【完結】重たい愛

エウラ

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愛が重たい 1

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「お前さぁ、ササナギ様のことどう思ってんの?」
「え? うーん・・・・・・どうって・・・・・・普通に兄様?」

不意に話を振ってきたのは、この学園で唯一の親友とも言えるエイダ・オセット伯爵令息。
金髪碧眼の男前な伯爵家嫡男だ。僕と同じ三年生。
最終学年の冬が終わり、もうすぐ僕らは学園を卒業する。

ココは剣と魔法の世界。
貴族階級が当たり前にあって、庶民は何かと見下されることが多い。

僕はそんな庶民の出、しかも神殿に併設された孤児院出身だ。
ただ一四歳の冬のときに、偶然、稀少な聖魔法が使えることが分かって急きょ侯爵家に養子に迎えられ、一年ほどみっちり教育やマナーを叩き込まれて翌年に学園に編入させられた。

主に貴族が入学するここは一六歳になる年からの入学が基本らしい。
男子と女子で学園が別れているので、こっちは全員男しかいない。
そして基本的に全寮制で、どんなに爵位が高くても学園に併設された寮で生活する決まりだった。
もちろん長期休暇中は帰省も出来るけど。

寮は主に王族から伯爵家の子息まで住む建物と子爵家・男爵家、それと稀にいる平民の奨学生が住む建物に別れている。

さらに爵位別に寮の部屋のグレードは違っていて、高位の子息ほどしっかりした警備体制が敷かれている。

僕は養子になって急に入学が決まったため、勉学やマナーなどの習得で入学式に間に合わず、個別に編入試験を受けた上でひと月遅れで編入したわけだ。

いや、ひと月遅れくらいで編入できたことがけっこう凄いって言われたけど、僕は聖魔法以外は平凡だからね。

こうして僕はただのナツメからナツメ・エンドフィールという侯爵家の次男になったわけだが。
一つ上の侯爵家嫡男である義兄のササナギはズバ抜けて優秀で、すでに飛び級をしていて僕が二年生に上がる年に学園を卒業してしまった。

それにササナギ義兄様は容姿も端麗で、長い銀髪にアイスブルーの瞳。すらりとした手足にほどよい筋肉がついたイケメン寄りの中性的な美人だった。

対する僕は漆黒の髪を顎先の長さに切り揃えていて、瞳は濃い藍色。
そんな暗い色から、とてもじゃないが聖魔法を使えるようには見えないので、いまだに聖魔法を疑われたりもする。

でもちゃんと使えるから、ソコだけは胸を張って堂々としてる。
僕を養子にしてくれた侯爵家に恥ずかしくないように頑張るんだ。

でも僕は背も孤児時代の栄養不足で平均より低いし、肉付きも悪くてガリガリ。顔だって瞳ばかり大きくてしかも垂れ目だからいつも眠そうに見えるらしく、義兄からは毎朝、いつもちゃんと起きてるのかと顔を覗かれた。

そんな正反対な僕達だから、たぶん同級生以外には僕がササナギ義兄様と兄弟だとはあまり知られていないと思う。
学園内ではほとんど交流はなかったし。

寮生活では義理とはいえ兄弟だしエンドフィール家ということもあって侯爵家用の広い寮部屋に二人で住んでいたから、同じ寮の貴族には認識されていたように思う。

ササナギ義兄様は生徒会の副会長をしていたから部屋に戻る時間も遅く、休日も生徒会の仕事で不在だったりして実質一人暮らししてるような感じだったけどね。

卒業してしまったあとは僕は本当に一人暮らしだし、長期休暇中もあまり家に帰っていなかったからかなり浅い関係だと思う。
だから僕はエイダの言葉に首を傾げた。

「何? 急にどうしたの?」
「───あー、いや? ほら、お前さ、見てると危機感が薄いっていうか、鈍いっていうか」
「失礼だな? 僕だってちゃんと警戒心とかあるよ? 伊達に孤児時代長くないんだし!」

危険な状況になったらさすがに気付くってば。
そう思って反論したのに、呆れた顔でブツブツと何か言われた。

「いやそういう意味じゃなくってー。ダメだこりゃ。ササナギ様に言われるまでもなく、俺がしっかり付いててやらないと・・・・・・」
「?」

まだエイダが何かブツブツと呟いているけど、大丈夫かな?

「───いや。とにかく、卒業まであと少しだけど、なるべく俺と一緒に行動するぞ!」
「それは別にいつも通りだし構わないけど。それにしても卒業まであと二週間かぁ。早いような遅いような・・・・・・」

養子になったおかげで苦労もしたけど、こうして学園にも通わせて貰えてご飯の心配も要らなくなって、本当に感謝してる。

だから僕はこの聖魔法を侯爵家への恩返しとしてたくさんの人の役に立つように使いたいんだ。

僕は卒業後は王宮にある魔導師団に入団が内定している。
入団後は学園と同じように師団用の宿舎で寝泊まりだから侯爵家に帰る時間はまたほとんどなくなっちゃうけど。

「エイダは卒業後は王立騎士団に入団するんだよね?」
「ああ。そういうお前は魔導師団だろ? 一緒に組んで仕事をすることもあるだろうから、お互い頑張ろうな!」
「うん、そのときはよろしくね」

