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4 セラータとアディス
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※前半セラータ、後半アディス視点。
後半の中で最初にエヴァルドが魔物討伐の騎士団だと書いてましたが近衛騎士団です。訂正しました。
俺が引き取られた翌日に突撃してきた男の子はダスク公爵領のお隣のドーン公爵家の次男だと名乗った。
俺はメイドさんに身支度を整えられてから、テラスに軽いお昼ご飯を用意して貰い、アルヴァと食べ始めた。
『さっきは悪かった。昨日、俺と同い年の子がダスク家の養子になったって聞いて、いても立ってもいられなくて』
『いえ、驚きましたけど。あ、申し遅れました、セラータと申します』
『知ってる。あと普通に話していいよ。もう公爵家の子なんだし同い年だって言ったろ?』
『は、うん』
食べてる合間に他愛もない話をして、食べ終わった後は何故か人んちなのに庭の案内をしてくれて。
横に並ぶと、同い年だっていうのにアルヴァは俺より頭一つ分背が高くて横幅もガッチリで、本当に4歳? って思う。
『アルヴァはよくダスク家に来るの?』
『あー、うん。父上に連れられてよく来てる。実は今日も一緒に来た』
『え? でも執事長のサイモンがさっき先触れなしだったって言ってたよね?』
『・・・・・・ぅ、一応、直前に出したんだけど、父上も俺も気が急いて先触れと同じくらいの速さで来ちゃって・・・・・・』
『それ、意味ないじゃん』
呆れた。それってノックと同時に扉開けるようなもんだよ。
よく聞くと一緒に来た父親もアルヴァも普段はちゃんと貴族のルールやマナーを守っているらしい。
何故か今日は早く会いたくて急いじゃったんだって。
『ふぅん。アディス父様とも仲良しなんだ?』
『そうだね。家族ぐるみの付き合いだった。だからアディス様のご両親がつい先月、流行病で儚くなった時も色々手を差し伸べて───』
『───え? アディス父様のご両親って亡くなってたの!?』
『あ、ああ。・・・・・・そっか昨日の今日じゃ知らないか。ごめん、聞いてなかったんだね』
・・・・・・そうか、まだ二日だけどアディスの両親を全く見なかったのはそういうことか。
だからこんな俺を養子にしてくれたんだな。俺は別の意味で両親がいない身になったし。
きっと哀しくて寂しかったろう。前世の俺も早いうちに両親を事故で亡くして天涯孤独だったから、何となく気持ちは分かる。
───あんなアディスの泣き顔はこの先も見たくないから・・・・・・。
一大決心をするように拳を握りしめて言った。
『うん。俺、アディス父様の息子としてアディス父様を絶対に幸せにする』
『───は? 急にどうした』
『ねえアルヴァ、何をしたらアディス父様幸せかなあ?』
『君が笑ってれば幸せだと思うよ』
『え?』
急に知らない声が聞こえて後ろを振り向くと、アディスともう一人、アルヴァと同じ黒髪黒目の背の高い男の人が立っていた。
いつの間に?
『父上!』
『アルヴァ、私も悪かったが、他人の寝室に許可なく入るのはいけないよ。おかげでアディスにこってり絞られてしまったよ』
『全くだ』
そう言って軽々とアルヴァを抱き上げる男の人。アディスはムスッとしながらも本気で怒ってはいない様子。
この人がアルヴァの父親のドーン公爵か。筋肉質のガッチリした身体で騎士みたいだ。
それにしても若いな。いやアディスも子供みたいな見た目だけど、この人も二十代前半くらいにしか見えない。
アルヴァが次男ってことは上にお兄さんがいるんだよね? いくつの時の子供なんだ、って下世話なことを考えちゃう。
『こんにちは、初めまして。私はドーン公爵家当主シヴィルという。息子が世話になったようだね。長男もいるんだけど、今は仕事で不在なんだ。私の伴侶も一緒に今度紹介するね』
『あ、セラータです。アルヴァ様には、お、私がお世話になってます』
アルヴァを片手で縦抱っこしたまま俺に合わせて屈んで視線を合わせてきたので、慌てて名乗り返す。
『うん、アルヴァとは同い年だし、家族ぐるみの付き合いでこれからアルヴァとも幼馴染みになるのだから、プライベートでは敬語もなしで、気楽にね』
『あ、うん』
アルヴァと同じように言われて、俺も否やはないので即答した。敬語も気を遣うしね。
『可愛いねぇ。昔のアディスみたいだ』
『私はともかく。セラータは可愛いに決まってるだろう。やらんぞ』
『うーん、それは今後のアルヴァ次第・・・・・・』
? 後半はアディスと立ち上がったシヴィルがコソコソと耳打ちしてて聞こえない。くそう、背が、背が全然足りない・・・・・・!
