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ノースライナ辺境騎士団 2
しおりを挟む「---は? 何だって?」
野営地に戻って子供の手当を任せた医療部隊の部隊長がヒューズに会いに来て言った最初の一言に耳を疑った。
「いえ、ですから、あの子供は男の子と申しました」
「見たのか?!」
男の象徴を?!
「いいいえ! 骨格が男性のソレで、触って確認を・・・もちろん治療する所以外はなるべく見ないようにしました! あの、背中を確認するのに服を少々捲りましたが・・・ひいっ!」
-その際、服を患者衣に着替えさせましたなんて言えない! 殺される!
部隊長がヒューズの威圧にびびって震え上がった。
そこにダグラスがヒューズの後頭部をバシッと叩く。
「馬鹿ヒュー。怯えさせてどうするんだ。服を捲るくらい治療に必要だろうが。寧ろ裸にしないだけマシだろ!」
-ほぼ裸にしました! スミマセン!!
「・・・・・・スマン」
「まったく、話が進まないだろう! ・・・それで、怪我の具合は?」
ヒューズのかわりにダグラスが話を促す。
「は、はい、一番酷いと思われた背中ですが、背負っていたバッグがクッションのようになったようです。打撲ですみました。その他も擦り傷や打撲等です。後は右足首の捻挫で、幸いにも骨折はありません」
「治癒魔法は?」
「回復に体力を消耗するので、軽く、特に酷い背中と右足首にかけました。後は本部に戻ってから患者の体調を見てからですね。・・・彼、もの凄く細くて、体力があまりなさそうですし」
黙って聞いていたヒューズが、確かに軽かったし細かった、と頷く。
「ひとまず、そのまま様子を見る。目が覚めたら知らせてくれ。その時に落ち着いているようなら軽く状況説明をしてやれ。知らないところで怯えるかもしれない」
「了解しました。失礼します!」
部隊長はそそくさと戻っていった。
それを見送って、ヒューズがボソッと言った。
「・・・・・・美少女かと思っていたが、まさか美少年だったとは」
「綺麗な顔だったしね。ヒューの好みど真ん中だったよね」
「そうなんだよ。男の子だったらいいなって・・・コラ!」
「ははは! お前、男好きだもんな」
「その言い方! 誤解を招くだろうが! 好みが男なんだ!」
そう。
この世界では同性愛は普通である。
同性だろうと子供は出来るのだ。
実際に子が育つのではなく、ある魔法を使うことで魔力の塊が胎に留まり、更にそこに父親となる相手の魔力を含んだ精を注ぎ込むことで魔力が徐々に人の形になり、胎の外に出る=出産となるのだ。
「一目惚れなのは分かった。が、暴走するなよ? 稀人ならたぶんあの子はこちらの恋愛事情は知らないだろうし、異性愛者だったら最悪拒絶される」
「・・・分かってる」
その後、森に異常はなく、朝日が昇った頃に子供が目覚めたと連絡が入った。
ヒューズはダグラスと共にシャツとズボン姿のラフな格好で医療部隊の天幕に面会に行った。
彼がもし稀人なら、鎧姿など見たことも無いだろう。
今までの稀人も馴染みが無いと聞いたし、下手に怖がらせてもしょうがない。
「入っていいだろうか」
「はい、どうぞ」
高すぎず低すぎず、心地よい声音で応えがあった。
ダグラスと顔を見合わせ、中へと入る。
医療部隊の簡易ベッドの上に上半身を起こした彼が居た。
簡素な前開きの患者衣を着ている。が、かなり大きいようだ。
「おはよう。私はノースライナ・ヒューズという。彼はノースライナ・ダグラス。目が覚めたときにここの・・・現状の説明は軽く受けたと聞いたが、大丈夫か?」
「・・・はい、一通りうかがっております。助けて頂いてありがとうございました。申し遅れました。私は御堂瑠華と申します。御堂が家名で瑠華が名前です。どうぞルカとお呼び下さい」
ミドウ・ルカと名乗った彼は、それは綺麗なお辞儀をした。
・・・これはもしや高位貴族階級の人間では、と思わざるを得ない仕草と滲み出る気品。
名前も家名があるということは、おそらく平民では無い。
それに彼の瞳はやはり黒-それも今までに聞いた稀人のそれよりも濃い、漆黒だった。
やはり稀人か・・・。
「その、実は、服装は男の物だったが顔が綺麗で細かったので、女性かと思っていた。すまない」
「ああ・・・いえ、お気になさらず。よく見間違えられるんです。こんな顔ですし、筋肉が付きにくいのか細いので」
そういって何とも言えない曖昧な表情を浮かべた。
実際、よく間違われるのだろう。
俺とダグラスは目配せしてからルカに告げた。
「とりあえず、我々は今日、所属する辺境伯領に戻るので、君の治療の事や今後の事も話したい。君の事情も話して貰えればと思うが。・・・おそらく君はこことは違う世界からの稀人だと思う」
「・・・でしょうね。昨日、森にいたときにそうだろうな、とは思ってました。僕の世界では月は一つしか有りませんから・・・」
「---ずいぶん冷静だね」
ダグラスが思わずといった感じで言った。
「・・・家から逃げてきたんです、僕。もしかして帰らなくて済むかもって思ったらほっとしちゃって。薄情ですよね・・・だからって狼に喰われて死ぬのはイヤだったんで、助かって、本当に・・・よかっ・・・・・・」
ルカが微笑みながらポロッと涙を零した。
よく見ると震えている。
当然だ。
急に知らないところに一人きりで、魔獣に襲われて死にそうな目にあって。
いくらしっかり教育されて育ったといえども子供だ。
ましてやこんなに細くて頼りない体で・・・。
精一杯虚勢を張って己の矜持を保とうとしても怖くないはず無かったんだ。
俺達が気付くべきだった。
ヒューズはそっとルカを抱き寄せ、頭を撫で、背中を摩って暫くそのまま涙が止まるまでジッとしていた。
*以前投稿した分を改稿して立て続けに投稿してます。その後は不定期更新になると思います*
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