月の至高体験

エウラ

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本編

42 あさきゆめみし

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結局、次の日は大事を取って欠席した。
大丈夫って言ったのに。

でも朝起きようとしたらふらついてしまい、スオウと各務にベッドに押し戻された。
思ったよりも大丈夫じゃなかったみたいだ。

ありがたく休ませて貰おう。

こんなに何にもしないで過ごすのは何時ぶりだろう・・・。
少なくとも物心つく頃にはすでに寝る暇もなかった気がする。

マナーや勉強・・・。前世の記憶が無かったら無理だったな。死んでるよ。
よく頑張ったな、俺。




自分で自分を誉めているうちに寝てしまったらしい。

不意に意識が浮上した。

ゆっくりと目を開けると、見慣れた場所にいた。
見慣れてはいるんだけど・・・。
どうしてココにいるのか分からない。

だって、ここは皇領の藤の花の咲く山だ。
前にスオウと来た、花江と毎年こっそり見に来ていた・・・。

起き上がって山から見下ろす。
僕が15年生きた場所。15年欲して何も得られなかった場所。

「こうして見ると、ちっぽけだなあ」

どうしてあんなに愛情を欲しがっていたのか。前世から知っていた癖に。
あれらは人を見る目じゃ無かった。
ただ、言うとおりに動く玩具を見る目だ。それもただの道具だ。

端から無駄だったんだ。

でも・・・・・・。

「スオウは僕を欲してくれる。無駄だと思う時間も、スオウに逢うためだったって。じゃあそれでいいじゃないか」

僕にとってそれが一番だ。
あそこには僕の居場所がある。
それだけでいい。

ボクは藤の木に凭れると、膝を抱えて顔を埋めた。

もうここに居場所を求めない・・・。






「・・・・・・サクヤが消えた?」
「どういう事だ」

ここは風紀委員会室。昨日の騒動のその後を聞くためにスオウとイルミナ、生徒会長のアルフレッドと副会長のガオウが居る。

そこに齎された不穏な一報。

「言葉どおりの意味でございます。私が見ている目の前で瞬きのうちに消えました。あれは転移の魔法でしょう。・・・ただ」
「何だ」
「眠っておられましたので、無意識に発動したものかと・・・私共では魔力を追えませんでした」
「・・・・・・まじか」
「大公家及び皇帝陛下にはすでに影が知らせております。早急に捜索隊が組まれるものと・・・」

各務が淡々と告げるが、内心はかなり焦っていると思われる。

朔夜の転移魔法は規格外だ。かなりの距離を苦もなく跳ぶ。
それも膨大な魔力のおかげでどれだけ跳ぼうが平気だ。

だが、朔夜が知る場所はジパング皇国の中でも皇の公爵領、後はオクタヴィア大公家。学園に居ないのならばこの二カ所に絞られる。

ーーー離れるべきじゃ無かった。

俺がくっついてれば、せめて一緒に行けたものを・・・・・・。
独りはイヤだと泣いていたのに。

「スオウ、お前のせいじゃない」
「お前が取り乱して如何する。きっとサクヤも心細い思いをしているはず。しっかりしろ」
「・・・・・・ああ、そうだな、そうだった。きっとサクヤも混乱してるよな」

俺がしっかりしなきゃ。


昨日の騒動を後回しにして、今出来ることをする。

・・・・・・そうだ。サクヤの魔力が追えないと言ったな。
昨日は魔力循環のせいで俺の魔力で満たされていた。おそらく今日もかなりの量が残っているはず。

「各務、俺の魔力で追えるか?」

その声にハッとする。

「! 追えます。スオウ様のであれば」
「・・・そう言うことか!」
「確かに追えるな」

乳兄弟で乳児の頃から一緒に育った各務なら僅かでも追える。俺の魔力なら。



そうして目を閉じて集中していた各務がぱっと目を瞠った。

「見つけました。ジパング皇国に居ります。ですが、皇領のかなり遠い場所に居るようで・・・これはおそらく、乳母だった花江様と一緒に見に行ったあの藤が咲く山かと・・・・・・」
「ああ・・・あの山か。公爵家からは相当離れていたな。あんなに遠くに・・・」

独りで何を思っているのか。

「ーーー! 動きがありました!」
「何っ?! 転移するのか?!」

こちらに戻ればいいが・・・。

「・・・・・・ああ、強くなりました。これはオクタヴィア家です!」
「本当か?! 急いで家に連絡を!」

ガオウが影に言うが早いか、気配が消えた。
待ってましたと言わんばかりの影の動きに苦笑した。

「どのあたりに居そうだ?」
「・・・・・・そうですね、中庭の藤棚に強く反応があります。藤繋がりで跳んだのでしょうか」
「無意識下ならそうかも知れない。殊の外藤には思い入れがあるようだった」

我が家に来たとき、一番強く惹かれたようだったしな。

「ともかく、うちで保護してもらえればひと安心だ。誰か一人、皇城の陛下に連絡を。捜索隊は不要と」

ガオウに命じられた影が一人立った。

「スオウ、良かったな」

イルミナもアルフレッドもほっとした様子で椅子に深く腰掛けた。
各務も目に見えてほっとしたようだった。





再び目を覚ますと最近よく見た部屋の天井だった。
・・・・・・あれ?
僕は何でこんな所に・・・?
さっきまで皇国の山の上で藤の花を見てたような・・・?

でもここはオクタヴィア家のスオウの部屋だ。
連休中ずっとここでスオウと眠ってた。
スオウの匂いでいっぱい。安心する場所・・・。

・・・・・・ああ、ねむい・・・。どうしてこんなに、ねむいの・・・・・・。




ーーーオクタヴィア家。

影から、サクヤが一度目を覚ましたが再び眠ったと連絡を受けて、リオネルはひとまずほっとした。

少し前に各務がサクヤの居場所を察知したと聞き、その後すぐ、我が家に転移したと聞いたときは焦ったが、例の藤棚に居るらしいと慌てて駆けつければ、薄い寝衣の浴衣一枚で膝を抱えるようにして眠っていた。

手ずから抱えて、ちょっと考えた後、スオウの部屋のベッドに運んだ。
この邸ではここが一番見慣れていて、尚かつ一番安心する場所だろう。

やはりその読み通り、一度目を覚ましたサクヤは見慣れた寝室にほっとしたようだった。
そして意識を覚醒させること無く、微睡みの中再び眠りについたと。

「・・・・・・良かった。無事で」

邸中の空気が軽くなった。

今頃スオウもこちらへ向かっているはず。

これは勘だが、おそらくサクヤはここを自分の居場所と認識していて、無意識に転移先に選んだのだろう。
あの子が皇帝陛下の養子になっても、やはりうちは特別なのだ。
愛する者がいて、愛すべき家族が居る。
サクヤの欲して止まない家族がここに居るのだから。




「サクヤ」

スオウ?

「サクヤ、起きて」

・・・起きてるよ?
でも眠いんだ。何でだろう・・・。

「サクヤ、俺はここに居るよ。だから起きて?」

・・・・・・

「・・・・・・すおう?」
「・・・おはよう。寝ぼすけさん」
「? あれ?」

ここは・・・オクタヴィア家のスオウの部屋だね?
ん? 夢?

「夢じゃ無いよ。・・・全く、夢遊病にも程がある」
「夢遊病・・・」
「寝ながらあちこち転移するのは勘弁な?」

スオウが苦笑してるが、疲労の色が濃い。
・・・相当心配をかけたらしい。

「ごめんなさい」
「まあ、目が離せないのが良く分かったよ」
「・・・・・・夢を・・・」
「ん?」
「夢を見ているようだった。気が付いたら皇国の藤の花の咲く山で、自分はなんてちっぽけなんだろうって」
「・・・うん」
「でもね、山から見下ろして諦めがついた。もう僕の居場所はここじゃ無い。スオウだって自覚したらね、それでいいやって」
「・・・」
「それでね、また寝ちゃって、気が付いたらこの部屋だった。スオウの匂いでいっぱいで幸せってまた寝ちゃったんだ。起こしてくれてありがとう」

きっと、心の整理の為に眠ってたんだろう。
前世で確か、眠ってる間に記憶の整理をするって聞いた気がするから。

「こちらこそ、目覚めてくれて、ありがとう」







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