月の至高体験

エウラ

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本編

38 巡り逢うために(sideスオウ)

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*乳児に対しての暴言があります。不快に思われるかも知れません。すみません*





「お前なんか生まれてこなきゃ良かったんだ!」


ーーーその言葉を聞いたとき、俯いていたサクヤが一瞬目を瞠った。
本当に一瞬で、次に瞬いた時には瞼を伏せてジッと身じろぎもしなかった。

俺は慌ててサクヤの傍へ立つと、そっと抱き寄せてサクヤの顔を胸に寄せて隠した。
サクヤも俺がするまま、身を委ねた。

ハルキが更に暴言を吐こうとしたとき、風紀委員が介入してきた。
誰かが連絡したのか風紀委員がいたのか。

「ここで騒ぎがあったと聞いたが? 詳しく分かる者は?」

風紀委員長のイルミナが来た。委員も数人連れている。

ハルキがコロッと態度を変えてイルミナに媚びを売る。

「風紀委員長ー! そこのサクヤが僕に無礼な物言いでぇ」
「お前には聞いてない。おい、そこのSクラスの1年。どうした?」
「ぇ、ちょっと委員長ー」
「お前は向こうで他の委員に聞いて貰え」

ぶーぶー文句を言うハルキを他に預けてこちらに話を聞く。

「あの、先程のスメラギ様が、座っていたサクヤ様に熱いお茶をかけた後、今度は頭から水をかけました。その後、一方的に暴言を言いながらサクヤ様の頬を叩いたのです」
「そうなのか?」

イルミナがサクヤに聞くが、今のサクヤに口を開く余裕はなかった。
代わりに俺が答える。

「その通りだ。記録も残っている」

いつものイヤーカフだ。

「後で確認してくれ。悪いがサクヤの傷の手当てをさせてほしい。先に保健室に連れて行きたい」
「! あぁ、そうだな。誰か一人、スオウ達についていって、状況報告してくれるか」
「では、私が」

そう言って2年の委員がついてきた。

サクヤは半ば放心状態で、一人で立ってられない。
横抱きにしてやると、顔を胸に埋めて息を殺していた。
こんな状態は初めてで俺も焦る。
足早に保健室に向かった。



保健室に到着すると、すぐに保健医の先生が見てくれた。
まず先に、濡れた制服を脱がせる。
最初に熱い物をかけられたから、背中が少し赤くなっていた。
軽い火傷だ。

濡れた髪をほどき、タオルで水を拭って横に流すと、腫れた左の頬。

保健医が映像とカルテで記録し、ついてきた風紀委員にコピーしたデータを渡すと、治癒魔法で頬と背中を治した。
これでどこも痛くないはず、だが・・・。

サクヤはその間ずっと黙ったままだった。
濡れて汚れた制服を浄化してからサクヤに羽織らせる。
のろのろと、らしくない仕草で袖を通す。
釦を止めたところで手を止めた。

「ーーー要らない子だって」
「ん?」

サクヤがぽつりと言った。

「・・・生まれてすぐに言われた言葉。僕、覚えてるんだ。一言一句、忘れられないんだ。『可愛くない。何でこんな子生んだのかしら。要らない子よ』ってあの人に言われて。その場にいたあの人も『確かに、こっちのお前に似たこの子がいればいい』って」
「・・・それ、は」

確かに記憶力がいいとは聞いていたが・・・。でも生まれるときすでに前世の記憶があったなら不思議ではないのか。

だが、親が生まれてすぐの子供に言う言葉ではないだろう!

風紀委員も、保健医も思わず息を飲んだ。

「だから、せめて捨てられないように、勉強も領地経営も頑張って熟して、愛されなくても、必要な、人間に・・・す、捨てら・・・」

俯いたサクヤは両手で俺の制服を握りしめて。
震える声で、ぽろぽろ涙を零す。

「・・・っ、僕は、何の為に・・・生きて・・・」

俺は堪らずサクヤを抱きしめた。
それこそ隙間なんてないくらい、ぎゅうっと。

「お前は俺に逢うために生まれてきたんだよ。ずっと一人きりだったのは、俺に逢うためだったんだよ。俺の為に生きてきたんだよ。朔夜」
「・・・・・・す、おう・・・ぅん・・・」

そのまま、声もなく涙を流していたが、暫くして俺に体を預けて泣きつかれて眠ってしまった。

「・・・サクヤはこのまま寮まで運んで休ませます。先輩はどうしますか?」
「ひとまず一緒に寮まで付き添う。詳しい事情聴取は委員長と相談の上、改めて連絡をするから、君も一緒に休むといい。・・・自覚がないだろうが、君もかなり酷い顔をしているよ」
「・・・そうですね、そうさせて貰います」

そうして、保健室を後にし、寮へと向かった。

寮の前で風紀委員と別れて部屋へ入る。
中では、すでに影から連絡が入っただろう各務がベッドメイクを終えて待っていた。

「お帰りなさいませ」
「・・・ただいま。サクヤの支度を頼む。俺も着替える」
「畏まりました」

そっとベッドに寝かせて、自分はシャワーを浴びる。
冷たいシャワーで頭を冷やした。

「・・・俺が面白がって食堂に行かなければ」
「それは違うよ」

各務が着替えを手にやって来た。

「だが」
「・・・確かに行かなければ今回の騒動は起きなかったろう。・・・酷い暴言に朔夜様が傷付く事もなかった。だが、結果としては、朔夜様は救われたんだ」
「・・・救われた?」
「そうだ。スオウ、お前に救われた。お前が朔夜様に、自分のために生まれたんだと意味を持たせた。今までの苦難はスオウに逢うための試練だったという意味に変えたんだ」

俺がサクヤを変えた・・・。
哀しみの涙が喜びの涙になったのかな・・・。

ーーーそうだ。
俺がサクヤを護ると決めたじゃないか。

「ありがとう、各務」
「どう致しまして。後、シャワーをお湯にして暖まって下さい。一緒に寝ると朔夜様が冷えてしまうので」
「・・・はいはい」

最初に顔合わせをしたときから、すっかりサクヤが一番だな。
俺の心配よりサクヤだよ。

俺もかなり動揺していたようだ。
さすがは乳兄弟。俺をよく分かっている。
助かった。



とりあえず、今日はこのまま午睡と行こうか。
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