61 / 133
本編
58 大嵐だった件 その壱
しおりを挟む
キマイラ。
ライオンと山羊の頭に蛇の尻尾。
可愛くない。
それが第一印象だった。
皇国ではついぞ見かけなかったS級の魔物。
いつか討伐してみたいと思っていたんだ。
なんて幸運なんだろう!
最近仕事をするようになった顔がニタリとしたのが自分でも分かった。
この高揚感。
自分が『今』生きているという実感が湧くこの瞬間が好きだった。
ひたすら空気のように過ごし、人形のように唯々諾々と言うことを聞くだけの意味のない日々。
その中で、魔物と対峙しているときだけは、『自分』を見て貰える。
それが例え魔物だとしても。
『僕』だけを見てくれる。
今は他にたくさん見てくれる人がいるからもう気にしないけど。
それとこれとは話が別。
僕が相当悪い顔をしていたんだろう。
スオウが苦笑している。
「スオウ、僕、フル装備していいかな?」
「いいぜ。俺もそのつもりだ。さすがにキマイラは手強いぜ」
「倒し甲斐があって嬉しいよ。一度殺りあいたいと思ってたんだ!」
「・・・・・・ソレはヨカッタデスネ」
スオウが思わず片言になったが、キマイラに興奮していた僕には聞こえなかった。
インベントリから装備一式をチェンジするように考えると、セットした装備が頭に浮かび、一瞬で装備が変わった。
制服姿ではなくなり、黒地に銀の刺繍で縁取られた、フードの付いた着物にピッタリとした黒いパンツ。膝上丈の黒いロングブーツにダマスカスの胸当て。
両腕の籠手もダマスカスだ。
そして鼻から上を隠す仮面。真っ白で目尻に朱が入ったもの。
皇国で身バレを防ぐために付けていたが、頭部の防御も兼ねているので外せない。
腰には妖刀ムラサメを佩いている。
おそらく冒険者は知っていたんだろう。僕のこの姿を見て、一斉にザワついたから。
『夜叉姫』
僕にそういう通り名が付いていたのは知ってたけど。
姫って女の人に使う言葉だよね?
スオウも装備一式を身に着けていた。
やはり制服姿ではなく、紺色の上下セットのピッタリとしたインナーウェアに忍びのような黒い着物を着ている。
肩と胸、腕と脛に揃いの黒い防具を身に着け、武器は双剣だった。
さっきはロングソード一本だったのに。
「手数が多い方が良いだろう?」
僕の心を読んだのか、スオウがニヤリと笑う。
うんうん。助かります。
さて、こちらが準備している間、キマイラが何をしていたかというと。
僕が結界で囲って、その中で暴れてました。
このまま放っといてもいいんだけど。
なんなら魔法で一撃でもいいんだけど。
せっかくお膳立てしてくれたんだから、どのくらい強いのか試したいよねえ?
「スオウ、一緒にヤる?」
「お前が言うと卑猥に聞こえる」
「どういう意味?」
「あー、いい。気にするな。・・・ガチで戦闘狂だったかぁ」
スオウがブツブツ言っているが、ソレよりも僕は早く戦いたい。
「はー、サクヤが『夜叉姫』だって情報、マジモンだった」
実はスオウ達は、サクヤが有り得ないほどの魔石や鉱石を持っていたことで一つの可能性に辿り着いていた。
すなわち、ジパング皇国の冒険者ギルドで『夜叉姫』の通り名を持つ人物がサクヤだということに。
そこで影達が密かに調べた所、サクヤと合致する情報が多かった為、十中八九、サクヤ本人だろうとの結論に至った。
そして今回、公爵家の影との戦闘で見せた動きと妖刀ムラサメ。コレが決定打となった。
美しいが冷徹。
そこから『夜叉姫』と、誰とはなしに囁かれるようになったが、誰も正体は分からなかった。
ソレが今、目の前にいる。
スオウのみならず、冒険者達もその名を少なからず知っているのだろう。
呆然としながら、口々に呟いていた。
ところで、あんた達、報酬分の仕事くらいしろよ?
ライオンと山羊の頭に蛇の尻尾。
可愛くない。
それが第一印象だった。
皇国ではついぞ見かけなかったS級の魔物。
いつか討伐してみたいと思っていたんだ。
なんて幸運なんだろう!
