47 / 50
辺境伯騎士団(sideダグラス)
しおりを挟む---その日、ヒューズの運命が決まった。
年に一度の、二つの月が満月になる日。
ここ辺境地では魔物の活発化による被害を防ぐため、毎年この日の前後には騎士団総出で泊まり込みで森の警戒にあたっていた。
そして満月になった当日の夜。
森の空気が変わったのが分かった。
森の中から魔狼の遠吠えが聞こえて、慌ててヒューズと向かう。
どうやらヒューズの勘が早く行けと言ってるらしい。
ヒューズの勘は恐ろしいほど当たるからな。
そして魔狼の声と人の声、滑り落ちる物音が耳に入った。
「急がないと!」
ヒューズも俺も大急ぎで向かうと、辿り着いたその場所に子供が倒れていた。
おそらく木の幹に背中を打ち付けたのだろう。
頭は庇ったようだが、背中を強打したのなら呼吸もし辛いはずだ。
痛みもかなりあったのだろう、気絶したようでぐったりとしている。
それを見て、ヒューズが慌てる。
珍しいな、ヒューズが取り乱すなんて・・・。
とにかく、先に戻って医療部隊に準備をして貰う。
「すまないが、今から怪我人が運ばれてくる。急ぎで手当てを頼む。団長が運んで来るからな」
「え? こんな日にこの森に人が?!」
「ああ、子供らしいが、魔狼に追われて斜面を滑り落ちたようでな、背中を木に打ちつけたようだ」
「っ了解しました! おい、急ぐぞ!」
そうこうしているうちに団長がテントにやって来た。
テント内の灯りに照らされたその子は・・・。
---黒髪だった。
「ヒューズ・・・この髪は」
「・・・ああ、おそらくは・・・」
稀人。
医療部隊員も気が付いたのだろう。
しかし黙ってテキパキと治療に入る。
「団長達は出て行って下さい。治療の邪魔になります」
「・・・チッ、分かった。後は頼む」
「おい、ヒューズ、今舌打ち・・・ハア。後で状況を教えてくれ」
「分かりました」
そうしてしばらく、医療部隊員が一人、報告に来て告げた言葉にヒューズがキレて・・・。
もしかしたらと思う。
最初は女の子かと思っていたが、男の子と証明された。
ヒューズとは歳が些か離れているだろうが、ヒューズを見るに、感触は良い。
彼がヒューズを気に入ってくれたら、数年くらいはヒューズも待てが出来るかも。
そんな思いで迎えた翌朝。
目を覚ました彼に詳しく話を聞くと、あんな体格で17歳?!
何なら来月に18歳になるだと---?!
ヒューズと二人で唖然。
これは辺境伯家に着くまで子供と思わせておかないとヤバい。
彼には悪いが、暫くは子供扱いさせてくれ・・・と思っていたら、昼休憩の後で馬上のヒューズの腕の中、ぐらんぐらんと体が揺れてしまいには寝落ちした。
---子供か?!
いや、治癒魔法で体力ないし、お腹いっぱいで揺られれば眠くなるよね!
騎士団員達も微笑ましそうに見つめている。
ヒューズの締まりない顔を横目で見ながら、これからの日常が非日常になりそうな予感に胸を躍らせた。
きっと、楽しくて大変で、幸せになるだろう。
そんな予感がした。
※だいぶお待たせいたしました。
284
お気に入りに追加
1,278
あなたにおすすめの小説

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版


スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。


龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる