重たい愛

エウラ

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愛が重たい 8

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翌日の朝早く、鳥の囀りの中寝惚けまなこで起きた僕は『おぉ、コレが噂に聞いた朝チュンかぁ』と妙な感慨に耽りながら自身に聖魔法を使った。

致したあとのあまりの怠さと筋肉痛に身動きが取れなかったから。

ちなみにこの聖魔法はバレると非常に身の危険が高くなるため、世間一般には普通の治癒魔法ということになっている。
知っているのは侯爵家と国王陛下と王太子殿下、その二人の側近達。あとは義父様の上司の宰相閣下だけだそうだ。

もちろん義父様がして他言無用の誓約魔法を使っている。
国王陛下達もせっかくの聖魔法使いを他国に奪われるのは得策でないと二つ返事で受けてくれたそうだ。

いや何それ。

国王陛下も頷かせるって、普段も凄いけど義父様って実はとっても凄い人!?
いや、義父様のお母様──僕には義祖母にあたる方が王女様だったのは知ってるけど、それにしてもねぇ。
まさか国王陛下の弱味を握ってるとか!?

そんな訳ないかー。
きっと王様と従兄弟だからだよね? 仲良しでいいなぁ。

そういうわけで、まあ使うのは本当に命に関わるようなときのみ。いわゆる最終手段だ。

僕は聖魔法を開花したあと魔力量もグンと増えて、攻撃系や補助系、果ては治癒系という全属性の魔法を使えるようになり、学園入学前にめちゃくちゃ頑張って無事習得したのを思い出していた。

───もの凄く大変だったけどナギと一緒に学園に通いたかった僕はむちゃくちゃ頑張ったんだ。結局一緒だったのはたった一年間だけだったけど。

「聖魔法を使えてよかったな」
「いやいや使い方間違ってないけど違うよね!?」

聖魔法を使ったのをジッと見ていたらしいナギ。
僕の隣で眩しい笑顔でそう言うナギに思わずツッコむ僕。

え? 最終手段だったんじゃって?
だってここは侯爵家だし、隣にはナギしかいないし、こんな効果抜群の治癒魔法の中の最上位魔法を自分に使わなくてどうするの。

普通の治癒魔法でも効くけど、たまに聖魔法使いって自覚するためにも必要でしょ?
自分に自覚ないと護る側が大変だってよく言われたけど、つい先日、その重要性にようやく気付いたからね。遅すぎだよね。

いやほんと、こういうのを『災い転じて福となす』って言うんだね・・・・・・。

そうしみじみ考えている間もナギがテキパキと僕の世話を焼いてくれて、気付いたらあっという間に朝食を食べて入浴マッサージに卒業式用の衣装の着替えまで済んでいた。

さすが侯爵家の使用人。ナギも凄いがプロは仕事が早い。

「お綺麗です、ナツメ様!」
「ありがとう、綺麗にしてくれて」

そう言って使用人達がうんうん頷くから、きっとプロの腕前と衣装がよかったんだなと僕も微笑んだ。

「支度は済んだか?」
「あ、にぃ──ナギ。はい、終わりました」

うっかり義兄様呼び死そうになってナギがムッとしたので慌てて言い直す。
すると蕩ける笑顔で目の前まで来ると、僕の右手をそっと掬い上げて口元に持っていき、唇で指先に触れる。

「───っに、ナギ!?」
「綺麗だ。俺の精霊」
「え? は?」

うっとりしながらそういわれてテンパる僕だってこういうことに耐性ないんだってば!

ちなみに今日の衣装はお揃いで、お互いの髪や瞳の色をさり気なく入れたコーディネートになっている。
ナギは黒をベースに僕の瞳の藍色で縁取りを刺繍してあるし、身に着けている白いクラバットのブローチも藍色。
対になる僕の衣装は白を基調に銀糸と薄いブルーの糸で刺繍が入っている。
もちろんクラバットのブローチはアイスブルー色だ。

ついでにいうと、黒髪の右サイドを器用に編み込んで、そこにも銀とアイスブルーの宝石で出来た髪留めが付いてる。

総額? 聞かないでくれる? たぶん僕の魔導師団の初任給じゃ足りないと思うよ。
そもそも社交界にもデビューしてないからこういう衣装を着る機会もなくて、汚したらどうしようとガクブルしてる。

「緊張しなくて大丈夫。いつもみたいに気楽にね。会場には父上も行くし、それに俺がエスコートするんだからな」

そう言ってウインクするナギにドキドキする。

ついこの間お互いの恋心を認識したばかりなのに、今朝になったら邸中の人達に『おめでとうございます』って言われて、卒業のお祝いかなって思ってたら───。

『ササナギ様とようやく結ばれて・・・・・・! おめでとうございます!』
『・・・・・・えっ!? そっち!?』

ていうか、昨日のアレやコレもそうだよね!? よく考えなくてもバレてるよね!?
恥ずかしい、どんな顔をすれば!? という感じで、朝の支度のときはもうわけ分かんなくなったよね。

