59 / 133
本編
56 嵐の前触れ(side風紀委員長)
しおりを挟む「全く、何処からこんなに湧いてくるんだか」
風紀委員長のイルミナがぼやく。
目の前にはたった今捕縛した曲者が5人転がっている
毎年、風紀委員は野外授業は免除なのだ。
何故なら、総出で安全確保の対策をしなくてはならないからだ。
少なくない人数が在籍していてもこの野外授業は範囲が広大で人手が足りない。
なので毎年この時期になると学園側から冒険者ギルドに生徒の護衛依頼を出しているのだが。
今年は皇国の公爵家のハルキ達が入学早々トラブルを起こし、兄であるサクヤを廃嫡にするという前代未聞の騒ぎを起こしていた。
その為、今回は念入りに冒険者の為人をチェックして厳選したのだが、それ以外の輩が、報酬に釣られて後から後から隠れて森に忍び込んで湧いて出るのだ。
「俺達は暇じゃないんだがなあ」
『委員長、こちらも3人確保致しました』
『こちらは4名です』
『第一チェックポイントで6名確保』
次々届く内容に深い溜息を吐く。
耳にはサクヤが前もって付加してくれた記録媒体のイヤーカフが鈍い光を放っている。
防御魔法のほかに通信機能も付けてくれているお陰で、互いの連絡がスムーズで手に取るように分かる。
ただ、捕縛した人数が今回は半端ないんだが。
「いくら何でも多過ぎだろう。まだ序盤だぞ」
そうぼやいている間にもどんどん通信が入ってくる。
少しして、皇族お抱えの影と騎士団員が到着した。今年は、普通なら関わることのない二つの組織が学園の為に行動を共にしてくれる。
養子になって第二皇子殿下となったサクヤがいるからだ。
今回は、例の問題児・ハルキがサクヤを亡き者にしようとしているとの情報を皇族の影から得て、万全の体制で臨む事になっているのだ。
それに他の生徒達が巻き込まれたら、サクヤならば絶対に己を責める。
そんな事態にならぬようにと検討した結果、影と騎士団の配置になった。
「ご苦労様です、ケイス公爵子息殿」
影が声をかけてきた。
「そちらこそご苦労。あと、学園内ではイルミナでいい」
「畏まりました。イルミナ様、こちらはこの者だけで?」
「ああ、他の委員からも連絡がいっていると思うが、あちらこちらから少なくない数が報告されている。大変だろうがよろしく頼む」
頭は下げられんが、言葉で礼を尽くす。
・・・サクヤならば平気で頭を下げてそうだが。
上に立つ者は簡単には頭を下げてはいかんのだ。
さて、引き取って貰ったので少し休憩をして。
第二チェックポイントに向かうと、ちょうどスオウとサクヤが無双していた。
いや、もうなんて言えばいいのか・・・。
魔物を倒す方が片手間のように見えるが・・・。
影では賊と化した冒険者がサクヤの魔法で淡々と拘束されていく。
パラライズによって痺れた所にバインドで拘束している。正確な上に早い。
20分足らずでチェックポイントに着いたのには驚いた。
同じように影達に回収を頼む。
他のルートを担当した者達も捕縛を完了していた。
『各々、軽食を取って休みつつ、もう少し頼むぞ』
『了解』
さて、俺もサクヤに貰った菓子を食べて少し休憩するか。
ーーーこの後の光景を俺は忘れないだろう。
第三チェックポイントに向かう一本道に足を踏み入れた瞬間のサクヤとスオウの行動が早い。
サクヤは無詠唱で一瞬に冒険者全員を捕縛。
すでに戦力外と化した他のメンバーと2,3年をガチガチに固めた結界で覆い、安全確保をしてからの公爵家の影共との手合わせ。
スオウも3人を相手にしているが余裕そうだ。
サクヤは7人と交戦しているが、こちらも淡々として攻撃を往なしている。
本気の戦闘状態のサクヤをハッキリと見たのは初めてだが、どこか既視感を覚えた。
・・・・・・そう言えば、とふと思い出す。
皇国の冒険者で『夜叉姫』の通り名を持つ正体不明、年齢不詳の輩の話を・・・
・・・・・・まさか。
この時、偶然にも公爵家の影も同じ考えに至っていたとは思うまい。
ほんの一瞬の隙が命取りになる状況で、なんの躊躇もないサクヤの攻撃はまさに熟練者のソレだった。
あっという間に対峙していた影を全員捕縛したサクヤのあの台詞・・・。
『物足りない』
『つまらない』
『ベヒモスの方がよっぽど戦える』
・・・・・・お前、実は戦闘狂だったんだな・・・。
ちょっと手合わせをして貰おうかと思っていたが、まだ死にたくないので諦めよう・・・・・・。
77
お気に入りに追加
1,083
あなたにおすすめの小説
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
箱庭
エウラ
BL
とある事故で異世界転生した主人公と、彼を番い認定した異世界人の話。
受けの主人公はポジティブでくよくよしないタイプです。呑気でマイペース。
攻めの異世界人はそこそこクールで強い人。受けを溺愛して囲っちゃうタイプです。
一応主人公視点と異世界人視点、最後に主人公視点で二人のその後の三話で終わる予定です。
↑スミマセン。三話で終わらなかったです。もうしばらくお付き合い下さいませ。
R15は保険。特に戦闘シーンとかなく、ほのぼのです。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる