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番外編 ダスク公爵家執事長サイモン

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「エヴァルド様、いつも申し上げておりますように、手加減を覚えて下さいませ!」
「はいはい、これでも加減してるよ?」
「・・・・・・悪い、サイモン、いつもその・・・・・・」

私の言葉をニコニコして聞き流すエヴァルド様と、頬を染めながら気まずげに視線を彷徨わせるアディス様。

アディス様がドーン公爵家のご嫡男のエヴァルド様とお番いになられてから、朝、こうして苦言を呈するのが日課となってしまった。

私はダスク公爵家に代々仕える執事でダスク公爵家の分家にあたる家の出身である。

早世された先代公爵様がお生まれになるよりも前、先々代様からお仕えしております。
幸い我が家も魔力の多い者がよく生まれるので、主家に長く務めるため、物心つく頃には教育が始まり成人を迎える前に見習いとして公爵家に務めるのが慣例でした。

先代様からお生まれになったアディス様は、それはもうお可愛らしくて、そしてとても手のかからない赤子でございました。
むずがるのはお腹が空いたときか排泄のときくらいで夜泣きもほとんどございませんでした。

一人で立って歩き出し、言葉を発するのも早く幼い頃から聡明だったアディス様は、時折懐かしそうな、それでいて辛そうな瞳を何故かお隣のドーン公爵家の方に向けていらっしゃった。

私はそれを不思議に思いながら何も言わずにそっと見守っていたのです。

───アディス様からのカミングアウトを聞いた今ならば分かります。
前世の記憶をお持ちでかつての番い様だったエヴァルド様を思っていたのでしょう。

先代公爵様方が流行病で急逝して、哀しみにくれる間もなく公爵位を継ぐ手続き。
そんな中、保護したセラータ様を養子縁組してからはかつての笑みを見せるようになり、使用人一同、心から嬉しく思いました。

セラータ様もまるでアディス様の生き写しかのように、聡明で手のかからないお子でした。
どんどん成長するに従ってアディス様の魔法の癖や剣や格闘術が似てきて、血の繋がりなど関係ないのだと・・・・・・。

それも実は前世のアディス様のお腹に宿っていた魂だなんて聞かされて、更にはセラータ様にも異世界での前世の記憶があるなんて・・・・・・。

人生、何が起こるか分かりませんね。

そんなこんなでセラータ様はドーン家に嫁入りし、アディス様はエヴァルド様を婿に貰い、お互いお隣同士で職場も近いため、毎日顔を合わせていて寂しいということもない様子。

アディス様とエヴァルド様をお見送りしたあと、私たち使用人はいつもニコニコと皆様方の話題になります。

「毎日お幸せそうでよき!」
「お二人のあの朝のご様子は眼福です!」
「ラブラブでいつお子さまが出来ても不思議じゃないわー」
「そうよねえ。竜人の方々って子が出来にくいっていうけど、あのエヴァルド様を見たらそんなことない気がするわ」
「ああ、お二人のお子さまももの凄く可愛らしいんだろうなー」

うふふあははとおしゃべりしながらもキチンと仕事は熟しているので、私はコホンと注意するに留めます。
皆、楽しく仕事に取り組めているし、悪口ではないし、何より主様方が気にしないのだから。

「私語はほどほどに」
「「「はーい!」」」

それだけ言って離れると後ろからはまたキャッキャとおしゃべりが・・・・・・。

「・・・・・・ふっ」

思わず吹き出しながら、こんな平和がいつまでも続けばいいと思うのだった。






※短いですが、サイモン視点でした。
サイモンは200歳くらいです。たぶんあと100年くらいは生きるでしょう。アディスの子供を見ることは出来そうかな?
暇を見てちまちま書いてるので、次もまた更新は遅れます。あと数話で番外編も終わる予定。
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