月の至高体験

エウラ

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本編

54 野外授業は嵐の予感 その四

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結論から言えば、スオウとサクヤの無双状態だった。

膝くらいまである草に隠れた魔物を索敵して見つけ次第、一刀両断。
スオウも気配察知で位置を確認して、ひたすら潰していった。

たまに後方から来る魔物をエルネスト君達がそれぞれ得意なやり方で倒しながら、最短距離であっという間に辿り着いた。

チェックポイントから魔導具で見ていたらしい先生方やたまたま辿り着いて休んでいた他の班のメンバーが、有り得ないモノを見たと驚愕していた。

戦闘が多いため通常一時間はかかるルートだ。
ソレを20分足らずで到着したのだ。
まあ、サクヤがヘイストをかけて移動速度をあげてたせいもある。

本当に直線距離でした。

「手応えがなかったね。物足りない」

ぽそっと呟かれたサクヤの台詞にスオウさえも思った。

『戦闘狂か!』

涼しい顔をしてとんでもないなと苦笑して、ひとまず休もうかとスオウが提案した。

そう言えば小腹が空いたなと皆が言ったので、セーフティエリアのこの場所で軽食を食べることにした。

サクヤがインベントリを誤魔化してバッグから出したように見せておやつを出す。
サクヤお手製のクッキーだ。
各々自分の飲み物を出して、ソレを啄む。

「美味しい!」
「本当に美味しいね。どこで買ったの?」

そんな言葉が出て来てスオウがニヤリと笑う。

「サクヤの手作りだ」
「はあ?!」
「え、うそ」
「よかったらもっと食べて? まだまだあるよ」

そう言って追加を出して、先生方もどうぞと差し入れた。

「お昼はお弁当を用意してるから。もちろん先輩方の分も作ってあります」
「はえええ?! まじ?」
「まじです」

そう言ってサクヤがにっこり笑った。

だいぶ柔らかくなった表情で微笑んだのを見て、皆が顔を赤くした。



「さて、これから最終チェックポイントだけど」

と前置きして、スオウが告げる。その前にサクヤがしっかりと防音結界魔法を張っている。

「森の一本道を通って行くんだが、気付いてるか?」
「うん」
「はい」
「アレだよね?」

上級生達もうんうん頷く。

上手く気配を隠してるつもりだろうが、ここにいるのはSクラスの、しかも上位を占めているメンバーだ。

森に入った途端に察知していた。魔法云々ではなく、普通に気配を感じていた。
今回の冒険者は手を回してしっかりとした者を雇っている。なので、それ以外の金に釣られた下級の冒険者だろう。

気配の消し方が雑なので、おそらくCクラス以外は気付いている。
当然学園側も気付いていて放置していた。

最初からサクヤの探索魔法でわかっていたし、生徒会と風紀にも連絡済みだ。
先生方にも確認をとって、道すがらさり気なくサクヤが魔法で捕縛して回っていた。
後で回収されているだろう。

雇い主等の情報が出れば御の字だが、カスだと何も知らされないだろう。

・・・・・・想像はつくが。

まあ万が一生徒に危険が及んではいけないので全員の身柄は確保する予定だが。

「ここからの森にもかなりの人数がいる。さっきの平原にも30人ほどいたな。サクヤが魔法で捕縛していたけど」
「うん、この先は倍の60人はいるね。そのほかにも、手練れが10人ほどいるんだけど、わかる?」

ソレを聞いたスオウ以外のメンバーが息を飲んだ。

「陽希が向こうから呼んだ公爵家の影だよ。そっちはさすがにプロだから、他の皆にはキツいね。大丈夫、そっちは僕とスオウが対処する」
「心配ない。さっきのようにエルネストとウィルとアンディは固まって移動して。先輩方も今回は3人と固まって移動して下さい。その方が守りやすい」

皆が唾をゴクリと飲んで頷いた。
さすがに暗殺のプロは相手にできないと分かっている。

「他は僕が前もって魔法で捕縛しておくから、影だけに注意して。大丈夫。防御魔法をかけるから。皆に手を出したらどうなるか教えてあげよう・・・」

珍しくサクヤが黒いオーラを出している(ように見える)のを見て、皆がコソコソと話している。

「サクヤ様って、本当に戦闘狂じゃあないの?」
「アレだ、普段温厚なヤツが怒ると恐いって言うだろ?」
「え、じゃあサクヤ様、最初から怒ってたの・・・?」
「そりゃ、あんなに楽しみにしてたのに水を差されたら、なあ・・・・・・」
「気分は良くないよねえ」

なるほど。

自重と言う言葉が、今回はなくなりそうだな。



「じゃあ、皆、行くよ?」



そう言ったサクヤの顔が凄く楽しげな満面の笑みだったとスオウから聞いたのは影との戦闘が終わった後のこと。

『物足りない』

そう言ったサクヤの気持ちがよく分かったとスオウが呆れた顔で言ったので僕は???となったけど、他の皆は納得の顔だった。


・・・・・・解せん。
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