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第一章 フォレスター編
不可思議な子供(sideクラビス)
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その日、俺はフロウの街の冒険者ギルドで受けた依頼を熟すためにラスの森に来ていた。
魔獣の討伐を完了し、街へ向けて歩き出して間もなく。
水音がした。
この先には湖がある。けっこうデカくて深い。森には危険な魔獣が多くいるが、この湖には水の精霊がたくさん棲んでいて魔獣が近づけないので、冒険者の休憩所にもなっている。
誰か冒険者が足を滑らせでもしたのか?
そんな人の気配はなかったが、助けが要るなら、と急いで行ってみれば。
不思議な事に、湖面は凪いでいて、誰かが落ちたようには見えない。
「何だ?」
しかし、人の気配は湖の中からする。まさか。
(意識がないのか?! 湖底に沈んでるのか)
マズい、と慌てて上半身裸になり、脱いだ服を異空間収納バッグに放り込んで飛び込んだ。
かなり深い所に沈んでいってる黒髪の子供が見えた。やはり意識がないようで、重力に任せるがままピクリともしない。
(間に合うか?!)
体を抱き寄せる瞬間、薄らと開いた子供の瞳が自分を捉えた気がするが、すぐに閉じてしまった。
急いで岸に上がり子供の様子を窺うと、水を大分飲んだようで呼吸が弱かった。頭を固定して人工呼吸を何度かすると、げぼっと水を吐き出した。これで大丈夫。
だが意識はまだ戻らない。
生活魔法のドライで服ごと乾かし、自分も乾かす。子供に毛布を掛けて自分は服を着て焚き火を熾し、テントを張った。今日はここに泊まるようだろう。
そうして野営の準備をし、晩飯の支度が終わった頃、子供が目を覚ました。
声をかけるが、ぼーっとしている。様子が変だ、熱はなさそうだが。
そうして、長い前髪を避けて覗き込んだ瞳に驚いた俺の表情は平常だっただろうか。
子供の瞳は昼間、水の中で一瞬見たときは緑色のエメラルドのようだったが、夜になり焚き火の側で見る色は、ルビーのような紅い色で。
まさか、と思う。
しかし、動揺を隠し自己紹介をして子供の名前を聞いてみれば。
「ここはどこ?」
と不安げに呟いて。
フロウもラスの森も知らないようで、コテッと首を傾げる。それに何か予感がした。
気付いたら水の中だったと。
そうして、はっと気付いたように震えだした。
落ち着かせようと咄嗟に抱き込むと、華奢な体はすっぽりと腕の中に収まった。
何も分からない、と涙を溜めた綺麗な紅い瞳は震えが止まると同時に瞼の下に隠された。
曖昧な記憶。湖に突然現れたような不可思議な現象・・・。そしてこの子の容姿。
漆黒の髪に、昼と夜で色が変化する瞳は、この国ではとある貴族の直系しか受け継がないもので。
しかし年齢が合わないな、と結論は先延ばしにした。
期待した分の落胆は大きい。何度も繰り返されたソレに、慣れることはない。
ひとまず彼をテントに寝かせて、外の片付けをし、寝ず番は必要ないなと彼を抱き込み早々に眠りについた。
そして、朝食の後、昨日の続きを聞こうとしたら、ステータスの話になり
「クラビスさんを信頼します!」
と言われた。
何とも言えない嬉しい気持ちが沸き起こった。昨日の今日で、しかも実質十数時間しか過ごしていないのに。
「・・・分かった」
何とか答えて、見せられたステータスに、驚きと歓喜で数秒間固まった俺は悪くないと思う。
色々とぶっ込みすぎだ。
魔獣の討伐を完了し、街へ向けて歩き出して間もなく。
水音がした。
この先には湖がある。けっこうデカくて深い。森には危険な魔獣が多くいるが、この湖には水の精霊がたくさん棲んでいて魔獣が近づけないので、冒険者の休憩所にもなっている。
誰か冒険者が足を滑らせでもしたのか?
そんな人の気配はなかったが、助けが要るなら、と急いで行ってみれば。
不思議な事に、湖面は凪いでいて、誰かが落ちたようには見えない。
「何だ?」
しかし、人の気配は湖の中からする。まさか。
(意識がないのか?! 湖底に沈んでるのか)
マズい、と慌てて上半身裸になり、脱いだ服を異空間収納バッグに放り込んで飛び込んだ。
かなり深い所に沈んでいってる黒髪の子供が見えた。やはり意識がないようで、重力に任せるがままピクリともしない。
(間に合うか?!)
体を抱き寄せる瞬間、薄らと開いた子供の瞳が自分を捉えた気がするが、すぐに閉じてしまった。
急いで岸に上がり子供の様子を窺うと、水を大分飲んだようで呼吸が弱かった。頭を固定して人工呼吸を何度かすると、げぼっと水を吐き出した。これで大丈夫。
だが意識はまだ戻らない。
生活魔法のドライで服ごと乾かし、自分も乾かす。子供に毛布を掛けて自分は服を着て焚き火を熾し、テントを張った。今日はここに泊まるようだろう。
そうして野営の準備をし、晩飯の支度が終わった頃、子供が目を覚ました。
声をかけるが、ぼーっとしている。様子が変だ、熱はなさそうだが。
そうして、長い前髪を避けて覗き込んだ瞳に驚いた俺の表情は平常だっただろうか。
子供の瞳は昼間、水の中で一瞬見たときは緑色のエメラルドのようだったが、夜になり焚き火の側で見る色は、ルビーのような紅い色で。
まさか、と思う。
しかし、動揺を隠し自己紹介をして子供の名前を聞いてみれば。
「ここはどこ?」
と不安げに呟いて。
フロウもラスの森も知らないようで、コテッと首を傾げる。それに何か予感がした。
気付いたら水の中だったと。
そうして、はっと気付いたように震えだした。
落ち着かせようと咄嗟に抱き込むと、華奢な体はすっぽりと腕の中に収まった。
何も分からない、と涙を溜めた綺麗な紅い瞳は震えが止まると同時に瞼の下に隠された。
曖昧な記憶。湖に突然現れたような不可思議な現象・・・。そしてこの子の容姿。
漆黒の髪に、昼と夜で色が変化する瞳は、この国ではとある貴族の直系しか受け継がないもので。
しかし年齢が合わないな、と結論は先延ばしにした。
期待した分の落胆は大きい。何度も繰り返されたソレに、慣れることはない。
ひとまず彼をテントに寝かせて、外の片付けをし、寝ず番は必要ないなと彼を抱き込み早々に眠りについた。
そして、朝食の後、昨日の続きを聞こうとしたら、ステータスの話になり
「クラビスさんを信頼します!」
と言われた。
何とも言えない嬉しい気持ちが沸き起こった。昨日の今日で、しかも実質十数時間しか過ごしていないのに。
「・・・分かった」
何とか答えて、見せられたステータスに、驚きと歓喜で数秒間固まった俺は悪くないと思う。
色々とぶっ込みすぎだ。
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