月の至高体験

エウラ

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本編

55 野外授業は嵐の予感 その伍

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「じゃあ、皆、行くよ?」

そう言って森の一本道に足を踏み入れた途端、両脇から弓矢が複数飛んできた。

「せっかちだなあ」

刀で軽く薙ぎ払う。
向こうから先に手を出したのだから、手加減はしないよ?
ちゃんと記録媒体で撮ってるからね。

皆を危険に曝すくらいなら自重はしない。

面倒な冒険者カスを先に捕縛っと。

これで心置きなく戦える。
何時でもいいよ。公爵家の影さん。

殺気と威圧を遠慮なく開放する。
辺りに重苦しい空気が立ち込め、殺気でビリビリする。

「ーーーすげ・・・」

スオウが思わずといったふうに呟く。
きちんと俺達を外しているから平気だが、向けられた相手は余程の手練れでなきゃ、立っていられないだろう。

だがさすがに公爵家。
影もかなりの腕らしい。
多少は怯んだがこちらに攻撃を仕掛けてきた。

固まっているメンバーに向かった影はビクともしない結界に早々に見切りをつけ、サクヤに向かっていく。

「やはり狙いはサクヤか」

ハルキ達はサクヤの実力を知らない。
それなのにこれだけの影を寄越すということは、確実に殺すつもりでいるって事だ。

・・・本当に屑だな。

スオウには3人影が襲ってきた。
3方向からの攻撃をいなす。

「は、舐められたものだな」

たった3人でこの俺を殺せるとでも?
動きが遅いんだよ!
うちの各務の方がよっぽど速いっての。

「遊んでやるよ。かかってきな」

挑発してやった。



サクヤの方には7人、影がひっきりなしに攻撃を仕掛ける。
それをいなし、薙ぎ払い、合間に魔法を放つ。

それを無表情で淡々と行う。

影は思っていた。
こんなの聞いていないと。
出来損ないで蔑まれて、公爵家を廃嫡された子供。
そう聞かされていた。
こんな、無詠唱で、攻撃の片手間にガンガン魔法を放つことも聞いていないし、何より刀を振るうその様は・・・。

一騎当千を思わせる手練れ。
あの通り名を持つ謎の冒険者のようーーー。



まさか。



影達は一つの可能性に辿り着いた。

圧倒的な魔法と剣技、殺気や威圧。
こんな人間がそうそういるはずが無い。

皇国で密かに噂になっていた『夜叉姫』の通り名の冒険者。

いつもフードを目深にかぶり、ピクリとも表情が変わらない、口元だけでも整った顔とわかる冒険者。

刀など皇国では珍しくもないが、異様な空気を纏う妖刀を使っていると。

それはコレではないのか・・・?!




「考え事? 駄目だよ。手元がお留守になってる」

はっと気付けばすぐ側に綺麗な顔が。

不味いと思う間もなく峰打ちで吹き飛ばされた。そしてすぐに魔法で拘束される。

「ほら、もっと本気を出さないとすぐにやられてしまうよ?」

もっと楽しませてくれないと。

無表情なのに声音は楽しげで・・・。
本能で怖いと思った。

こんなの相手にできるか!

だが影として任務遂行をしなければ・・・。

葛藤している間に追撃が来る。
公爵家の影としてはかなりの手練れなのに、圧倒的に追い詰められる。
どんなに攻撃しても弾かれ、人質を取ることも出来ない。たった一撃を食らっただけで戦闘不能になる。

戦闘開始から僅か10分足らずで賊の制圧が完了した。

スオウは自分の相手を倒してからは傍観者だった。

「・・・なんだ、物足りない。もっと骨があると思ったのに、つまらない。ベヒモスの方がよっぽど戦える」
「・・・・・・ベヒモスって言った?」
「S級モンスターじゃなかった?」
「・・・・・・倒したことあるんだ??」

若干、皆が引いている。
拘束された影達も青ざめて引いている。

詳しく聞いたら、別の依頼の帰りにたまたま遭遇して、単騎で討伐したらしい。

まじか。



学園側からの要請で来た騎士や帝国の影達に引き渡して、何事もなかったように一本道を突き進む。

サクヤがちょっとつまらなそうに魔物を屠っていたのが印象的だった。




さっきの戦闘からしたら全く問題ない雑魚ばっかりだったので、最終チェックポイントにもあっさりと到着した。

「先ほどはお疲れさまでした。ハラハラドキドキでしたよ」

そんな言葉が先生方から聞こえて、サクヤが苦笑した。
皆は、そんなもんじゃなかったですよ!と言いたかった。

「間近で死を感じた瞬間だった」

真顔で先生方に訴えていた。
スオウは笑っていたが、笑い事じゃなかったですよね。

巻き込んじゃってスミマセン!





一段落ついたので、この先にある野営地でお弁当を食べることにした。

ここで昼休憩をしたあと、上級生達にアドバイスを貰いながらテントを張り、薪を集めて晩御飯の支度から交代での寝ず番と、朝食作り。

それが済めばテントを解体して片付けをしたあと学園に戻ることになる。
帰りは専用の整備された広い道を通るので、魔物に襲われる事もない。

万が一の時は冒険者や先生方、風紀委員が対処する事になっている。


「いただきます!」

皆がお弁当を広げて食べ始める。
口々に美味しいと言って貰えて、僕もほっこりした。

「サクヤもひとまずお疲れ様」
「スオウもお疲れ様。怪我がなくて良かった」
「皆、無事で良かったが、まだこの先何があるか分からないから、気を付けないとな」
「・・・そうだね。ホントに煩わしい」

ここで失敗したのだ。野営の時が最後のチャンスと襲ってきそうだ。
自分だけならいいが、周りを巻き込まないで欲しい・・・。


でも、そうなっても、皆を護るよ。



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