8 / 40
8 噂はしょせん噂(sideアルヴァ)
しおりを挟むそもそもセラータの悪い噂が出回り始めたのは二年ほど前。
恒例の年三回の討伐任務の後だった。
その時も割と規模の大きい討伐だったが、何時もより怪我人が多数出て、魔力に多少の余裕のあったセラータが広範囲の完全回復魔法を展開した。
しかしさすがに討伐直後の少ない魔力での大規模魔法のためか、顔色が悪くなりすぐに自分の天幕に篭もった。
俺も様子を見に行きたかったが、討伐後の後始末は騎士団の仕事だ。
この時セラータと同じようにすでに副団長の役職に就いていた俺は団員達のリーダーとして采配をしなくてはならず、その後セラータと顔を合わせたのは一泊した翌朝の打ち合わせの時だった。
『・・・・・・セラータ、体調はどうだ?』
打ち合わせの後、城に向けての出立直前にセラータに声をかけると、昨日よりは幾分か顔色のいいセラータが微笑んだ。
『だいぶ回復したから大丈夫。心配かけてゴメン。帰りはそんなに魔力使わないからもっと回復するよ。結界も張れるから』
『いや、それよりも身体の心配をだな』
『ありがとう。これでも魔力多いから大丈夫だよ』
そう笑うが、心配だ。
『副団長! 出立しますよ!』
『今行く! ・・・・・・無理するなよ?』
『うん』
しかし団員から声がかかり、仕方なくセラータと別れた。
セラータも魔導師から呼ばれて行ってしまった。
そして五日かけて戻り、結界もセラータが問題なく張り直して討伐任務は終わった。
───その後からだ。
セラータが今回の任務で魔力補給のために誰かと身体を重ねた、という噂が広がりだしたのは・・・・・・。
俺は耳を疑った。
あのセラータが? 誰かと?
そういえば翌日はだいぶ顔色がよかった。でもそれは魔力補給を誰かとしたから?
だが魔導師の間では当たり前の行為だ。魔力枯渇になると命の危険があるのだから、そういう目的のセフレもいると聞く。
だからセラータにもそういうことがあっても不思議ではない。ないが・・・・・・。
だが、そんなまさかという思いだった。
それからも討伐任務のたびに噂はどんどん大きくなり、俺は気まずくてセラータに確認もできずに、いつの間にか避けるようになってしまった。
セラータが穢れてしまったかのようで、側にいるのが怖くなったのだ。
でないと暴走しそうだった。
噂を耳にするたびに渦巻く昏い感情。
俺の、俺だけのセラータだったのに。
そんな感情が何時も湧き起こっていた。
・・・・・・そこで俺はようやく、セラータを愛していると自覚した。
セラータの初めては俺じゃなきゃイヤだと、勝手に裏切られたと思って避けていたのだ。
そもそもセラータは人族で竜人の番いという本能には気付かない。番いの認識がない種族なのだ。
だから気にせず他のヤツと寝ることに嫌悪感はないのだろう。
だがそれでも俺はセラータしか愛せない。
しかし自業自得とはいえ、避け続けて空いてしまった距離は簡単に縮まらない。
もしや義父のアディス様ともそういった行為を?
魔力量はセラータに勝るとも劣らないはずだから、十分有り得る。親子というよりは兄弟に近い年齢だし、それに噂にもあったじゃないか。
・・・・・・なんてそんな妄想にも囚われそうになってイヤになる。
悶々としながら迎えた今回の討伐任務でのイレギュラー。
魔力枯渇気味のセラータが天幕に篭もった。
また今回も誰かに魔力供給をして貰うのか。
誰でもいいなら、俺でも、いいよな?
───そうして意識のないセラータのその甘露のような唇を奪って魔力供給をして帰還したあの日。
噂はただの噂で、真っ新なセラータに(再び)魔力供給をすることになるとは夢にも思わなかったが・・・・・・。
俺はセラータのためにこの身を尽くすと誓った。
例え許されなくても。番いと認識されなくても。
俺の出来ることを精いっぱいするだけだ。
まだ先は長いのだから───。
※アルヴァは頑固で生真面目で結構純粋だった。(脳筋)だから思い込みで勝手に想像して迷走し、自分の気持ちに中々気付かなくて悶々と過ごしていました。
無意識に初恋拗らせてた。
うん、むっつりスケベだな。
そしてやっぱりエロまで長い。
938
お気に入りに追加
1,040
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役令息に転生したので婚約破棄を受け入れます
藍沢真啓/庚あき
BL
BLゲームの世界に転生してしまったキルシェ・セントリア公爵子息は、物語のクライマックスといえる断罪劇で逆転を狙うことにした。
それは長い時間をかけて、隠し攻略対象者や、婚約者だった第二王子ダグラスの兄であるアレクサンドリアを仲間にひきれることにした。
それでバッドエンドは逃れたはずだった。だが、キルシェに訪れたのは物語になかった展開で……
4/2の春庭にて頒布する「悪役令息溺愛アンソロジー」の告知のために書き下ろした悪役令息ものです。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
かくして王子様は彼の手を取った
亜桜黄身
BL
麗しい顔が近づく。それが挨拶の距離感ではないと気づいたのは唇同士が触れたあとだった。
「男を簡単に捨ててしまえるだなどと、ゆめゆめ思わないように」
──
目が覚めたら異世界転生してた外見美少女中身男前の受けが、計算高い腹黒婚約者の攻めに婚約破棄を申し出てすったもんだする話。
腹黒で策士で計算高い攻めなのに受けが鈍感越えて予想外の方面に突っ走るから受けの行動だけが読み切れず頭掻きむしるやつです。
受けが同性に性的な意味で襲われる描写があります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
《完結》政略結婚で幸せになるとか
mm
BL
貧乏侯爵家の跡取り息子ラブラドライトは密かにパン屋でバイトに励みながらも、お人好しでお金の算段の苦手な父を助け、領地経営を頑張っている。
ある日、縁談が持ち込まれたが、お相手は男性だった。
侯爵家の肩書きと歴史、骨董品が目当てらしい。その代わり、生活には不自由させないという、つまりが政略結婚。
貴族の家に生まれた以上、家のために婚姻するのは仕方ないと思っていたが、相手が男性だなんて。
え、と。嫁いでくるということはお嫁さん、だよね。僕が頑張る方?
あ、子供を作るわけじゃないから頑張らなくていいのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる