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本編
75 試験の裏で (side用務員)
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1年生のスメラギ・ハルキ様からこっそり頼まれた。
彼は私みたいな下級の職員にまで優しい笑顔で声をかけてくれる。
彼の為ならば何だってしよう。
だから、協力したんだ。
『剣術の実技試験で事故に見せかけて懲らしめたいから、こっそり武器が壊れるように細工してくれない?』
そう無邪気に笑う彼の言うままに、刀に細工を施した。
何合か打ち合ったら砕けるように。
誰が使ってどうなるかなんて考えもしなかった。
ただ、彼に喜んで欲しかったのだ。
彼は嬉しそうに笑って頬に口づけてくれた。
昇天しそうだった。
ぽーっと見送ってから、ハッとして武器を慌てて片付ける。
何事も無かったかのように整頓された武器達。
この後に待っている破滅の事など思いもせずに・・・・・・。
---どうしてこうなった。
私は今、騎士団の詰め所の取調室で団長、副団長が見下ろしている中で、騎士の一人に尋問を受けている。
余りの圧迫面接の様にガクガクと震えが止まらない。
「お前は用務員のトマスで合っているか?」
「は、はい」
「今回の実技試験で使用する武器を用意して確認したのはお前だと他の用務員から聞いているが、そうなのか?」
「・・・っはい」
何でそんなこと聞いて・・・・・・。
?!
まさか・・・・・・。
「---どうやら思い至ったようだな。自分が何をやったのか、それがどういう事か・・・。分かっているのか?」
尋問の騎士の言葉に、漸く、自分のしでかした事の大きさに思い至った。
先ほどは騎士達の圧で震えていたが、今度は恐怖で震えが止まらなくなった。
そうだ、私は何も考えずに武器に細工をした。
私の役目は生徒達が安全に鍛錬を出来るようにする事だ。
なのに私は何をした・・・。
真逆の事をしたんだ。
何故・・・?!
あの時はそうすることが最善で、彼に喜んで貰うのが最優先で・・・・・・。
何故、そんなことになったんだ?!
分からない。
「刀に細工をするように言われたんだな?」
団長が問いかけた。
「・・・ええ」
「その辺り、詳しく話せる?」
副団長に言われて、考える。
確か、あの時は・・・・・・。
「備品倉庫で、今回の武器の確認と手入れをしてました。必要な武器を必要数揃えてまとめていたら、スメラギ・ハルキ様が侍従らしき方と来たので驚きました。危ないからと声をかけたんですが、その後は、その・・・なんと言えばいいのか・・・」
「意識が霞がかったようだ、と」
団長の言葉にハッとして顔を上げた。
「そうです! 何故かこの方のために、役に立ちたい、そんな気持ちになって」
「それで言われるがまま、刀だけに傷をつけたんだな?」
「はい。でもその後はいつも通りに過ごしました。そんなことをしたくせに何も覚えて無くて・・・今、言われて思い出しました」
団長達は何やら考え込んでいたが、その間に尋問は終わった。
私は詳しい調査が終わるまで、牢屋で反省も兼ねて入ることになった。
「さすがに無罪放免とはならないからな。サクヤ殿が気付いたからよかったものの・・・」
「下手をすれば死人が出ていたからな」
その言葉に肝が冷えた。
その後、牢屋から出た私は、3ヶ月の減俸と1週間の謹慎を言い渡された。
正直、クビを覚悟していたのに。
後になって、サクヤ様が取りなしてくれたことを知る。
「命を狙った相手に、なんて慈悲深い・・・」
本当に何故、あんなコトをしたのか。
どうやら精神を操る類いの魔法を使われたらしいが、もう二度とゴメンである。
彼は私みたいな下級の職員にまで優しい笑顔で声をかけてくれる。
彼の為ならば何だってしよう。
だから、協力したんだ。
『剣術の実技試験で事故に見せかけて懲らしめたいから、こっそり武器が壊れるように細工してくれない?』
そう無邪気に笑う彼の言うままに、刀に細工を施した。
何合か打ち合ったら砕けるように。
誰が使ってどうなるかなんて考えもしなかった。
ただ、彼に喜んで欲しかったのだ。
彼は嬉しそうに笑って頬に口づけてくれた。
昇天しそうだった。
ぽーっと見送ってから、ハッとして武器を慌てて片付ける。
何事も無かったかのように整頓された武器達。
この後に待っている破滅の事など思いもせずに・・・・・・。
---どうしてこうなった。
私は今、騎士団の詰め所の取調室で団長、副団長が見下ろしている中で、騎士の一人に尋問を受けている。
余りの圧迫面接の様にガクガクと震えが止まらない。
「お前は用務員のトマスで合っているか?」
「は、はい」
「今回の実技試験で使用する武器を用意して確認したのはお前だと他の用務員から聞いているが、そうなのか?」
「・・・っはい」
何でそんなこと聞いて・・・・・・。
?!
まさか・・・・・・。
「---どうやら思い至ったようだな。自分が何をやったのか、それがどういう事か・・・。分かっているのか?」
尋問の騎士の言葉に、漸く、自分のしでかした事の大きさに思い至った。
先ほどは騎士達の圧で震えていたが、今度は恐怖で震えが止まらなくなった。
そうだ、私は何も考えずに武器に細工をした。
私の役目は生徒達が安全に鍛錬を出来るようにする事だ。
なのに私は何をした・・・。
真逆の事をしたんだ。
何故・・・?!
あの時はそうすることが最善で、彼に喜んで貰うのが最優先で・・・・・・。
何故、そんなことになったんだ?!
分からない。
「刀に細工をするように言われたんだな?」
団長が問いかけた。
「・・・ええ」
「その辺り、詳しく話せる?」
副団長に言われて、考える。
確か、あの時は・・・・・・。
「備品倉庫で、今回の武器の確認と手入れをしてました。必要な武器を必要数揃えてまとめていたら、スメラギ・ハルキ様が侍従らしき方と来たので驚きました。危ないからと声をかけたんですが、その後は、その・・・なんと言えばいいのか・・・」
「意識が霞がかったようだ、と」
団長の言葉にハッとして顔を上げた。
「そうです! 何故かこの方のために、役に立ちたい、そんな気持ちになって」
「それで言われるがまま、刀だけに傷をつけたんだな?」
「はい。でもその後はいつも通りに過ごしました。そんなことをしたくせに何も覚えて無くて・・・今、言われて思い出しました」
団長達は何やら考え込んでいたが、その間に尋問は終わった。
私は詳しい調査が終わるまで、牢屋で反省も兼ねて入ることになった。
「さすがに無罪放免とはならないからな。サクヤ殿が気付いたからよかったものの・・・」
「下手をすれば死人が出ていたからな」
その言葉に肝が冷えた。
その後、牢屋から出た私は、3ヶ月の減俸と1週間の謹慎を言い渡された。
正直、クビを覚悟していたのに。
後になって、サクヤ様が取りなしてくれたことを知る。
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