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8 噂はしょせん噂(sideアルヴァ)
しおりを挟むそもそもセラータの悪い噂が出回り始めたのは二年ほど前。
恒例の年三回の討伐任務の後だった。
その時も割と規模の大きい討伐だったが、何時もより怪我人が多数出て、魔力に多少の余裕のあったセラータが広範囲の完全回復魔法を展開した。
しかしさすがに討伐直後の少ない魔力での大規模魔法のためか、顔色が悪くなりすぐに自分の天幕に篭もった。
俺も様子を見に行きたかったが、討伐後の後始末は騎士団の仕事だ。
この時セラータと同じようにすでに副団長の役職に就いていた俺は団員達のリーダーとして采配をしなくてはならず、その後セラータと顔を合わせたのは一泊した翌朝の打ち合わせの時だった。
『・・・・・・セラータ、体調はどうだ?』
打ち合わせの後、城に向けての出立直前にセラータに声をかけると、昨日よりは幾分か顔色のいいセラータが微笑んだ。
『だいぶ回復したから大丈夫。心配かけてゴメン。帰りはそんなに魔力使わないからもっと回復するよ。結界も張れるから』
『いや、それよりも身体の心配をだな』
『ありがとう。これでも魔力多いから大丈夫だよ』
そう笑うが、心配だ。
『副団長! 出立しますよ!』
『今行く! ・・・・・・無理するなよ?』
『うん』
しかし団員から声がかかり、仕方なくセラータと別れた。
セラータも魔導師から呼ばれて行ってしまった。
そして五日かけて戻り、結界もセラータが問題なく張り直して討伐任務は終わった。
───その後からだ。
セラータが今回の任務で魔力補給のために誰かと身体を重ねた、という噂が広がりだしたのは・・・・・・。
俺は耳を疑った。
あのセラータが? 誰かと?
そういえば翌日はだいぶ顔色がよかった。でもそれは魔力補給を誰かとしたから?
だが魔導師の間では当たり前の行為だ。魔力枯渇になると命の危険があるのだから、そういう目的のセフレもいると聞く。
だからセラータにもそういうことがあっても不思議ではない。ないが・・・・・・。
だが、そんなまさかという思いだった。
それからも討伐任務のたびに噂はどんどん大きくなり、俺は気まずくてセラータに確認もできずに、いつの間にか避けるようになってしまった。
セラータが穢れてしまったかのようで、側にいるのが怖くなったのだ。
でないと暴走しそうだった。
噂を耳にするたびに渦巻く昏い感情。
俺の、俺だけのセラータだったのに。
そんな感情が何時も湧き起こっていた。
・・・・・・そこで俺はようやく、セラータを愛していると自覚した。
セラータの初めては俺じゃなきゃイヤだと、勝手に裏切られたと思って避けていたのだ。
そもそもセラータは人族で竜人の番いという本能には気付かない。番いの認識がない種族なのだ。
だから気にせず他のヤツと寝ることに嫌悪感はないのだろう。
だがそれでも俺はセラータしか愛せない。
しかし自業自得とはいえ、避け続けて空いてしまった距離は簡単に縮まらない。
もしや義父のアディス様ともそういった行為を?
魔力量はセラータに勝るとも劣らないはずだから、十分有り得る。親子というよりは兄弟に近い年齢だし、それに噂にもあったじゃないか。
・・・・・・なんてそんな妄想にも囚われそうになってイヤになる。
悶々としながら迎えた今回の討伐任務でのイレギュラー。
魔力枯渇気味のセラータが天幕に篭もった。
また今回も誰かに魔力供給をして貰うのか。
誰でもいいなら、俺でも、いいよな?
───そうして意識のないセラータのその甘露のような唇を奪って魔力供給をして帰還したあの日。
噂はただの噂で、真っ新なセラータに(再び)魔力供給をすることになるとは夢にも思わなかったが・・・・・・。
俺はセラータのためにこの身を尽くすと誓った。
例え許されなくても。番いと認識されなくても。
俺の出来ることを精いっぱいするだけだ。
まだ先は長いのだから───。
※アルヴァは頑固で生真面目で結構純粋だった。(脳筋)だから思い込みで勝手に想像して迷走し、自分の気持ちに中々気付かなくて悶々と過ごしていました。
無意識に初恋拗らせてた。
うん、むっつりスケベだな。
そしてやっぱりエロまで長い。
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