10 / 40
10 偽釣書で釣り上げる
しおりを挟む魔導師団員と騎士団員が全員揃って食事をしても余裕があるくらい大きい食堂だが、さすがに時間をずらして食べにくるため、席は半分埋まっていればいいくらいかな。
そんな中、専用の部屋があるにも関わらず一般団員用のこのテーブルの一角で食事を摂りながら差し出された、見た目が釣書風の履歴書。
「・・・・・・何です?」
「やだなあ。見ての通りだよ」
「この中で気に入った方を一人・・・・・・いえ何なら二、三人選んで下さって結構ですが」
「今更要らないんですけど?」
胡乱げにアディスを見てそう言うとカーティス補佐官がしれっと応える。
いや冗談抜きで要らない。邪魔。
「いやだって、そろそろ(補佐を)・・・・・・ねえ?」
「いい加減、(補佐を)誰かに決めないとですよね?」
「(補佐は)要らないってば。今のまま気楽な(補佐なし)のがいいの!」
アディス達がしつこくて思わず台パンして叫んでしまい、周りから一斉に視線が集まる。
「何で今更? 別に誰かに絞らなくていいじゃないですか。その方が好きに(仕事)やれるし」
「───何が『好きにヤれるし』なんだ?」
「ひいっ!?」
不意に後ろから何時にも増して不機嫌な低い声でアルヴァにそう言われてビクッと肩が跳ねた。
「───あああアルヴァ!? いいい何時の間に!? てか脅かさないでよ、びっびっびっくりしたじゃないか!」
ていうか、言葉のニュアンスが何か違ってない!?
後ろを振り向きどもりながら抗議するが、仁王立ちで腕組みしているアルヴァは無表情なまま俺を見つめて、それからテーブルの上のいくつもの表紙だけ見れば釣書っぽい履歴書を見て言った。
「俺という者がいながら浮気とは、いい度胸だな」
「・・・・・・・・・・・・は?」
浮気? いやこれ、見た目釣書だけどただの履歴書だよ? ていうか俺という者がって何?
俺はアルヴァが好きだけど、アルヴァにとっては俺って単なる幼馴染みじゃあ・・・・・・?
そんな疑問が顔に出てたのか、向かいに座っているアディスが溜息を吐きながら行儀悪くフォークで俺を指して言った。
「あのねぇ、セラ。ただの幼馴染みはあんな口吻はしないし、膝上に乗せて手ずから『あーん』なんてしないよ?」
「子供の頃なら一緒にお風呂も入るでしょうが、成人済みの大人はお風呂でイチャイチャしないでしょうね。それこそそういう関係でもなければ」
「団員達だって大浴場に普通に入ってるでしょ。イチャイチャしないよね?」
「いやそんな大勢の中でそもそもイチャイチャ出来ないでしょーが!」
アディスに続いてカーティス補佐官も、何故か休暇中の俺とアルヴァのアレコレやお風呂事情を知っていて焦る。
「ま、そういうことだ。セラ、ずいぶん前・・・いや最初からアルヴァのこと好きだったろう?」
アディスにニヤリと笑われて、俺は顔が熱くなるのを感じた。
え? それってつまり、俺の気持ちとっくにバレてるってこと!?
じゃあ、アルヴァにも───!?
思わず振り返ればアディスみたいにニヤリと笑うアルヴァがいた。
「俺も鈍かったが、セラは輪をかけて鈍かったんだな。竜人の番いの話は知らないのか? つまり、お前は俺の番いだ」
「は? え? 番い? え? アルヴァって竜人だったの!? じゃあ、あーんも世話焼きもその番いのせいだったってこと!?」
最初からアレだったからこれが普通だと思ってた。
「・・・・・・まさかセラ、俺が竜人って知らなかったのか?」
「え、マジ?」
「・・・・・・まさか、あんなに賢いのに、そこ?」
アルヴァ、アディス、カーティス補佐官の順で唖然とされて、俺は憮然とした。
「だって誰も教えてくれなかった! デカいだけで見た目普通に人じゃん!」
「あー、そういえばドーン公爵家が竜人の家系だって当たり前すぎて誰も言わなかったかも。あの頃からセラ賢くて、てっきりもう知ってるものだと・・・・・・ごめんね?」
アディスがそう言って申し訳なさそうに呟く。
「だから俺は悪くない! 悪くないったら悪くないの! ───ぅわーん!」
「あっあっ、泣くなセラ! 俺達が悪かった!」
俺は21歳の大人なのに、癇癪を起こした子供のようにえぐえぐ泣いて、アルヴァに膝の上に抱っこされてお昼休憩中ずっと宥められていた。
おかげでお昼ご飯食べそこなった。くそう。
───で? 結局何だったんだっけ?
952
お気に入りに追加
1,028
あなたにおすすめの小説
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
君の足跡すら
のらねことすていぬ
BL
駅で助けてくれた鹿島鳴守君に一目惚れした僕は、ずっと彼のストーカーをしている。伝えるつもりなんてなくて、ただ彼が穏やかに暮らしているところを見れればそれでいい。
そう思っていたのに、ある日彼が風邪だという噂を聞いて家まで行くと、なにやら彼は勘違いしているようで……。
不良高校生×ストーカー気味まじめ君
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
英雄の恋人(♂)を庇って死ぬモブキャラですが死にたくないので庇いませんでした
月歌(ツキウタ)
BL
自分が適当に書いたBL小説に転生してしまった男の話。男しか存在しないBL本の異世界に転生したモブキャラの俺。英雄の恋人(♂)である弟を庇って死ぬ運命だったけど、死にたくないから庇いませんでした。
(*´∀`)♪『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』の孕み子設定使ってますが、世界線は繋がりなしです。魔法あり、男性妊娠ありの世界です(*´∀`)♪
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる