。同じく魔法騎士で夫となる副団長の補佐を務めている」
ほへー。兄達も凄いがクラビスんちもヤバいな。そんでもって嫁ポジと。
まあ子供の頃から命預けてるんだもんな。親密になって当然か。ていうか、なんかうちの家族って皆、恋愛結婚? 貴族なのに?
・・・俺たちは出会ったばかりだけど、そんな関係になれるのかな? 嫁はともかく。
そもそも俺は、筋トレと喧嘩はよくしてたけど、体格には恵まれず、この世界の事は何も分からない。
---俺、そんな凄い家の役になんて立てないよな、きっと。
そもそも今までずっといなくたって、やってきてるんだし・・・。神様だって、好きに生きていいって。
やっぱり、どこか遠くの村とかでスローライフかなあ。そうしたらクラビスだって一緒にいる意味ないよな。主従関係なんて必要ないし・・・。
胸の奥がチリってしたのには気付かない振りをして、母親の事を聞いてみた。
「で、俺の母さんって?」
一瞬眉をひそめたクラビスは、少しの沈黙の後、深く溜息を吐いて仕方なさそうに言った。
「お母上はお父上の更に上を行く筋肉ダルマ、いえ、覇王、いやいや戦闘狂」
・・・・・・。
全く誤魔化せてないよ、クラビス。そっか。一番怒らせてはいけない人なんだね。
説明を諦めて遠くを見つめながら、そろそろ昼休憩にしようとクラビスが言うので、お昼を食べることにした。
ここから後少し、1時間もしたら街に着くらしい。
よかった。これでもけっこう鍛えてたんだけど、さすがにサバイバルの経験はないから肉体的にも精神的にも疲れている。
お腹が膨れたら眠気が襲ってきた。ヤバい。
うとうとしていたらクラビスが
「寝てていいよ」
なんて優しく頭を撫でるから、睡魔に勝てなかった。
だって、頭を撫でられたのなんてうんと子供の頃で。
優しくて嬉しくて、幸せな気持ちで。・・・違う。クラビスだからこんな気持ちになるんだ。
ああそうか。唐突に理解した。
---クラビスが好きだ。
水の中で見た、夢だと思ってた、きらきらな太陽・・・。
あの時に、俺は、クラビスに一目惚れしたんだ。だからこんなにも気持ちを預けられる。
知らない世界で、いくらここの人間だって言われてもそんなの、すぐに慣れる訳ない。
クラビスが抱きしめて見つめてくれるから。
さっきまで散々、独りがいいって。
20年弱、そう思ってたのに。
酷い独占欲が沸き起こって。
お願いだ。
ずっと一緒にいて、俺だけを照らして?
クラビス。
---俺だけの太陽。
どうやらクラビスはギルドの依頼でここに来ていたらしく、ひとまず依頼完了の手続きをしないといけないそうだ。
「俺のせいで一日無駄にしちゃった? ゴメン」
「そんなことないよ。おかげでアルカスに逢えた。最高のご褒美だ」
ちなみに口調は今まで通り、俺も普通に話すからって言って了承して貰った。
最初は渋ったけど、俺の両腕の鳥肌を見て苦笑交じりでおっけーして貰ったよ。
地球では親無し、一般人を地で行ってたから、急に敬われても反応に困る。
「ここから半日くらい歩くけど、アルカスに合わせて少しペースを落とそう。キツいから」
まあ、いつでも抱えて運んであげるけどね。と、爽やか男前イケメン。滅びろ。
どうせタッパも足の長さも違うヨ!
そうして歩きながらまずは家族のことを聞いてみた。
フォレスター家はこの世界にある大国ユグドランの侯爵家で、東に位置する辺境伯領の隣に領地を持つ武系の家だそう。
侯爵家って上から数えたほうが早くね? 専属の護衛の家があるくらいだからそこそこな家柄とは思ったけど。ひえぇ・・・。
「ちなみにお父上は将軍だよ」
「暴れん坊か?!」
某馬に乗ったショーグン様を思い浮かべてしまった。
「? 確かに昔はやんちゃだったと聞いたが」
「ああ、いや何でもない。そっか」
次に、某馬に乗った覇王を思い浮かべて、慌てて頭を振って忘れた。
「それで、俺が三男だから上に兄が二人いるんだよね? どんな人?」
話を変えた俺にちょっと苦笑してクラビスが答える。
「嫡男殿は、今年30になる。次期当主で、10年前に御結婚され、ご長男が今、7才だよ。将軍職でお忙しいお父上に代わり、領主代行をされている。奥方は同い年で、俺の兄だ。護衛兼従者をしていた」
「へぇ、甥っ子かあ・・・・・・。ん?」
なんか、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
「クラビスのお兄さんが奥さん? え、出産したってこと?!」
「そうだ。何か変か? ごく普通だぞ。そもそも女性は少ない」
「おおう・・・・・・。出た。『俺の常識、非常識』ってヤツだあ」
思わず天を仰ぐ。
それを聞いてクラビスが眉をひそめた。
「・・・もしかして、あっちの世界では同性同士はないのか?」
「いやいや、少ないけどあるよ。結婚できる国もあるし。・・・ただ一般的には異性婚かな。男女比は同じくらいだし、そもそも男は子供が産めない」
これにはクラビスが驚いた。
「じゃあ、アルカスは、その、同性同士は・・・」
「いや? 別に嫌悪なんてないよ。好きなら別に男だって構わない。好きな人いたこともないけど」
ほっとしたクラビスを見つめる。
「俺、向こうで運良く拾われて。コッチでいう孤児院で育ったんだけど、親に捨てられたり育児放棄や虐待で入ったヤツもいて」
施設を出るまでずっと、出てからも・・・。
「俺も捨てられたクチだから、そういうの見たり聞いたりするたび、いつも、無責任だなって思ってた。俺は独りでいいって」
「っ、アルカス、それは」
ずっと、捨てられたと、要らない子だと思ってた。この事実は一生消えないと思ってた。
「愛情を持ってキチンと育てる気持ちがないなら、子供作んなっていつも思ってた。やむを得ない事情もあるかもだけど、子供は親を、生まれる場所を選べないんだから」
クラビスが何かを言う前に言葉を続ける。
「貴族とかって、政略結婚とか多そうだよね。俺は悪いけどお断りだ」
そう言って、にっこりと笑ってやった。牽制も兼ねて。
案の定、何かを言いたそうな顔をしていたが、口は閉じてくれた。
大丈夫、俺は要らない子じゃなかったって知ったから。きっと、人を愛せる。
今ならそう言えるよ。
で、詳しく聞いたら、基本、そういう魔法があって、そういう行為の時に使うとデキるらしい。百発百中ではないので、欲しいときは数を熟すと・・・。生々しいです。恥ずかしいです。聞いててナンだけど、この歳で未経験者。
悪いか---!!
絶対クラビスにバレてる! 顔が熱い。生温かい目が・・・。
そして俺は嫁ポジだそうだ。だよね?! 分かってたよ!!
でも、
「クラビスならありだな」
なんて、ぽそっと口から溢れて。
存外、クラビスと一緒にいることに心地よさを感じている自分に驚いた。さっきは独りでいいって言ってたくせに。
それを拾ったクラビスが片手で口を覆って耳まで赤く染めてた事には気付かなかった。
脱線したが、次兄の事を聞く。
「次兄殿は、武芸もそうだが、魔法にも長けていて、国の魔法騎士団で副団長をされている。歳は25。やはり護衛兼従者の俺の従兄弟と御結婚され、3歳になるご長男がおられる。ちなみに従兄弟は27で姐さん女房ってヤツだ。同じく魔法騎士で夫となる副団長の補佐を務めている」
ほへー。兄達も凄いがクラビスんちもヤバいな。そんでもって嫁ポジと。
まあ子供の頃から命預けてるんだもんな。親密になって当然か。ていうか、なんかうちの家族って皆、恋愛結婚? 貴族なのに?
・・・俺たちは出会ったばかりだけど、そんな関係になれるのかな? 嫁はともかく。
そもそも俺は、筋トレと喧嘩はよくしてたけど、体格には恵まれず、この世界の事は何も分からない。
---俺、そんな凄い家の役になんて立てないよな、きっと。
そもそも今までずっといなくたって、やってきてるんだし・・・。神様だって、好きに生きていいって。
やっぱり、どこか遠くの村とかでスローライフかなあ。そうしたらクラビスだって一緒にいる意味ないよな。主従関係なんて必要ないし・・・。
胸の奥がチリってしたのには気付かない振りをして、母親の事を聞いてみた。
「で、俺の母さんって?」
一瞬眉をひそめたクラビスは、少しの沈黙の後、深く溜息を吐いて仕方なさそうに言った。
「お母上はお父上の更に上を行く筋肉ダルマ、いえ、覇王、いやいや戦闘狂」
・・・・・・。
全く誤魔化せてないよ、クラビス。そっか。一番怒らせてはいけない人なんだね。
説明を諦めて遠くを見つめながら、そろそろ昼休憩にしようとクラビスが言うので、お昼を食べることにした。
ここから後少し、1時間もしたら街に着くらしい。
よかった。これでもけっこう鍛えてたんだけど、さすがにサバイバルの経験はないから肉体的にも精神的にも疲れている。
お腹が膨れたら眠気が襲ってきた。ヤバい。
うとうとしていたらクラビスが
「寝てていいよ」
なんて優しく頭を撫でるから、睡魔に勝てなかった。
だって、頭を撫でられたのなんてうんと子供の頃で。
優しくて嬉しくて、幸せな気持ちで。・・・違う。クラビスだからこんな気持ちになるんだ。
ああそうか。唐突に理解した。
---クラビスが好きだ。
水の中で見た、夢だと思ってた、きらきらな太陽・・・。
あの時に、俺は、クラビスに一目惚れしたんだ。だからこんなにも気持ちを預けられる。
知らない世界で、いくらここの人間だって言われてもそんなの、すぐに慣れる訳ない。
クラビスが抱きしめて見つめてくれるから。
さっきまで散々、独りがいいって。
20年弱、そう思ってたのに。
酷い独占欲が沸き起こって。
お願いだ。
ずっと一緒にいて、俺だけを照らして?
クラビス。
---俺だけの太陽。
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