こうして卒業後の進路に胸膨らませていたときには、あんなことになるなんて思いもしなかった。

───卒業式まであと二日に迫ったあの日、いつも一緒にいたエイダが先生に呼ばれたとかで放課後、僕は一人になった。

「ナツメ! 脇目も振らずに真っ直ぐ寮に帰れ! 誰かに声をかけられても振り向くな。立ち止まるな! 分かったか!?」

呼び出しを聞いたエイダが、もの凄く不本意な声でそう言った。
僕は勢いに押されてビビりながら頷く。

「わ、分かったよ。そんなに念を押さなくても子供じゃあるまいし、寄り道なんかしないって・・・・・・」
「いいや! そういう問題じゃない! 学園内は規則で魔法禁止だけどヤバいと思ったら迷わず使え! いいな!? 怒られるのなんか気にせずに躊躇するなよ!」
「ふぁい!」

怒涛の勢いでそう言われて思わずヘンな声が出たけど、エイダは『なる早で戻るからな! 気を付けろよ!』って叫びながら駆けていった。

いや、廊下は走っちゃダメでしょ。

僕は溜め息を吐きながら踵を返すと、エイダに言われた通りスタスタと寮までの道を歩いて行く。
若干早足だ。なんかエイダの言葉に不穏なモノを感じたから。

でもそれは確かにイヤな方向で合っていた。

「待て!」
「・・・・・・」
「おい! ソコのアンタ!」
「・・・・・・」
「待てって言ってるだろう!」
「・・・・・・っ」

寮の門の手前で誰かに呼び止められた。でもエイダの言うことにしたがって無視して歩いて行った。だってなんか不機嫌丸出しの声だったから怖くて。

そうしたら駆け寄ってきて右腕を掴まれた。
あっと思う間もなく、薬品ぽいモノを湿らせたハンカチで他にいた誰かに口と鼻を塞がれ、僕は意識を失った。

しばらくして気が付くと、ちょっと埃っぽい物置小屋のような場所に後ろ手に縛られ、足首も同じように縛られて寝転がされていた。
薬品の残り香で目や鼻がツンッとして生理的な涙が滲む。

それでも何とか目を凝らすと、窓はなく暗いながらもどうやら備品類を保管する倉庫のようで、見覚えのある備品に何となくだけど学園内ではあるのかなと思う。
さすがに短時間で外部に連れ出せるほどここの学園の警備は甘くないだろう。

現在僕は口も布で覆われていて身動きも出来ず声も出せない状態。
辺りは真っ暗で誰もいない。

僕は今の状況を把握してちょっと混乱していた。

いやだって、何で僕? 義兄様ならともかく、ただ珍しい魔法が使えるだけの元平民の孤児だよ?
───あ、アレかな。嫉妬? 平民だったのに侯爵家の養子になったから?

僕にはそれくらいしか思い付かなかったけど、それが正解だと思った。

───それにしてもどうしよう? 今が何時か分からないけど、エイダ、心配してるよね?
もしかしたらこのままここに閉じ込められて見つけて貰えずに死んじゃったりしないよね?

ん? ちょっと待って。もしかしたらすでに侯爵家にまで話がいって、大騒ぎになってるんじゃ・・・・・・いや絶対連絡いってるって。

ただでさえ魔法以外に取り柄もなくて迷惑かけているのに、更にもっと面倒なことになってる。どうしよう・・・・・・!

僕は悪い想像ばかりして顔が青くなり、ガタガタと震え出す。

───ごめんなさい。こわい。こわいこわいこわい・・・・・・!
助けて、ササナギ義兄様!

こんな状況で思い浮かぶのは、何故か冷たい表情で素っ気ないササナギ義兄様。
無表情だけど、朝、起きたときに僕の顔を覗き込んで『起きているか?』と確認したあとにホッと、一瞬だけど口元と目元が弛むんだ。

その顔が、僕は一番好きで───。

ギュッと瞑った瞼の裏で、恐怖を拭うように僕は必死でそのときの顔を浮かべた。

───そのとき、扉をバンッと蹴破るような凄い音がしてビクッと身体が跳ねた。

その拍子に何かにぶつかったのか、ガタンと音がしたせいで暗闇の中でおそらく隅に転がっていただろう僕に気付いた誰かがドカドカと近付いてきたのが分かった。

僕は必死に目を瞑り、ガタガタと震える身体を縮こませ、息を殺した。

いやだ、こんなとこでこんな死に方したくない!
最後ならササナギ義兄様の顔を、せめて一目───。

「ナツメ! っ無事で、よかった!」

───え?
思わず目を開けると、ホッとした顔のササナギ義兄様が見えた。え?

「今、縄を解いてやるからな! ああっ! こんな轡を嵌めやがって! クソッ許さねえ!」

口汚く罵りながら僕の腕や足を解放してくれるササナギ義兄様。

何で?
どうして学園ここにいるの?
義兄様は一昨年卒業したから、ここにはいないはずで、今は侯爵家でお仕事してて・・・・・・え?

───ああ、コレは夢だ。きっと神様が最後に僕の願いを叶えてくれたんだ。
そうでなきゃ、こんなに取り乱したササナギ義兄様なんて見たことないもの。

「・・・・・・けほっ・・・・・・義兄様?」
「! ナツメ、大丈夫か? どこか怪我は──!?」

僕を抱き起こして轡を外してくれる義兄様。夢の中だからか優しいなぁ。いつもは触ってもくれないのに。

「へへっ・・・・・・そんな義兄様もカッコいい・・・・・・僕の大好きな義兄様だぁ・・・・・・たとえ夢でも、思い残すことは・・・・・・なぃょ───」
「───は? ナツメ? おいナツメ!? カッコいいって、何言ってるんだ!? 大好き!? おいこら、言うだけ言って気絶すんなー!」

普段のクールな義兄様もカッコいいけど、必死で髪が乱れた義兄様も色っぽくてカッコいいなぁ。

そんなことを思いながら色々と限界だった僕は、の腕の中で意識を失ったのだった。









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