最近仕事をするようになった顔がニタリとしたのが自分でも分かった。
この高揚感。
自分が『今』生きているという実感が湧くこの瞬間が好きだった。
ひたすら空気のように過ごし、人形のように唯々諾々と言うことを聞くだけの意味のない日々。
その中で、魔物と対峙しているときだけは、『自分』を見て貰える。
それが例え魔物だとしても。
『僕』だけを見てくれる。
今は他にたくさん見てくれる人がいるからもう気にしないけど。
それとこれとは話が別。
僕が相当悪い顔をしていたんだろう。
スオウが苦笑している。
「スオウ、僕、フル装備していいかな?」
「いいぜ。俺もそのつもりだ。さすがにキマイラは手強いぜ」
「倒し甲斐があって嬉しいよ。一度殺りあいたいと思ってたんだ!」
「・・・・・・ソレはヨカッタデスネ」
スオウが思わず片言になったが、キマイラに興奮していた僕には聞こえなかった。
インベントリから装備一式をチェンジするように考えると、セットした装備が頭に浮かび、一瞬で装備が変わった。
制服姿ではなくなり、黒地に銀の刺繍で縁取られた、フードの付いた着物にピッタリとした黒いパンツ。膝上丈の黒いロングブーツにダマスカスの胸当て。
両腕の籠手もダマスカスだ。
そして鼻から上を隠す仮面。真っ白で目尻に朱が入ったもの。
皇国で身バレを防ぐために付けていたが、頭部の防御も兼ねているので外せない。
腰には妖刀ムラサメを佩いている。
おそらく冒険者は知っていたんだろう。僕のこの姿を見て、一斉にザワついたから。
『夜叉姫』
僕にそういう通り名が付いていたのは知ってたけど。
姫って女の人に使う言葉だよね?
スオウも装備一式を身に着けていた。
やはり制服姿ではなく、紺色の上下セットのピッタリとしたインナーウェアに忍びのような黒い着物を着ている。
肩と胸、腕と脛に揃いの黒い防具を身に着け、武器は双剣だった。
さっきはロングソード一本だったのに。
「手数が多い方が良いだろう?」
僕の心を読んだのか、スオウがニヤリと笑う。
うんうん。助かります。
さて、こちらが準備している間、キマイラが何をしていたかというと。
僕が結界で囲って、その中で暴れてました。
このまま放っといてもいいんだけど。
なんなら魔法で一撃でもいいんだけど。
せっかくお膳立てしてくれたんだから、どのくらい強いのか試したいよねえ?
「スオウ、一緒にヤる?」
「お前が言うと卑猥に聞こえる」
「どういう意味?」
「あー、いい。気にするな。・・・ガチで戦闘狂だったかぁ」
スオウがブツブツ言っているが、ソレよりも僕は早く戦いたい。
「はー、サクヤが『夜叉姫』だって情報、マジモンだった」
実はスオウ達は、サクヤが有り得ないほどの魔石や鉱石を持っていたことで一つの可能性に辿り着いていた。
すなわち、ジパング皇国の冒険者ギルドで『夜叉姫』の通り名を持つ人物がサクヤだということに。
そこで影達が密かに調べた所、サクヤと合致する情報が多かった為、十中八九、サクヤ本人だろうとの結論に至った。
そして今回、公爵家の影との戦闘で見せた動きと妖刀ムラサメ。コレが決定打となった。
美しいが冷徹。
そこから『夜叉姫』と、誰とはなしに囁かれるようになったが、誰も正体は分からなかった。
ソレが今、目の前にいる。
スオウのみならず、冒険者達もその名を少なからず知っているのだろう。
呆然としながら、口々に呟いていた。
ところで、あんた達、報酬分の仕事くらいしろよ?
81
お気に入りに追加
1,086
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
天才第二王子は引きこもりたい 【穀潰士】の無自覚無双
柊彼方
ファンタジー
「この穀潰しが!」
アストリア国の第二王子『ニート』は十年以上王城に引きこもっており、国民からは『穀潰しの第二王子』と呼ばれていた。
ニート自身その罵倒を受け入れていたのだ。さらには穀潰士などと言う空想上の職業に憧れを抱いていた。
だが、ある日突然、国王である父親によってニートは強制的に学園に通わされることになる。
しかし誰も知らなかった。ニートが実は『天才』であるということを。
今まで引きこもっていたことで隠されていたニートの化け物じみた実力が次々と明らかになる。
学院で起こされた波は徐々に広がりを見せ、それは国を覆うほどのものとなるのだった。
その後、ニートが学生ライフを送りながらいろいろな事件に巻き込まれるのだが……
「家族を守る。それが俺の穀潰士としての使命だ」
これは、穀潰しの第二王子と蔑まれていたニートが、いつの日か『穀潰士の第二王子』と賞賛されるような、そんな物語。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる