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本編
58 大嵐だった件 その壱
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キマイラ。
ライオンと山羊の頭に蛇の尻尾。
可愛くない。
それが第一印象だった。
皇国ではついぞ見かけなかったS級の魔物。
いつか討伐してみたいと思っていたんだ。
なんて幸運なんだろう!
最近仕事をするようになった顔がニタリとしたのが自分でも分かった。
この高揚感。
自分が『今』生きているという実感が湧くこの瞬間が好きだった。
ひたすら空気のように過ごし、人形のように唯々諾々と言うことを聞くだけの意味のない日々。
その中で、魔物と対峙しているときだけは、『自分』を見て貰える。
それが例え魔物だとしても。
『僕』だけを見てくれる。
今は他にたくさん見てくれる人がいるからもう気にしないけど。
それとこれとは話が別。
僕が相当悪い顔をしていたんだろう。
スオウが苦笑している。
「スオウ、僕、フル装備していいかな?」
「いいぜ。俺もそのつもりだ。さすがにキマイラは手強いぜ」
「倒し甲斐があって嬉しいよ。一度殺りあいたいと思ってたんだ!」
「・・・・・・ソレはヨカッタデスネ」
スオウが思わず片言になったが、キマイラに興奮していた僕には聞こえなかった。
インベントリから装備一式をチェンジするように考えると、セットした装備が頭に浮かび、一瞬で装備が変わった。
制服姿ではなくなり、黒地に銀の刺繍で縁取られた、フードの付いた着物にピッタリとした黒いパンツ。膝上丈の黒いロングブーツにダマスカスの胸当て。
両腕の籠手もダマスカスだ。
そして鼻から上を隠す仮面。真っ白で目尻に朱が入ったもの。
皇国で身バレを防ぐために付けていたが、頭部の防御も兼ねているので外せない。
腰には妖刀ムラサメを佩いている。
おそらく冒険者は知っていたんだろう。僕のこの姿を見て、一斉にザワついたから。
『夜叉姫』
僕にそういう通り名が付いていたのは知ってたけど。
姫って女の人に使う言葉だよね?
スオウも装備一式を身に着けていた。
やはり制服姿ではなく、紺色の上下セットのピッタリとしたインナーウェアに忍びのような黒い着物を着ている。
肩と胸、腕と脛に揃いの黒い防具を身に着け、武器は双剣だった。
さっきはロングソード一本だったのに。
「手数が多い方が良いだろう?」
僕の心を読んだのか、スオウがニヤリと笑う。
うんうん。助かります。
さて、こちらが準備している間、キマイラが何をしていたかというと。
僕が結界で囲って、その中で暴れてました。
このまま放っといてもいいんだけど。
なんなら魔法で一撃でもいいんだけど。
せっかくお膳立てしてくれたんだから、どのくらい強いのか試したいよねえ?
「スオウ、一緒にヤる?」
「お前が言うと卑猥に聞こえる」
「どういう意味?」
「あー、いい。気にするな。・・・ガチで戦闘狂だったかぁ」
スオウがブツブツ言っているが、ソレよりも僕は早く戦いたい。
「はー、サクヤが『夜叉姫』だって情報、マジモンだった」
実はスオウ達は、サクヤが有り得ないほどの魔石や鉱石を持っていたことで一つの可能性に辿り着いていた。
すなわち、ジパング皇国の冒険者ギルドで『夜叉姫』の通り名を持つ人物がサクヤだということに。
そこで影達が密かに調べた所、サクヤと合致する情報が多かった為、十中八九、サクヤ本人だろうとの結論に至った。
そして今回、公爵家の影との戦闘で見せた動きと妖刀ムラサメ。コレが決定打となった。
美しいが冷徹。
そこから『夜叉姫』と、誰とはなしに囁かれるようになったが、誰も正体は分からなかった。
ソレが今、目の前にいる。
スオウのみならず、冒険者達もその名を少なからず知っているのだろう。
呆然としながら、口々に呟いていた。
ところで、あんた達、報酬分の仕事くらいしろよ?
ライオンと山羊の頭に蛇の尻尾。
可愛くない。
それが第一印象だった。
皇国ではついぞ見かけなかったS級の魔物。
いつか討伐してみたいと思っていたんだ。
なんて幸運なんだろう!
最近仕事をするようになった顔がニタリとしたのが自分でも分かった。
この高揚感。
自分が『今』生きているという実感が湧くこの瞬間が好きだった。
ひたすら空気のように過ごし、人形のように唯々諾々と言うことを聞くだけの意味のない日々。
その中で、魔物と対峙しているときだけは、『自分』を見て貰える。
それが例え魔物だとしても。
『僕』だけを見てくれる。
今は他にたくさん見てくれる人がいるからもう気にしないけど。
それとこれとは話が別。
僕が相当悪い顔をしていたんだろう。
スオウが苦笑している。
「スオウ、僕、フル装備していいかな?」
「いいぜ。俺もそのつもりだ。さすがにキマイラは手強いぜ」
「倒し甲斐があって嬉しいよ。一度殺りあいたいと思ってたんだ!」
「・・・・・・ソレはヨカッタデスネ」
スオウが思わず片言になったが、キマイラに興奮していた僕には聞こえなかった。
インベントリから装備一式をチェンジするように考えると、セットした装備が頭に浮かび、一瞬で装備が変わった。
制服姿ではなくなり、黒地に銀の刺繍で縁取られた、フードの付いた着物にピッタリとした黒いパンツ。膝上丈の黒いロングブーツにダマスカスの胸当て。
両腕の籠手もダマスカスだ。
そして鼻から上を隠す仮面。真っ白で目尻に朱が入ったもの。
皇国で身バレを防ぐために付けていたが、頭部の防御も兼ねているので外せない。
腰には妖刀ムラサメを佩いている。
おそらく冒険者は知っていたんだろう。僕のこの姿を見て、一斉にザワついたから。
『夜叉姫』
僕にそういう通り名が付いていたのは知ってたけど。
姫って女の人に使う言葉だよね?
スオウも装備一式を身に着けていた。
やはり制服姿ではなく、紺色の上下セットのピッタリとしたインナーウェアに忍びのような黒い着物を着ている。
肩と胸、腕と脛に揃いの黒い防具を身に着け、武器は双剣だった。
さっきはロングソード一本だったのに。
「手数が多い方が良いだろう?」
僕の心を読んだのか、スオウがニヤリと笑う。
うんうん。助かります。
さて、こちらが準備している間、キマイラが何をしていたかというと。
僕が結界で囲って、その中で暴れてました。
このまま放っといてもいいんだけど。
なんなら魔法で一撃でもいいんだけど。
せっかくお膳立てしてくれたんだから、どのくらい強いのか試したいよねえ?
「スオウ、一緒にヤる?」
「お前が言うと卑猥に聞こえる」
「どういう意味?」
「あー、いい。気にするな。・・・ガチで戦闘狂だったかぁ」
スオウがブツブツ言っているが、ソレよりも僕は早く戦いたい。
「はー、サクヤが『夜叉姫』だって情報、マジモンだった」
実はスオウ達は、サクヤが有り得ないほどの魔石や鉱石を持っていたことで一つの可能性に辿り着いていた。
すなわち、ジパング皇国の冒険者ギルドで『夜叉姫』の通り名を持つ人物がサクヤだということに。
そこで影達が密かに調べた所、サクヤと合致する情報が多かった為、十中八九、サクヤ本人だろうとの結論に至った。
そして今回、公爵家の影との戦闘で見せた動きと妖刀ムラサメ。コレが決定打となった。
美しいが冷徹。
そこから『夜叉姫』と、誰とはなしに囁かれるようになったが、誰も正体は分からなかった。
ソレが今、目の前にいる。
スオウのみならず、冒険者達もその名を少なからず知っているのだろう。
呆然としながら、口々に呟いていた。
ところで、あんた達、報酬分の仕事くらいしろよ?
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