月の至高体験

エウラ

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本編

36 つわものどもが夢の跡(side風紀委員長)

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あれから、ひとまず明日、風紀委員会室でサクヤ達の顔合わせを兼ねた野外授業の打ち合わせをする事を決めて、一旦サクヤとスオウは教室に戻っていった。

一気に静まり返る生徒会室。
やや重苦しい空気が漂う中、イルミナが切り出した。

「・・・で? 何があったんだ?」

やたらと重い雰囲気に、さっきの会話以上の事があっただろうと推測をする。

「・・・見てもらった方が早い」

そう言ってガオウが記録媒体の魔導具であるイヤーカフを外して再生する。

サクヤが入室してから今までの分を全て記録していた。

のっけからスオウとサクヤのいちゃいちゃ・・・コホン。
そこは飛ばして、分厚い冊子の件からイルミナが乱入する直前までを。

案の定、イルミナが静かに怒った。

「なんだコレは? 普通の親でもそんな家庭教師など付けんだろう!」
「下手にサクヤが優秀過ぎて本人がそれが当たり前と思ってて・・・」
「スオウの気持ちもわかるね。この歳まで他人との接触もほぼ無いに等しいらしくて、常識が分かってない。人との距離感も分からずに一線を引くか入り込んで無警戒になるかってところ」
「・・・ホント、ほっとけない天然黒猫ちゃんだよね」

本当に公爵家の嫡男だったのかと疑うような言動に戸惑ったが、なるほどと納得せざるを得ない。
俺も公爵家の嫡男だが、こんな扱いはついぞされたことがない。そもそもされた時点で加害者は物理的に首が飛んでも文句は言えない。

それくらい貴族社会での階級は厳しいのだ。

それはジパング皇国向こうでも同じだろうに・・・。
皇帝が有能であるが故に、皇弟の公爵の無能さが際立つ。

「・・・彼の皇帝陛下が、サクヤを逃がすために知己であるオクタヴィウス皇帝に頼んで留学させたと聞いたが」
「やはりお前も聞いたか。そのために皇命で推薦入試を受けさせたそうだ。だがそれを知った弟が公爵に頼んで無理矢理一般入試に潜り込んだそうだよ」

その結果が廃嫡だ。

「この廃嫡もあのクズのお願いだそうだよ。信じられる? サクヤがどれ程頑張って生きてきたと思ってるのか・・・。サクヤのお陰で皇の公爵領が回っていたのを知らないから、知る気もないからあんな仕打ちが出来るんだ!」

俺も父から聞いたときは耳を疑った。
まさか15の子供にずっと仕事をさせていたなんて。

それも嫡男としての扱いなどではなく、食事も部屋も最低限を通り越していて、使用人以下の扱いで。
後から聞いたガオウ達の話では、こっそりと魔物を討伐して、冒険者ギルドに売って得たお金で生活費をまかなっていたと。

「ところで、さっきサクヤが言っていた、公爵家では誰も彼もハルキの味方だというのが気になって」

ガオウが切り出す。

「サクヤが不思議がっていたヤツか。俺も引っかかってるんだ」

レックスが思案げに言った。

「うちは魔導士の家系だから魔法に造詣が深い。ちょっと気になる魔法が思い浮かぶんだが・・・」
「何だ?」
「・・・『魅了』の魔法だ」
「・・・それは・・・」

『魅了』魔法。故意はもちろん、無意識であってもここ帝国では使用を禁止されている禁忌魔法の一つだ。
過去、この魔法によって国家転覆を目論んだ者がおり、一時期混乱をもたらした為に、その魔法適性がわかった時点で老若男女問わず生涯その魔法を外せない魔導具で封印される。

それを使っているのか?

「だが、試験の時に魔法の適性はチェックが入るはず。見逃されたとは・・・」
「ものすごく微量か、隠すのが上手いのか・・・馬鹿っぽいから後者はなさそうだが」
「後一つは、『魔眼』の可能性。コレは発動しないと気付かれない。だが、『魅了』も『魔眼』も、使用者より魔力が高い者には効かなかったり効きにくい」

それを聞いていた皆はピンときた。

「じゃあ、サクヤや乳母だった女性は、魔力が高かったために効かなかったんだな」
「そういえば、転移魔法をホイホイ使っても魔力枯渇無いって言ってたしな」
「・・・確かに」
「まぁ、この学園ではほとんどの者が魔力が高いから効果が出なかったんだろうが、気を付けるに越した事はないな。その線で調べてみよう」

各々自分の影に命じて探らせる。

「スオウにも話しておいて。でももちろんサクヤには・・・」
『御意』

ガオウが影に言付けた。
皆が不思議そうに見る。

「・・・何か?」
「いや、影が、なんて言うか・・・」
「・・・ねえ?」
「あーもー言いたいことは分かってるよ! アイツら、連休で滞在したサクヤにすっかり絆されちゃって、オクタヴィア家の影って言うより、サクヤの影みたいになってさあ、各務なんてスオウが抱き潰したとき、ガチで怒ってたもん」

はあって溜息を吐くと額に手をあてて天井を仰いだガオウ。

「何なのその情報。え、サクヤ、スオウに抱き潰されたの?」
「え、ソッチ?!」
「さっき、閨は連休中にガッツリって・・・」
「うえっ、ガチなヤツだった!」

再度、深く溜息を吐くガオウ。

「・・・ホントもう、抵抗しないからって身も心も真っさらな子ネコを読んで字の如くネコにして一晩中・・・さすがに父上もガチギレでしたが?」

ーーー鬼畜だ。ここに鬼畜がいた!


皆の心は一つだった。


「スオウからも護らねば!」





そんな誓いを立てられてるとは知らないスオウとサクヤは、のんびりと教室へと向かっていた。

「皆いい方ばかりだったね、スオウの幼馴染みって」
「気の置けないヤツらばかりだよ」
「僕もその中に混ぜて貰えるなんて嬉しいな」

そう言ってサクヤは花を撒き散らしていて、それを嬉しそうにスオウが見つめていた。
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