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本編
64 嵐の後始末(side騎士団団長&副団長)
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サクヤが公爵家の元・影達を餌付けしていた頃。
今回の野外授業で異例の介入をした国立騎士団の副団長であるウルティマが、団長の執務室でソファに座り深ーい溜息を吐いていた。
思い返すのは一昨日からの出来事。
そして知りたく無かった『夜叉姫』の正体。
「---あああ・・・。まじかぁ・・・・・・」
ここが団長の執務室なのは分かっている。分かっているが、そんなことも気にならないくらい心ここにあらずだった。
「おい、ここをどこだと思っている。仕事をしろ」
淡々と告げる部屋の主である団長-エステルがチラッと視線を向けたが、更にソファに体を投げ出しただけだった。
実はこの二人は幼馴染みで、同い年。
気の置けない仲なので、二人きりの時はこんな感じだ。
「だってさあ、大変だったんだよ! なのに休みもなく報告書をあげたんだから少しは労ってくれてもいいじゃないか」
「そんなに柔じゃないだろ」
「そうだけどさあ・・・精神的に? だって『夜叉姫』だったんだよ! 第2皇子殿下が!」
信じられる?!
皇国はおろか帝国までその名を轟かせていた謎の冒険者が元皇国公爵家嫡男で現帝国第2皇子殿下って!
盛りすぎだろう。
だが、噂に違わぬ実力を見せつけられては何も言えないけれど。
「・・・凄かったなあ。影達相手にも凄かったけど、キマイラとの戦闘なんて、最後は首を一薙ぎで、しかも全然気負ってなくてさ」
綺麗だった。
なんといっても、姿形、仕草、どれをとっても優雅で桁違いの戦闘力。
「ああ、騎士団に欲しい!」
「アホ。無理に決まってるだろう」
うっとりとしていると団長のツッコミが入った。
「まあ分かっているけど。でも皇子殿下だし、スオウ様と婚約してるんだから一緒に訓練に顔出してくれないかな? 頼むだけならタダだよね!」
「---聞いといてやるから仕事をしろ」
エステルがはーっと溜息を吐く。
「よっしゃ! じゃあ頑張って仕事しようっと」
そういってようやく自分の執務机に落ち着いて書類を捌き始める。
取りかかるまでが面倒だが、始めてしまえば処理は片手間なくらい早いのに。
全く・・・と心の中で思うも、顔には出さない。
暫く黙々と書類を捌き、ひと休みするかと顔をあげれば、従者が来訪者を告げてきた。
「第2皇子殿下と大公家次男のスオウ様がお見えになっております。先日の御礼をと。お通ししてもよろしいでしょうか?」
何というタイミング。
ウルティマがニヤリとしたのが分かった。
「ああ、頼む。それとお茶の用意を」
「畏まりました」
そうして現れたのは、幾分かラフな格好の二人。
そういえばまだ15歳の学生だったな。
余りにも規格外すぎて失念していた。
「こんな所まで足を運んで頂き、ありがとうございます。殿下に置かれましては」
「あの、そんなに畏まらないで下さい。普通に話してくれると助かります・・・」
「・・・ですが、皇族の方に」
「大丈夫ですよ、団長。むしろサクヤが慣れてないので普段通りでお願いします」
殿下を見ると一生懸命首を振っている。
・・・可愛いが。
そんなに振っているともげるぞ?
思わずふっと笑ってしまった。
殿下が顔を赤く染めて照れている・・・らしい。
顔が余り動かないが。
そういえば無表情だと聞いていたが、けっこう表情豊かになったのだな。
「分かった。ではその様に。初めまして。騎士団団長のエステルという。コレは副団長のウルティマだ。野外授業で見かけたと思うが」
「ウルティマです。よろしく」
「サクヤです。初めまして。野外授業中はありがとうございました」
「ちょうど父に用事があってこちらに来たので、帰りにサクヤが御礼を兼ねて挨拶がしたいと言うので寄らせて貰いました」
大公閣下の用事とは、例の影達の誓約魔法の解除だな。
済ませてきたというなら、成功したんだな。
「今回は私のせいで色々とご迷惑をおかけしました。お仕事を増やしてしまったようで申し訳無くて・・・。それで、良かったら仕事の合間にでも食べて貰おうと思って、差し入れを持ってきたんです」
「ありがとうございます。いったい何でしょうか?」
「焼き菓子なんですが、甘いのが苦手な方もいるかなと思って、色々と焼いてきました」
そう言って大量のクッキーを籠いっぱいに出した。
いや、何処から出した?!
何も持ってなかったよな?!
スオウ様を見ると目を逸らされた。
察した。
・・・サクヤ様にはコレが普通なんだな。
ところで聞き捨てならない言葉が・・・。
『焼いてきた』
って言ったよな?
「え? もしかしてサクヤ様の手作り?!」
ナイス!
よくぞ聞いてくれたウルティマ。
キョトンとしてから頷くサクヤ様に、聞き違いじゃ無かった事を理解した。
「・・・美味しいので、気にせず食べて下さい」
スオウ様、半ば棒読みだが?
まあ、ありがたく頂こう。
「では、ありがたく頂こう。・・・所で、時間があるときでいいのだが、スオウ様のように騎士団での訓練に顔を出して一緒に鍛練してみないか? ウルティマが是非にと煩くてな」
「・・・いいのかな? 僕、邪魔じゃない?」
スオウ様に聞くが、そんなことはない。逆に皆喜ぶと思うぞ。
「邪魔なんて絶対ない。大丈夫、今度俺と行こうぜ」
「うん、嬉しいな。じゃあ、団長さんも副団長さんも、その時はよろしくお願いします」
お邪魔しました。
そう言って部屋を後にしたのを見送って。
「可愛いなあ」
「本当に『夜叉姫』なのか疑ってしまうな」
「普段は冷静沈着なのに、スオウ様がいるとぽやぽやしていて、可愛くて」
独り身だったら恋人にしてるな。
なんて二人して思った。
好みは同じだった。
「さあて、頑張って後始末をしよう! サクヤ様と手合わせ楽しみ!」
面倒な仕事もやる気が出た。
現金な二人だった。
・・・似たもの同士。
侍従は内心で呆れつつ、お茶を片付けながら、サクヤ様のお陰で今日は仕事が捗りそうで良かったと喜んでいた。
今回の野外授業で異例の介入をした国立騎士団の副団長であるウルティマが、団長の執務室でソファに座り深ーい溜息を吐いていた。
思い返すのは一昨日からの出来事。
そして知りたく無かった『夜叉姫』の正体。
「---あああ・・・。まじかぁ・・・・・・」
ここが団長の執務室なのは分かっている。分かっているが、そんなことも気にならないくらい心ここにあらずだった。
「おい、ここをどこだと思っている。仕事をしろ」
淡々と告げる部屋の主である団長-エステルがチラッと視線を向けたが、更にソファに体を投げ出しただけだった。
実はこの二人は幼馴染みで、同い年。
気の置けない仲なので、二人きりの時はこんな感じだ。
「だってさあ、大変だったんだよ! なのに休みもなく報告書をあげたんだから少しは労ってくれてもいいじゃないか」
「そんなに柔じゃないだろ」
「そうだけどさあ・・・精神的に? だって『夜叉姫』だったんだよ! 第2皇子殿下が!」
信じられる?!
皇国はおろか帝国までその名を轟かせていた謎の冒険者が元皇国公爵家嫡男で現帝国第2皇子殿下って!
盛りすぎだろう。
だが、噂に違わぬ実力を見せつけられては何も言えないけれど。
「・・・凄かったなあ。影達相手にも凄かったけど、キマイラとの戦闘なんて、最後は首を一薙ぎで、しかも全然気負ってなくてさ」
綺麗だった。
なんといっても、姿形、仕草、どれをとっても優雅で桁違いの戦闘力。
「ああ、騎士団に欲しい!」
「アホ。無理に決まってるだろう」
うっとりとしていると団長のツッコミが入った。
「まあ分かっているけど。でも皇子殿下だし、スオウ様と婚約してるんだから一緒に訓練に顔出してくれないかな? 頼むだけならタダだよね!」
「---聞いといてやるから仕事をしろ」
エステルがはーっと溜息を吐く。
「よっしゃ! じゃあ頑張って仕事しようっと」
そういってようやく自分の執務机に落ち着いて書類を捌き始める。
取りかかるまでが面倒だが、始めてしまえば処理は片手間なくらい早いのに。
全く・・・と心の中で思うも、顔には出さない。
暫く黙々と書類を捌き、ひと休みするかと顔をあげれば、従者が来訪者を告げてきた。
「第2皇子殿下と大公家次男のスオウ様がお見えになっております。先日の御礼をと。お通ししてもよろしいでしょうか?」
何というタイミング。
ウルティマがニヤリとしたのが分かった。
「ああ、頼む。それとお茶の用意を」
「畏まりました」
そうして現れたのは、幾分かラフな格好の二人。
そういえばまだ15歳の学生だったな。
余りにも規格外すぎて失念していた。
「こんな所まで足を運んで頂き、ありがとうございます。殿下に置かれましては」
「あの、そんなに畏まらないで下さい。普通に話してくれると助かります・・・」
「・・・ですが、皇族の方に」
「大丈夫ですよ、団長。むしろサクヤが慣れてないので普段通りでお願いします」
殿下を見ると一生懸命首を振っている。
・・・可愛いが。
そんなに振っているともげるぞ?
思わずふっと笑ってしまった。
殿下が顔を赤く染めて照れている・・・らしい。
顔が余り動かないが。
そういえば無表情だと聞いていたが、けっこう表情豊かになったのだな。
「分かった。ではその様に。初めまして。騎士団団長のエステルという。コレは副団長のウルティマだ。野外授業で見かけたと思うが」
「ウルティマです。よろしく」
「サクヤです。初めまして。野外授業中はありがとうございました」
「ちょうど父に用事があってこちらに来たので、帰りにサクヤが御礼を兼ねて挨拶がしたいと言うので寄らせて貰いました」
大公閣下の用事とは、例の影達の誓約魔法の解除だな。
済ませてきたというなら、成功したんだな。
「今回は私のせいで色々とご迷惑をおかけしました。お仕事を増やしてしまったようで申し訳無くて・・・。それで、良かったら仕事の合間にでも食べて貰おうと思って、差し入れを持ってきたんです」
「ありがとうございます。いったい何でしょうか?」
「焼き菓子なんですが、甘いのが苦手な方もいるかなと思って、色々と焼いてきました」
そう言って大量のクッキーを籠いっぱいに出した。
いや、何処から出した?!
何も持ってなかったよな?!
スオウ様を見ると目を逸らされた。
察した。
・・・サクヤ様にはコレが普通なんだな。
ところで聞き捨てならない言葉が・・・。
『焼いてきた』
って言ったよな?
「え? もしかしてサクヤ様の手作り?!」
ナイス!
よくぞ聞いてくれたウルティマ。
キョトンとしてから頷くサクヤ様に、聞き違いじゃ無かった事を理解した。
「・・・美味しいので、気にせず食べて下さい」
スオウ様、半ば棒読みだが?
まあ、ありがたく頂こう。
「では、ありがたく頂こう。・・・所で、時間があるときでいいのだが、スオウ様のように騎士団での訓練に顔を出して一緒に鍛練してみないか? ウルティマが是非にと煩くてな」
「・・・いいのかな? 僕、邪魔じゃない?」
スオウ様に聞くが、そんなことはない。逆に皆喜ぶと思うぞ。
「邪魔なんて絶対ない。大丈夫、今度俺と行こうぜ」
「うん、嬉しいな。じゃあ、団長さんも副団長さんも、その時はよろしくお願いします」
お邪魔しました。
そう言って部屋を後にしたのを見送って。
「可愛いなあ」
「本当に『夜叉姫』なのか疑ってしまうな」
「普段は冷静沈着なのに、スオウ様がいるとぽやぽやしていて、可愛くて」
独り身だったら恋人にしてるな。
なんて二人して思った。
好みは同じだった。
「さあて、頑張って後始末をしよう! サクヤ様と手合わせ楽しみ!」
面倒な仕事もやる気が出た。
現金な二人だった。
・・・似たもの同士。
侍従は内心で呆れつつ、お茶を片付けながら、サクヤ様のお陰で今日は仕事が捗りそうで良かったと喜んでいた。
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