俺の視線に気付いたのか、シヴィルがアルヴァを腕から下ろして俺のところに寄越して来た。
『セラータ、向こうにいい場所があるんだ。行こう』
『え、でも』
アディスとシヴィルを放って置いていいの?
『父上達は何か話があるみたいだから気にしなくていいよ。それよりもこっち!』
『あ、うん・・・・・・って待って、早いよ!』
手を掴んで足早に進むアルヴァに、足の長さが違うからもつれて転びそうになる。それでなくてもここ数日間で落ちた体力は一晩寝たくらいじゃ回復しない。
『あ、ごめん』
『え、あ、は? ───ひぃっ!?』
そう言ってピタッと止まったかと思ったらアルヴァにふわりと横抱きされた。それはもう流れるように。
俺は急な浮遊感に怖くなって慌ててアルヴァの首に腕を回して縋り付いた。
『きき急にやらないでっ!』
『軽いな、もっと食べないと』
『ねえ聞いてる!?』
『そのまま掴まってて』
『ねえアルヴァってば!』
噛み合わない会話をしながら庭園の奥に向かう二人をシヴィルはニコニコしながら、アディスは不機嫌な顔で見つめていたのだった。
◇◆◇
私は小さくなっていく二人を見ながら、不機嫌さを隠すこともせずに踵を返した。
そのあとを苦笑して着いてくるシヴィル。
先程セラータ達が食事をしていたテラス席に座るとシヴィルにも着席を促し、ムスッと話し出す。
『・・・・・・アレは無意識なのか?』
『だろうね。意味もよく分からず、もう昨日からそわそわ落ち着かなくて』
俺の言葉に是と返すシヴィルにまたイラッとする。
それを苦笑して見つめるシヴィル。
『言っておくけど、あの子は愛しい私の息子だからね。手放さないからね!』
『おやおや、相当入れ込んでいるようだ』
『当然だろう。一目見て惹かれたんだ。あの絶望と恐怖で彩られた昏い瞳・・・・・・。両親を亡くしたばかりの私を見ているようだった』
15歳の私がそうなんだ。たった4歳の幼児に耐えられるわけがない。
そう思ってあのあと詳しく話を聞いたら、淡々と理路整然と話をするセラータに驚いた。とても4歳の幼児の発言じゃなかった。
取り乱すことも多少あったが年齢に見合わない、とても賢い子だと分かった。
それに加えてあのとき発現した魔法の力は、量も質も私の上をいくであろうと直感で分かった。
だから保護も兼ねて養子にしたのだけど・・・・・・。
何も知らないはずなのに私の寂しさに気付いたのか、両親が亡くなってから誰もする人がいなくなった、頭を撫でる仕草をしてくれて。
名前も何もかも消して、私の息子になることを望んでくれた。
だからあの子の障害になるモノ全てを消し去ってやらなくては。
───それを昨日のうちに全て終わらせた。
シヴィルが手伝ってくれたのは確かに助かったが。
しかしそれはそれ、いくらアルヴァが無意識に番い認定したからといって許せるものではない。
『もはやあの子の幸せは私の幸せだよ。貴方が言ったようにね。だからアルヴァには悪いがセラータを手放す気はない』
『・・・・・・おやおや、手厳しいな。もちろんセラータの気持ち次第さ。アルヴァの頑張りに期待しよう』
シヴィルはすでに先を見通しているようにニヤリと笑った。
まあ、ドーン公爵家の者に目をつけられたら逃げられないだろうが。
『・・・・・・セラータも成長が遅れるだろう。すでに遅くなっているかも。だいぶ小柄だし。私としては同じように長生きして貰えて嬉しい限りだけど』
『そんなに寂しいなら君も共に歩める伴侶を見つけることさ』
『───煩いな。そんなに簡単なことじゃないと分かってるくせに』
『うん。知ってて揶揄ってる』
『っコレだから長命種はー! 人を暇潰しのネタにしないでくれるかな!?』
『はっはっは』
それが出来れば苦労はしないんだよ!
ドーン公爵家は竜人の一族。遙か昔からシヴィルが当主なので、人族であるダスク家は何代も当主が代わっているがシヴィルはその全員を把握しているそうだ。
何時も見送る側だからか、何時の間にか私達の幸せを願って見守る立場になっているし、お節介が染みついているらしい。
揶揄いもめちゃくちゃ多いけどな。
幸いというか、ダスク家もずば抜けて魔力量の多い一族なので人族では長命でドーン家とも長い付き合いなのだが・・・。
『・・・・・・本当に呆気なくて・・・・・・』
両親も私ほどではないものの老いが遅く、もっともっとこの先も生きるはずだった。
それを私も、当の両親でさえ疑いもしなかったのに、病があっと言う間に二人を神のもとへと連れ去ってしまった。老化が遅いだけで脆弱な身体はさすがに大病や致命傷には耐えられない。
急なことに対処しきれない私の精神は胸の内にぽっかり空洞を作ってしまい・・・・・・。
そしてそれを埋めるように現れたセラータ。
もう私の一部のようになったから、そんな簡単に手放せない。
『私達も驚いたよ。本当にあっと言う間だったから。まあ、私達は見送ることにいい意味でも慣れているからまだいいが、君は・・・・・・』
『───例えようもない虚しさ、孤独を味わったよ。そんな奈落の底から私は昨日、セラータに掬い上げられて救われたんだ』
『・・・・・・彼との出会いは必然だった、ということかな。・・・・・・いやはや、これはアルヴァにはかなり荷が勝ちすぎているかな?』
私が彼以外にこんなに重たい愛情を誰かに向けるなんて思いもしなかった。
でもこれは恋人に向ける愛情じゃなくてただの家族への愛情なんだけど。
ごめんね、セラータ。重くて面倒臭い親が出来ちゃったね。
『ところで君の血筋はどうするんだい? 直系の血筋はもう君だけだろう。分家にはそんなに力のある者はいないだろう?』
『それは、まあ後で考えるさ。先は長い』
『・・・・・・そう思ってて、ご両親は───』
気遣わしげにそう言うシヴィルにニコリと笑ってやる。
『大丈夫。直感だけど、私達は長生きするよ。いや、しなくちゃいけない。両親の分も』
『君は昔からそういうの何となく読めるからねえ。実際、よく当たるし。・・・・・・じゃあ、ウチの長男のことも?』
『・・・・・・時期じゃない。でも、この先チャンスはあると思ってる』
シヴィルの長男のエヴァルド。
ワケありのこの竜人は近衛騎士団に勤めている。
100年ほど前に番いを亡くして以来、ひたすら仕事に打ち込んでいて城の騎士団宿舎に寝泊まりし、実家である公爵家に滅多に帰省しないそうだ。
彼の気持ちを慮って、シヴィル達は何も言わないでいるらしいが・・・・・・。
『了解。タイミングは君に任せるよ。上手くいくといいね』
『・・・・・・他人事のように・・・・・・。まあアルヴァ次第でもあるかな』
『結局そこに戻るんだ? 堂々巡りだね』
そう言って笑うシヴィル。
そう、不本意だが、アルヴァとセラータの関係性次第で私の事情も変わるだろう。
手放さないと言いながら手放さざるを得ないだろうという相反する思い。
私の幸せはセラータが幸せになることだが、今の私が彼を手に入れるためにはセラータを手放すしかない。
───だから昨日から苦悩しているんだよ。
※あらすじくらいで軽く済ますつもりが、後から色々書きたいコトが湧いてきて文字数が短編では収まらなそう。
時間的に長く書くのが辛いので、次からは文字数減らしてちまちま投稿か、長いのを不定期投稿予定です。すみません。
ちなみにR18まではたぶんまだ遠いです。珍しく(笑)。脇CPのほうも書きたい。要望があれば(笑)。
後半の中で最初にエヴァルドが魔物討伐の騎士団だと書いてましたが近衛騎士団です。訂正しました。
俺が引き取られた翌日に突撃してきた男の子はダスク公爵領のお隣のドーン公爵家の次男だと名乗った。
俺はメイドさんに身支度を整えられてから、テラスに軽いお昼ご飯を用意して貰い、アルヴァと食べ始めた。
