月の至高体験

エウラ

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本編

67 サクヤの大丈夫は信用ならない(sideスオウ)

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今日は雨期に入って初めてまともに雨が降る日だった。

帝国では雨期にまとまった雨が降るから、普段は快晴が多い。
夏季休暇前まではスコールのような雨が度々降るのだ。

今日の雨はどちらかというと静かに降り出したので、最初は降っていることに気付かなかった。

そんな朝、珍しくサクヤの表情が晴れない。
どことなく気怠げで顔色も悪い気がして、サクヤに聞いたんだ。

「具合悪そうだけど大丈夫か?」
「・・・大丈夫」

・・・そうには見えないんだけど。

各務もそう思ったようで、気遣わしげに見やるが、サクヤ本人がそう言うので、様子を見るかということで落ち着いた。

朝食時もいつもより食が進まないようで、半分近く残してしまった。

「・・・サクヤさーん?」

おどけて声をかけると、ゴメンね?と申し訳ない顔をしたが、それでも休むとは言わなかった。
サクヤに見えないようにこっそり溜息をついて各務に目配せをする。

おそらく倒れるまで我慢するつもりなんだろう。
ここで進言しても拒まれると踏んだ。

仕方がないから付きっきりで見張っておこう。

そう思って生徒会室で様子を見ながら仕事を熟す。
生徒会のメンバーにも気遣われたが、やはり自分から言い出すことは無かった。
そうして一時限目が終わる頃にサクヤに異変があった。

お茶でも入れようとしたのか、おもむろに立ち上がって給湯室の方へ体を向けて数歩進んだと思ったら不意に体が前へ傾いだ。
咄嗟に走り寄ってぎりぎり抱きとめると、脂汗を浮かべて眉を寄せた真っ青な顔が見えた。

「大丈夫か?!」
「なんか朝から調子悪そうだったもんな」
「スオウ、休ませなかったのか?」
「いや、サクヤが体調不良を頑として認めなくてさ、様子を見ていたんだが・・・」
「---あー、もう、我慢するの癖になってるんだろうね。少しづつ直せたらいいんだけど」
「とにかく保健室へ。こちらは急ぎのものは無いから、スオウもそのまま寮に帰って休んでいいぞ」

サクヤを抱き上げて頷くと急ぎ足で保健室へ向かった。
その間に影に頼んで各務に連絡をして貰う。

「失礼します。オクタヴィア・スオウです、オクタヴィウス・サクヤを診て頂きたいのですが」

声をかけると慌てて保健医が出て来た。

「どうしたんです? いや、とりあえずベッドへ寝かせて下さい。状況の説明を」
「朝から怠そうで、時々顔をしかめてました。それがだんだん酷くなったようです。さっき、生徒会室で立ち上がってすぐに意識を失って」

その間もサクヤの体を触ったり手をかざして魔力を視たりしている。

「・・・・・・うん、どうやら天気の悪い時に起きやすい症状ですね。いわゆる『天気痛』だと思われます」
「じゃあ、今日は雨が降っているから、そのせいですか」
「そうです。雨が降ると古傷が痛むって話、聞いたことあると思いますけど。たぶん天気がいいときは問題ないはずです。食事等を気を付けたり、耳のマッサージとかありますけど、ひとまず鎮痛剤を出しましょう」

そう言って処方してくれた。

「目が覚めたら飲ませてあげて下さい。その後はゆっくり休むといいですよ」
「ありがとうございます」

ホッとひと息吐いた。

暫くして目が覚めてきたのか、睫毛が震えた。
が、瞼が開かない。
そのまま少し待ったが俺が焦れてしまい、サクヤの名を呼んだらやっと目覚めた。

弱っているのか、珍しく『頭が痛い』と告げてきた。いつもなら『何でもない』とか『大丈夫』などと言うのに。

相当辛いんだろう。
掌を頬に滑らせると甘えたようにすりっと顔を寄せてきた。
その仕草が猫のようで、思わずクスッと笑っていた。

薬を飲ませて抱き上げると、俺の肩に素直にもたれかかる。
薬が効くまでは辛いのだろう。
頭に響かないようにゆっくり寮まで歩く。

寮に着く頃には薬が効いてきたのか、雨足が強くなるのとは反対にサクヤの呼吸は穏やかに、静かになっていった。



部屋で静かに眠っていたサクヤの顔が不意に歪んだ。
辛そうな表情になったのだ。

夢でも見てるのか?

暫く見つめていると、何時かのように寝言が聞こえた。

「・・・・・・俺は、僕は・・・・・・独り・・・」

それが寂しそうな声で、思わず言っていた。

「っ独りじゃ無いよ」

「皆も居るよ」

少ししてサクヤが目覚めた。
ホッとしたような顔で、一緒に横になっていた俺の胸に頭をぐりぐりと擦り付ける仕草が猫っぽくて。

もう少しこのまま、というサクヤに倣って俺もサクヤの温もりを堪能しているうちに、自分もそのまま眠りについて。

結局昼ご飯を食べ損ねて、各務に遅いお昼を用意して貰う事になった。

それからまた少し午睡をして、夕方、目が覚めた頃には雨は止んで、夕日が綺麗な虹を見せてくれていた。

夕ご飯を食べて風呂から寝る支度をして、サクヤと再びベッドに潜る。

静かに抱き合って、優しい夜は更けていった。




*何やらうっかり寝ぼけて、書き上げ途中のをポチッと公開したような? 意識が一瞬トんでました。中途半端だと思った方は読み直して下さい。すみません。未だ寝ぼけてます*


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