荒れ地に咲く一輪の花

エウラ

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19 旦那様のお仕事拝見! 2

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抱き潰された。

この一言に尽きる。

何か自分で墓穴を掘ったのは分かった。分かったがそれとこれとは別じゃないか?
なんで魔力譲渡だとか言われて真っ昼間っから夜まで抱かれると思う!?

おかげで朝一で転移とか言ってたのにちっとも起きられないし、何なら昨日は昼も夜もご飯抜きで背中にくっつきそうなお腹を満たすために、今現在もぐもぐタイム。

───ルーカスの膝の上で給餌されてますが何か?

寝ぼけているウチにいつの間にか神殿へと転移していて、気付いたら司祭様という人とルーカスが挨拶していて。
俺が何も言えずにポカンとしているウチにあれよあれよと今のような状態になっていた。

向かい側のソファにはニコニコ顔の品のいい五十代くらいの司祭様がこっちを微笑ましそうに見つめていてちょっと居心地が悪い。

でも空腹には勝てん。
ルーカスに口に運ばれるまま軽食を頬張る。
うまうま。

やがて満足した俺を見てルーカスがテキパキと片付けをして、ご馳走様でしたになった。

そして俺は気まずげにルーカスに囁く。

「……あの、ルーカス。ここはもう、神殿なんだよね? あの人が司祭様なんだよね?」
「ええ、ここは神殿の中の来客用の応接間です」

ぽそぽそ話していると、それが聞こえていたのかルーカスが応える前に司祭様がそう教えてくれた。

「あの、さっきはぼーっとしててスミマセンでした。改めてカンナヅキ・ヨウガです。よろしくお願いします」
「いえいえこちらこそ、せっかくの仲睦まじい時期に申し訳ありません。改めまして、この神殿の司祭のノートルと申します」

そう言ってお互い名乗り直した。

「ムリを承知で連絡を差し上げましたが、愛し子様が説得して下さったとか。本当にありがとうございます」

そう言って頭を下げる司祭にぎょっとする。慌てて顔を上げるように言う。

「顔を上げて下さい! こちらこそついて行くって我が儘を言いましてスミマセン! あの、なるべく邪魔にならないようにしますから」
「そんなこと! 邪魔なんて。むしろ現場の聖騎士達は喜びますよ。士気が上がりますね」

え? なんで? 普通は一般人邪魔! ってなるよね?

俺はキョトンとしてルーカスを見た。ルーカスは軽く溜め息を吐いて教えてくれた。

「聖騎士は神を祀る神殿の所属で、その神の愛し子というヨウガを尊び崇めることこそあれ、邪険にすることはない」
「え、俺、崇められちゃうの!? それはイヤだな。普通にして欲しい。だって俺が普通の人だもん」

別に偉くないし、俺も気疲れしそう。今だって愛し子様なんて言われてちょっと辛いのに。

「……普通ではないと思うが、まあヨウガだしな。向こうに着いたら皆にそのように話をしておこう」
「うん、よろしく。あ、じゃあもう行かないと。向こうで他の人達が待ってるんだよね?」

俺がそう言うと軽く頷くルーカス。
早めに行って手助けしてあげないと。それに他の聖騎士達の仕事ぶりとかすっごい気になる。

「そうだな。では司祭様、忙しないですが私達はあちらの隊と合流するためにここで失礼します」
「ええ。よろしくお願いいたします。くれぐれもケガのないよう。愛し子様を護って下さいね」
「承知しております」
「お邪魔しました!」

こうして司祭に見送られながら神殿を出て転移した。

最初のときは寝ぼけててよく分からないまま転移したが、今度はバッチリ目が覚めていたので思わず瞑った目を開けると、そこは見たことのない深い森の入り口で。

そのそばには十人ほどルーカスと同じ装備をした一団が集まっていた。







*書けたので投稿します。

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