『さっきは悪かった。昨日、俺と同い年の子がダスク家の養子になったって聞いて、いても立ってもいられなくて』
『いえ、驚きましたけど。あ、申し遅れました、セラータと申します』
『知ってる。あと普通に話していいよ。もう公爵家の子なんだし同い年だって言ったろ?』
『は、うん』
食べてる合間に他愛もない話をして、食べ終わった後は何故か人んちなのに庭の案内をしてくれて。
横に並ぶと、同い年だっていうのにアルヴァは俺より頭一つ分背が高くて横幅もガッチリで、本当に4歳? って思う。
『アルヴァはよくダスク家に来るの?』
『あー、うん。父上に連れられてよく来てる。実は今日も一緒に来た』
『え? でも執事長のサイモンがさっき先触れなしだったって言ってたよね?』
『・・・・・・ぅ、一応、直前に出したんだけど、父上も俺も気が急いて先触れと同じくらいの速さで来ちゃって・・・・・・』
『それ、意味ないじゃん』
呆れた。それってノックと同時に扉開けるようなもんだよ。
よく聞くと一緒に来た父親もアルヴァも普段はちゃんと貴族のルールやマナーを守っているらしい。
何故か今日は早く会いたくて急いじゃったんだって。
『ふぅん。アディス父様とも仲良しなんだ?』
『そうだね。家族ぐるみの付き合いだった。だからアディス様のご両親がつい先月、流行病で儚くなった時も色々手を差し伸べて───』
『───え? アディス父様のご両親って亡くなってたの!?』
『あ、ああ。・・・・・・そっか昨日の今日じゃ知らないか。ごめん、聞いてなかったんだね』
・・・・・・そうか、まだ二日だけどアディスの両親を全く見なかったのはそういうことか。
だからこんな俺を養子にしてくれたんだな。俺は別の意味で両親がいない身になったし。
きっと哀しくて寂しかったろう。前世の俺も早いうちに両親を事故で亡くして天涯孤独だったから、何となく気持ちは分かる。
───あんなアディスの泣き顔はこの先も見たくないから・・・・・・。
一大決心をするように拳を握りしめて言った。
『うん。俺、アディス父様の息子としてアディス父様を絶対に幸せにする』
『───は? 急にどうした』
『ねえアルヴァ、何をしたらアディス父様幸せかなあ?』
『君が笑ってれば幸せだと思うよ』
『え?』
急に知らない声が聞こえて後ろを振り向くと、アディスともう一人、アルヴァと同じ黒髪黒目の背の高い男の人が立っていた。
いつの間に?
『父上!』
『アルヴァ、私も悪かったが、他人の寝室に許可なく入るのはいけないよ。おかげでアディスにこってり絞られてしまったよ』
『全くだ』
そう言って軽々とアルヴァを抱き上げる男の人。アディスはムスッとしながらも本気で怒ってはいない様子。
この人がアルヴァの父親のドーン公爵か。筋肉質のガッチリした身体で騎士みたいだ。
それにしても若いな。いやアディスも子供みたいな見た目だけど、この人も二十代前半くらいにしか見えない。
アルヴァが次男ってことは上にお兄さんがいるんだよね? いくつの時の子供なんだ、って下世話なことを考えちゃう。
『こんにちは、初めまして。私はドーン公爵家当主シヴィルという。息子が世話になったようだね。長男もいるんだけど、今は仕事で不在なんだ。私の伴侶も一緒に今度紹介するね』
『あ、セラータです。アルヴァ様には、お、私がお世話になってます』
アルヴァを片手で縦抱っこしたまま俺に合わせて屈んで視線を合わせてきたので、慌てて名乗り返す。
『うん、アルヴァとは同い年だし、家族ぐるみの付き合いでこれからアルヴァとも幼馴染みになるのだから、プライベートでは敬語もなしで、気楽にね』
『あ、うん』
アルヴァと同じように言われて、俺も否やはないので即答した。敬語も気を遣うしね。
『可愛いねぇ。昔のアディスみたいだ』
『私はともかく。セラータは可愛いに決まってるだろう。やらんぞ』
『うーん、それは今後のアルヴァ次第・・・・・・』
? 後半はアディスと立ち上がったシヴィルがコソコソと耳打ちしてて聞こえない。くそう、背が、背が全然足りない・・・・・・!
