月の至高体験

エウラ

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本編

98 騎士団の鍛錬場は大騒ぎ

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その日はいつもと何ら変わらない日だった。

今の時期、特に魔獣や魔物が活発に動いていることもなく、市井で騒動があるわけでもなく。
日々の日課としての鍛練を行っていた。

そこに彼の方が現れた。

噂でしか知らない者も多い中、先日の学園での野外授業での一件を知る者は戦々恐々とした。

『夜叉姫』

さざ波のように広がっていくざわめき。

二つ名を持つ皇国一のSランク冒険者。

この帝国でもその名を轟かせている正体不明の謎の冒険者が実は皇公爵家の嫡男だったというのはつい最近分かったこと。

そして、非公表ながら先日オクタヴィウス家の養子となった第2皇子殿下でスオウ様の婚約者とのこと。

そんな方がスオウ様と鍛錬場にいらした。

以前、副団長が言っていた。

『夜叉姫が騎士団の訓練に混ざりたいそうだ』

アレって冗談じゃ無かったんだ。


幸い?午前中の鍛練は終わりに近いため、お二方は軽い動きだけにしたようだが・・・。

皇子殿下の刀捌きの美しいこと。
流れるような動きで、まるで舞っているよう。

団員一同、見蕩れてしまった。

「凄いな」
「・・・本当に・・・」

稚拙な言葉しか出ないほど、呆然としてしまった。

それから間もなく昼休憩に入って、副団長が二人を食堂へ誘って、それに嬉々とした声で応じるサクヤ殿下に、皆がほわっと癒された。



食堂へ入ると、別勤務で鍛錬場にいなかった団員達が一足早く席に着き、大盛りの昼食を食べていた。
しかし副団長に続いて入ってきた人物に、一瞬にして釘付けになった。

うん。気持ちは分かるぞ。

「あの方は、もしや・・・」
「サクヤ殿下だ」
「どうしてここに・・・?!」

などといつもとは違うざわめきを気にするでも無く、サクヤ殿下は騎士達の昼食のあまりの量に引いていた。
料理人に逆に減量を頼むくらいには・・・。

厨房もいつもの喧騒が嘘のようにパタッと止んで、サクヤ殿下は困ったように微笑していた。



「・・・・・・綺麗な方でしたねぇ」
「女神!」
「・・・・・・料理長達、仕事をして下さい」

そういって彼の情報を教えてやった。

その直ぐ後にきた団長が大盛りを頼みつつサラッとサクヤ殿下の更なる情報を教えると、流れに乗って流そうとした料理人の顔が固まった。

「・・・スオウ様?」
を? で?」

・・・・・・固まりつつも手だけは動かしていたらしい。
大盛りを団長に渡すと、団長は礼を言って上官の席へと向かった。

俺達は暫く呆然としていた。


食事を終えた4人は一足先に鍛錬場に戻ったようだった。

去り際にサクヤ殿下が言った一言に、厨房の連中が心臓を撃ち抜かれて悶えていた。

・・・・・・うん。

殿下は天然たらしだった。

スオウ様、ご苦労様です。



鍛錬場に向かった4人が気になり、皆、昼休憩もそこそこに向かうと、果たして鍛錬場そこは、訓練予定の団員で溢れかえっていた。

午前中と同じ軽装備で軽く組み手を始めたお二人。
スオウ様は帝国でも習う体術が基本的な動きだが、サクヤ殿下は見たことの無い、独特な動きだ。

「皇国の独自の武術かな? かなりの体術が入り乱れて独特だけど」
「ふむ。アレなんかは相手の勢いを利用した技だな。面白い」

団長と副団長が分析しながら話しているそれを聞くとはなしに聞いていると、今度は剣を出し、結界を張って打ち合い出した。

「・・・・・・すご・・・・・・」

皆が目で太刀筋を追えたのはほんの数分。
一気に加速した動きに、団長達ですら追えなくなった。

分かるのは打ち合っている金属音と地面を蹴っているであろう音。

そのうち魔法も使い出したのかもの凄い地響きが何度も響いて、さすがにヤバいと思ったのか皇太子殿下が様子を見に来てしまった。

団長達と二、三言葉を交わすと、諦めたように頭を抱えて去って行かれた。

・・・・・・気持ちは分かりますよ、殿下。

結界張っててコレですもんね。

すわ襲撃か?!ってなりますよね!

---敵じゃ無くて本当にヨカッタ・・・。



その後、満足したらしいサクヤ殿下は鍛錬場を綺麗に戻し、俺達の鍛錬に時々混じりながら、さわやかな笑顔で帰っていきました。


「楽しかったねぇ。また来てくれないかな?」
「あの体術は参考になる。今度は講師としてきて貰うか・・・」

なんて団長達が言っていた。

ガチンコな手合わせは遠慮したいが、モチベーションアップにはいいと思います。




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