月の至高体験

エウラ

文字の大きさ
上 下
62 / 133
本編

59 大嵐だった件 その弐

しおりを挟む
*やや残酷な描写があります*




さて、準備万端。

危険なのでキマイラの結界を消さずに僕達が動きやすいように広げる。

「スオウ、入るけど大丈夫?」
「ああ、何時でもいいぜ」
「じゃあ、行くよ!」

久々の大きい獲物。
舌舐めずりしちゃうよ。

実際、無意識にしていたらしくてスオウが苦笑して口元を指差した。
おおっと、失礼。

僕達が結界内に入った瞬間、キマイラの咆哮が聞こえた。
威圧を放っているようで、ビリビリと空気が震える。
でもそれくらいなら全然効かないよ。
スオウをチラッと見ると、やはり平然としていた。さすがだ。

自分とスオウに防御魔法をかける。次いで身体強化の魔法も。

お互いのイヤーカフで通信も出来るから、声をかけながらまずは一太刀浴びせる。

直後、スオウは二太刀。伊達に双剣を使っていないね。

即座に距離を取り、様子をうかがうと、徐々に傷が塞がっていく。
再生能力を有する個体のようだ。珍しい。

「スオウ、あの再生速度どう思う?」
「そうだな、あれくらいなら再生が間に合わないくらいの傷を付け続ければ割といけるな。そもそも、お前の力量なら一刀両断か魔法で一撃だろう?」

うん、それは否定できないかな。
でも色々試したいよねえ。

「色んな攻撃をして効果を試したいんだ。今後の為に有効な攻撃とか効果の薄いものとか、向こうの攻撃パターンとか知りたい」
「・・・ああ、そういう・・・。分かった。じゃあ指示してくれるか? 俺も出来る範囲で検証しよう」
「ありがとう! じゃあまずはねえ・・・」

嬉々としてスオウに指示を出すサクヤ。
それに苦笑しながらも的確に繰り出される攻撃にサクヤが惚れ直しているとは露ほども思わないスオウは、サクヤ同様、戦闘狂の資質があるのだろう。
高揚とした気持ちにサクヤ同様舌舐めずりをしていた。

途中サクヤとバトンタッチして、今度はサクヤの検証に付き合う。
だが、どちらかというとサクヤの戦いぶりを観察していた。

いくら再生能力を持っていようと、さすがに足や尻尾を切断されれば元に戻るのには時間がかかる。
すでにスオウによってかなりのダメージを負っていたので、サクヤが攻撃をするころには再生速度が落ちてきていた。

なのでサクヤはかなり手加減をしていた。

検証には一番軽い魔法でも十分なので、火や水、風、土、氷、雷、闇、光と、攻撃系の魔法を軽く当てて様子を見る。

最終的にはサクヤが刀で獅子と山羊の首を横に一振りして斬り落とし、こちらにはなんの被害もなく早々に決着がついた。


結界内の学生や教職員、外にいた冒険者達、皇族の影や騎士団員は全く何もせず、いや、手を出す暇も無く戦闘は終わった。

検証などしなければあっという間だったと思う。

結界を解除すると、見た目は綺麗な、首無しキマイラがあらわになった。

実際は下手に再生能力を持っていたためにサンドバッグになった憐れな魔物だが。

別に不可視の結界ではなかったので、中で何をしていたのか丸見えだったのだろう。
何となく2人以外の皆がドン引きしていたように思う。

スオウとしては、サクヤの役に立てたのですこぶるご機嫌だった。
サクヤも、初めて対峙したキマイラに終始興奮気味で、しまいにはスオウによってテントに隔離された。

興奮の余り、魔力の花が飛び散っていて周りが凄いことになっていたからだ。

冒険者の他に騎士団も総出でキマイラの後始末と現場検証などでかなり時間はかかったが、概ね落ち着いたところで、結界で被害の無かった野営地でようやく夕御飯となり、生徒達もホッと一息吐いて穏やかな空気が流れた。

「僕が一晩中結界を展開しておくので、皆は安心して休んで下さい」

そうサクヤが言うと、あの戦闘の時の事を思い出したのか、皆がやや引き気味に、でもアレなら安心だと納得して、各々テントに戻っていった。

今日は疲れているだろうとの配慮で、交代での寝ず番は各自の判断でやらなくてもいいことになった。

サクヤの結界で事足りるからだ。

聞いたら、サクヤの負担は全く無いとのこと。
さすがだな。

俺とサクヤは戦闘で昂ぶっていて眠れそうに無かったので、2人して寝ず番をする事にした。

皆は休んでいる。


静かになった夜。
焚き火を見ながらお茶を飲んだ。
空には気持ちいいほどの満天の星が瞬いている。

こんな気持ちで夜空を眺めるなんて、ほんの数ヶ月前までは全く想像もしなかった。
それも、今は大好きな人と一緒だ。

「ふふ」

思わず笑うと、スオウがこちらを見た。

「いやね、少し前はこんな事になるなんて思わなかったから」
「そうだな。俺も思わなかったよ」
「・・・・・・今までクソな生活を唯々諾々と過ごしていた事に微塵も疑問を持たなかったけど、やっと人間らしい生活を送れるようになったんだなって」

スオウが優しい顔で僕を見つめた。

「スオウのお陰だよ。本当にありがとう」

そう言ってそっとスオウに近づき、その唇に僕の唇にをそっと押し付けた。

途端に後頭部を押さえられ、あっという間に深い口づけに変わった。

「ん、・・・はぁ」

息も絶え絶えになった頃、銀色の糸を引いて唇が離れた。

お互いに滾っていたが、今は野外授業中。
それに青姦なんてもっての外。

2人は一晩中他愛ない話をして気を逸らし、何とか朝までには平常通りになったのであった。



無事に帰ってからは・・・・・・。

まあ、ご想像通り。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

天才第二王子は引きこもりたい 【穀潰士】の無自覚無双

柊彼方
ファンタジー
「この穀潰しが!」 アストリア国の第二王子『ニート』は十年以上王城に引きこもっており、国民からは『穀潰しの第二王子』と呼ばれていた。 ニート自身その罵倒を受け入れていたのだ。さらには穀潰士などと言う空想上の職業に憧れを抱いていた。 だが、ある日突然、国王である父親によってニートは強制的に学園に通わされることになる。 しかし誰も知らなかった。ニートが実は『天才』であるということを。 今まで引きこもっていたことで隠されていたニートの化け物じみた実力が次々と明らかになる。 学院で起こされた波は徐々に広がりを見せ、それは国を覆うほどのものとなるのだった。 その後、ニートが学生ライフを送りながらいろいろな事件に巻き込まれるのだが…… 「家族を守る。それが俺の穀潰士としての使命だ」 これは、穀潰しの第二王子と蔑まれていたニートが、いつの日か『穀潰士の第二王子』と賞賛されるような、そんな物語。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...