俺の視線に気付いたのか、シヴィルがアルヴァを腕から下ろして俺のところに寄越して来た。
『セラータ、向こうにいい場所があるんだ。行こう』
『え、でも』
アディスとシヴィルを放って置いていいの?
『父上達は何か話があるみたいだから気にしなくていいよ。それよりもこっち!』
『あ、うん・・・・・・って待って、早いよ!』
手を掴んで足早に進むアルヴァに、足の長さが違うからもつれて転びそうになる。それでなくてもここ数日間で落ちた体力は一晩寝たくらいじゃ回復しない。
『あ、ごめん』
『え、あ、は? ───ひぃっ!?』
そう言ってピタッと止まったかと思ったらアルヴァにふわりと横抱きされた。それはもう流れるように。
俺は急な浮遊感に怖くなって慌ててアルヴァの首に腕を回して縋り付いた。
『きき急にやらないでっ!』
『軽いな、もっと食べないと』
『ねえ聞いてる!?』
『そのまま掴まってて』
『ねえアルヴァってば!』
噛み合わない会話をしながら庭園の奥に向かう二人をシヴィルはニコニコしながら、アディスは不機嫌な顔で見つめていたのだった。
◇◆◇
私は小さくなっていく二人を見ながら、不機嫌さを隠すこともせずに踵を返した。
そのあとを苦笑して着いてくるシヴィル。
先程セラータ達が食事をしていたテラス席に座るとシヴィルにも着席を促し、ムスッと話し出す。
『・・・・・・アレは無意識なのか?』
『だろうね。意味もよく分からず、もう昨日からそわそわ落ち着かなくて』
俺の言葉に是と返すシヴィルにまたイラッとする。
それを苦笑して見つめるシヴィル。
『言っておくけど、あの子は愛しい私の息子だからね。手放さないからね!』
『おやおや、相当入れ込んでいるようだ』
『当然だろう。一目見て惹かれたんだ。あの絶望と恐怖で彩られた昏い瞳・・・・・・。両親を亡くしたばかりの私を見ているようだった』
15歳の私がそうなんだ。たった4歳の幼児に耐えられるわけがない。
そう思ってあのあと詳しく話を聞いたら、淡々と理路整然と話をするセラータに驚いた。とても4歳の幼児の発言じゃなかった。
取り乱すことも多少あったが年齢に見合わない、とても賢い子だと分かった。
それに加えてあのとき発現した魔法の力は、量も質も私の上をいくであろうと直感で分かった。
だから保護も兼ねて養子にしたのだけど・・・・・・。
何も知らないはずなのに私の寂しさに気付いたのか、両親が亡くなってから誰もする人がいなくなった、頭を撫でる仕草をしてくれて。
名前も何もかも消して、私の息子になることを望んでくれた。
だからあの子の障害になるモノ全てを消し去ってやらなくては。
───それを昨日のうちに全て終わらせた。
シヴィルが手伝ってくれたのは確かに助かったが。
しかしそれはそれ、いくらアルヴァが無意識に番い認定したからといって許せるものではない。
『もはやあの子の幸せは私の幸せだよ。貴方が言ったようにね。だからアルヴァには悪いがセラータを手放す気はない』
『・・・・・・おやおや、手厳しいな。もちろんセラータの気持ち次第さ。アルヴァの頑張りに期待しよう』
シヴィルはすでに先を見通しているようにニヤリと笑った。
まあ、ドーン公爵家の者に目をつけられたら逃げられないだろうが。
『・・・・・・セラータも成長が遅れるだろう。すでに遅くなっているかも。だいぶ小柄だし。私としては同じように長生きして貰えて嬉しい限りだけど』
『そんなに寂しいなら君も共に歩める伴侶を見つけることさ』
『───煩いな。そんなに簡単なことじゃないと分かってるくせに』
『うん。知ってて揶揄ってる』
『っコレだから長命種はー! 人を暇潰しのネタにしないでくれるかな!?』
『はっはっは』
それが出来れば苦労はしないんだよ!
ドーン公爵家は竜人の一族。遙か昔からシヴィルが当主なので、人族であるダスク家は何代も当主が代わっているがシヴィルはその全員を把握しているそうだ。
何時も見送る側だからか、何時の間にか私達の幸せを願って見守る立場になっているし、お節介が染みついているらしい。
揶揄いもめちゃくちゃ多いけどな。
幸いというか、ダスク家もずば抜けて魔力量の多い一族なので人族では長命でドーン家とも長い付き合いなのだが・・・。
『・・・・・・本当に呆気なくて・・・・・・』
両親も私ほどではないものの老いが遅く、もっともっとこの先も生きるはずだった。
それを私も、当の両親でさえ疑いもしなかったのに、病があっと言う間に二人を神のもとへと連れ去ってしまった。老化が遅いだけで脆弱な身体はさすがに大病や致命傷には耐えられない。
急なことに対処しきれない私の精神は胸の内にぽっかり空洞を作ってしまい・・・・・・。
そしてそれを埋めるように現れたセラータ。
もう私の一部のようになったから、そんな簡単に手放せない。
『私達も驚いたよ。本当にあっと言う間だったから。まあ、私達は見送ることにいい意味でも慣れているからまだいいが、君は・・・・・・』
『───例えようもない虚しさ、孤独を味わったよ。そんな奈落の底から私は昨日、セラータに掬い上げられて救われたんだ』
『・・・・・・彼との出会いは必然だった、ということかな。・・・・・・いやはや、これはアルヴァにはかなり荷が勝ちすぎているかな?』
私が彼以外にこんなに重たい愛情を誰かに向けるなんて思いもしなかった。
でもこれは恋人に向ける愛情じゃなくてただの家族への愛情なんだけど。
ごめんね、セラータ。重くて面倒臭い親が出来ちゃったね。
『ところで君の血筋はどうするんだい? 直系の血筋はもう君だけだろう。分家にはそんなに力のある者はいないだろう?』
『それは、まあ後で考えるさ。先は長い』
『・・・・・・そう思ってて、ご両親は───』
気遣わしげにそう言うシヴィルにニコリと笑ってやる。
『大丈夫。直感だけど、私達は長生きするよ。いや、しなくちゃいけない。両親の分も』
『君は昔からそういうの何となく読めるからねえ。実際、よく当たるし。・・・・・・じゃあ、ウチの長男のことも?』
『・・・・・・時期じゃない。でも、この先チャンスはあると思ってる』
シヴィルの長男のエヴァルド。
ワケありのこの竜人は近衛騎士団に勤めている。
100年ほど前に番いを亡くして以来、ひたすら仕事に打ち込んでいて城の騎士団宿舎に寝泊まりし、実家である公爵家に滅多に帰省しないそうだ。
彼の気持ちを慮って、シヴィル達は何も言わないでいるらしいが・・・・・・。
『了解。タイミングは君に任せるよ。上手くいくといいね』
『・・・・・・他人事のように・・・・・・。まあアルヴァ次第でもあるかな』
『結局そこに戻るんだ? 堂々巡りだね』
そう言って笑うシヴィル。
そう、不本意だが、アルヴァとセラータの関係性次第で私の事情も変わるだろう。
手放さないと言いながら手放さざるを得ないだろうという相反する思い。
私の幸せはセラータが幸せになることだが、今の私が彼を手に入れるためにはセラータを手放すしかない。
───だから昨日から苦悩しているんだよ。
※あらすじくらいで軽く済ますつもりが、後から色々書きたいコトが湧いてきて文字数が短編では収まらなそう。
時間的に長く書くのが辛いので、次からは文字数減らしてちまちま投稿か、長いのを不定期投稿予定です。すみません。
ちなみにR18まではたぶんまだ遠いです。珍しく(笑)。脇CPのほうも書きたい。要望があれば(笑)。
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