月の至高体験

本編

50 皇城でお泊まり会 その四

転た寝から目覚めると日がだいぶ傾いていた。

スオウは目覚めてて、俺の顔を見ていたようだ。
涎垂らしてなかったか？


･･････幸せそうな目で俺を、サクヤを見る。

「スオウってホントにサクヤ大好きなんだな」
「もちろん。死んでも愛してる自信がある」
「･･･恥ずかしい」
「ん？」
「あれ？　サクヤ？」

チロッと出たかも。
いい傾向だな。

「着替えて夕御飯食べに行こうぜ。腹減った」
「さっきの分じゃ足りなかった？」
「全然」
「そう言えば俺、食事のマナーとか知らないんだけど？」
「体が覚えてそうだけどね。まあ、教えてやるし皆も気にしないよ。内輪の食事会みたいなもんよ？」

そう言って笑うスオウにドキッとした。
･･･ドキッと？
中のサクヤもドキッとしたんだな。

うん、暖かいよな。



夕御飯は皇帝一家と俺達だけで、ゆっくり食べられた。
マナーも、スオウに『次はコレで』って教えて貰えれば、自然と体が動いて問題なく出来た。
やっぱりサクヤ凄いな。

終始穏やかに食事を終えて、寝る支度で部屋に案内された。

「うわあ･･･」

どうやったのか、洋風の部屋に畳が敷かれて、その上に敷き布団がみっちり広げられていた。

「凄い違和感」
「もっと時間があれば内装も揃えられたのですが･･･」
「いやいや、他所様の家の一室を勝手に改装しちゃ駄目でしょ！」

ツッコミどころがいっぱい。

「これは土足厳禁てヤツだね？」
「わあ、楽しそうだ」
「早速寝転んじゃえ！」

子供達がワイワイする側でライナスとサシャも笑っている。

「サクヤ、おいで」

ライナス父様に呼ばれた。

「ほら、行ってこい」
「でも」
「今はただの家族だろう？」
「･･･ん」

そろっと近づいて行くと、レオン達にもみくちゃにされた。
ひとしきり撫で回したら気が済んだのか、めいめいに自分の場所を決め出した。

「サクヤはどこがいい？」

聞かれて、戸惑っているうちに皆が場所取りを始めた。

「僕はこっちの壁際」
「私は母様の隣！」
「私はロゼの反対の壁際に、スオウと、な？」
「･･･仕方ない。レオンでガマンするか」
「･･････あの、僕は、えと、と、父様と母様の間に、は、挟まれたい」

皆がキョトンとしてサクヤを見た。

「あの、か、川の字になって寝たい」

駄目かな？

「もちろんだよ！　さあおいで」
「ほら、母様の間でしょう？　さあこっちに」

ぱあっと花を咲かせて、いそいそと移動するサクヤを微笑ましそうに見つめる。

「じゃあ、灯りを消すよ」

隣の顔がようやくわかるくらいの明るさまで落ちた灯りの中、サクヤは両脇をライナスとサシャに挟まれて、頬が緩んだ。

「父様、母様、兄様達･･････さっきはごめんなさい。僕は、怖かったんだ。手にした幸せが零れ落ちそうで･･･。もう、なかった頃には戻りたくなくて」
「･･･私も悪かった。驚きすぎて酷い態度を取ってしまった。でも、でもサクヤが大好きなんだよ。家族になれて嬉しかったんだ」
「うん、うん。僕も嬉しかった。前世の僕が怖がらないでって、皆が僕を愛して、必要としてくれてるって･･･」

2人は両脇からサクヤをぎゅっと抱きしめた。

「私達の息子になってくれてありがとう」
「あら、私達も、兄弟になってくれて嬉しいのよ！　ありがとう」
「そうだよ」

皆が暖かい。

「うん、ありがとう。大好き」

安心したら眠くなってきた。
瞼がトロンと降りてくる。
あらがわずにそのまま、暖かい温もりに包まれて静かに眠りに落ちた。



おやすみ


そう言ったのは父様達か、スオウか、それとも前世の僕か･･････。

とても幸せな眠りだったのは確かだった･･･。





サクヤが眠った後、皆がそうっと起き上がりサクヤの元へやって来た。

小声で話す。

（さっきサクヤ、『僕』って言ってたね）
（言ってたね）
（それって今世サクヤが出て来たって事だよね？　雰囲気が違ってたもの）
（明日にならないと分からないけど、たぶん引きこもり止めたんじゃないか？）
（父上、許して貰えたみたいですね）
（うぐ、そうだといいな）
（前世だろうと今世だろうとサクヤちゃんはサクヤちゃんよ。ほら、早く寝るのじゃ）
（はーい）

またごそごそと元の位置に戻って、ホッと息を吐く。



俺達の気持ちが届いていたらいいな。
今日は抱いて眠れないのが寂しいけど。

サクヤ、おやすみ。

また明日。