でも、養子のときもそうだけどこんな僕でも皆は歓迎してくれて、凄く嬉しかった。

「ナツメー! とっても可愛いよー! 綺麗だよー!」
「あ、ありがとうございます、義父様」
「父上、抱き付かないで下さい。俺も我慢してるのに」
「そうですよ、旦那様! せっかくのお衣装がシワになってしまいます!」

執事長達に止められた義父様はごめんごめんと言いながら馬車に向かった。

「俺達も行こう」
「はい、じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ」

皆に見送られながら学園に向かった。

「そういえばエイダ、大丈夫かな? 心配かけたよね?」

馬車に乗ってから学園に向かう今になって気付いた。遅すぎだよ、僕!
薄情もんって言われるかな?

「バタバタしてて言い忘れてたが、ナツメを救出したときにもいてな、ナツメの無事を自分の目で確認してたから心配ない」
「逆に『自分が側を離れたせいだ』と落ち込んでいたから、会場で会ったら慰めてあげるといいよ」

ナギと義父様にそう言われて、僕はぱあっとして頷いた。

「分かりました!」

それからは他愛もない雑談をして、学園に到着したので馬車を降りる。
先に義父様、次にナギが降りたときに馬車の昇降場にざわめきが起こった。

───あ、ナギは在学中も凄い人気だったもんね。卒業以来、学園に来ることもなかったし。
だから皆、驚いてるんだろうな。

・・・・・・僕のナギなのに、近付かないで。

そんな風に思うなんて、僕って独占欲強かったのかも。
そう思って俯いていたら、ナギが馬車の中に顔を入れて、僕に囁くように微笑んで言った。

「ナツメ、そんな顔をしないで。嫉妬も嬉しいが、俺が愛してるのはナツメだけだよ」
「───っし、嫉妬なんて・・・・・・あ、コレが・・・・・・?」

そうか、僕はナギが大好きだから嫉妬したのか。

「そこらにいる有象無象の地位や金目当ての輩なぞ放っておけ。お前にはもう指一本触れさせん。だから俺だけ見つめていればいい」
「・・・・・・はい、ササナギ義兄様。ありがとうございます」
「・・・・・・ここからは公の場だから俺もになって貴族の仮面を被るが、ナツメに愛称で呼ばれないのは辛いな」

そう苦笑してから身体を離し、僕に手を差し出した。

「お手をどうぞ。ナツメ」
「───はい」

そうしてナギにエスコートされて馬車を降りるとざわめきが更に大きくなったが、ナギに言われたとおりナギの格好良くて綺麗な顔だけ見つめて微笑んだ。

ざわめきがいっそう強くなったとき、この三年間で聞き慣れた声が僕の名を呼んだのが聞こえた。
エイダだ。僕の顔を見てホッと息を吐いた。

「ナツメ、無事でよかった。来られたんだな」
「うん、その、心配かけてごめんね?」
「いや、俺が迂闊だったんだ。謝るのは俺だ」
「───はいはい、もうそのことは謝罪を受け入れてるし、延々と謝り合戦になるからおしまい。邪魔になるから移動しよう」

あ、そうだった。他の馬車の邪魔だよね。

義父様の一声で会場に移動しながら隣に並んだエイダと囁き声で会話をする。

「ナツメ、その、やっとササナギ様と?」
「ぅ、や・・・・・・エイダも気付いてたんだ?」
「そりゃあ、ササナギ様のナツメへの執着───コホン、溺愛ぶりはナツメの側にずっといれば気付くよ」
「ええ・・・・・・、じゃあ今まで気付かなかった僕は・・・・・・アレ? 前に義兄様のことどう思ってるのなんて聞いたの、それで!?」
「ああ、アレ。うん、そう・・・・・・だな」
「ぅ、わあぁ───」

僕ってもの凄く鈍かったんだ!? あのときは見当違いな返事をした気がするもの。

「今はちゃんと自覚して私のモノになったからいいだろう?」
「え、ぁ、はいぃ」

ナギが不意にそうハッキリ言ったので、僕は昨日のことを思い出して顔が熱くなった。

「そんな顔を周りに見せるな。私だけでいい」
「う・・・・・・誰のせいだと───っ!」
「私のせいだな」

そう事もなげに言ってにやりと笑うから更に顔を赤くしてしまう。
周りのぎゃあぎゃあきゃあきゃあという声が聞こえた。ナギが笑うのってほとんどなかったもんね。

「・・・・・・無事に卒業式終わるといいですね」
「そうだねぇ」

苦虫をかみつぶしたようなエイダと朗らかな義父様の声が耳に入ったけど、僕は顔があげられずに思わずナギにしがみ付いてしまい、更に阿鼻叫喚の様相を呈してしまった。









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