月の至高体験

エウラ

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本編

34 親睦を深めよう

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しばらくワイワイとしたあと会長が仕切り直した。

「ここに呼んだのは他でもない」

皆の視線を受けて続きを話し出す。

「今月末に野外授業がある。夏期休暇の前にある重要な授業の一つで我ら生徒会と風紀委員会が主に関わる物なんだが、その前に、そろそろ学園に慣れたであろう新入生で優秀な生徒を生徒会役員に勧誘しているんだ」

それを引き継ぐようにガオウ兄様が話す。

「だから君たち二人を勧誘したいわけ。なんといっても首席と次席だからね。しかも3位以下をぶっちぎりでの成績でね」
「それにうちに入った方がサクヤを護れる」

レックスも付け加える。
なるほど。


「まぁ、野外授業の手が足りないのもあるんだけど」

最後が本音っぽい。ガオウ兄様、正直だね。
スオウをチラッと見ると、頷かれた。

「そういうことなら受けさせてもらいます」
「よっしゃ!」
「ここも許可された者しか入れないから安心安全保障するよ! 何かあったら逃げ込んでね」
「詳しくはこの冊子を読んでくれ」

そう言って差し出された辞書くらいの冊子を受け取ってパラパラ目を通す。

「ぅげえ、兄さんのを前に借りて読んだから俺はパス! まじ大変だった」
「さすがに全部は覚えられないだろうから、後でじっくり読んで、気になったら調べるように「読み終わったよ」・・・は?」

ガオウ兄様がキョトンとしてる。スオウも、他の皆も同じ顔。
・・・可愛い。
いやいや。

「・・・読み終わった?」
「うん」
「パラパラ捲ってただけじゃ?」
「速読で読んでた。内容も覚えてる」

言ったら更に驚かれた。
ガオウ兄様が僕の手から冊子をとって適当に聞いた。

「・・・じゃあ、132頁の頭は?」
「規則第58条、学生は基本全寮制で各クラス毎に分けられた寮に1年から3年まで縦割りで入寮となる」

それを聞いて頁を捲り、確認するガオウ兄様とレックス。仲良しさんだね。

「・・・あってるよ・・・まじ?!」

ガオウ兄様が他の人にも見えるように広げた。
皆も唖然としている。
何で?

「・・・え? だって瞬時に復唱出来ないと家庭教師に鞭打たれるでしょう? 僕は元から瞬間記憶力がいいから打たれた事ないけど」
「・・・それは誰に言われたの?」

スオウが怖い顔で聞いてきた。

「えっ、5歳になって最初に僕についた家庭教師のオバサン。でも速攻答えてたから一度も叩かれてない・・・けど、え? 違うの??」

困惑した僕がスオウに尋ねると、肩をガシッと掴まれた。
僕に目を合わせて告げる。

「そんなのはただの虐待。暴力だ。いいか? 普通は、5歳の幼児に、その場で、全部覚えろとは言わない。ましてや復唱出来ないと鞭で打つなんて事も、ない! 分かったか?!」
「は、はい・・・」

スオウの勢いに負けた。
・・・そっか、あれは嫌がらせだったんだ。
気付かなかったなあ。

なんて呑気に考えてて周りがとんでもない事になっているのに気付かなかった。

「本当に最低だな」

アルフレッドが思わずといった感じで呟く。

「どうしてここまで人非人な事が出来るのか人間性を疑うね」
「しかしサクヤってホント天然なんだね。あの所業を普通と思ってたって・・・」

ルイスとルークも呆れている。

「乳母以外のまともな人間と接触が無かったらしいと聞いたが。相当な箱入りだったんだな」

レックスが興味深そうに言った。

「箱入りついでに、彼の魔法は独学で、比較対象が無いまま使ってたので、かなりの規格外だと言っておく。僕達も唖然とするモノばかりだったから覚悟してね。後、魔法の事は他言無用で!」

トドメにガオウが出した情報に皆が毒づいた。

「聞いてないぞ!」
「だって極秘だったんだもん。聞いたからには一蓮托生ってね!」
「ーーーっこの腹黒が!」

ぎゃいぎゃいし出したのに気付いたサクヤが、ガオウ兄様がスミマセンと謝ってきたので気にしないように言ってから、お茶を飲もうとなった。



「えー、脱線したが、とりあえず月末の野外授業に向けて内容を詰める・・・所だが、風紀委員会との顔合わせがまだなので今日は親睦会といこうか」
「やりい!」
「ルーク、行儀が悪い」
「あの」

サクヤが声をかけた。

「お茶菓子にクッキーを焼いたので、よかったらどうぞ」

そう言ってインベントリからクッキーを取り出す。

「・・・サクヤ、それは何処から出したんだ? というか、焼いた? サクヤが?!」
「そう! サクヤって料理が超上手くてビックリ仰天」
「じゃなくて、いや凄いんだけど! クッキーどこにしまってたの?! 持ってなかったよね!」
「ああ、インベントリ・・・異空間収納の魔法ですね」
「ナニソレ!」
「・・・さっき言ってた規格外ってヤツか」
「そう。もうビックリでさあ。転移もホイホイ出来て魔力枯渇もなしよ? 信じられる?」

「ハアアアアーーー?!」

咄嗟にふさいだスオウのお陰でサクヤの耳は護られた。

皆の視線が集まる。

「いや、さすがの僕もちょっと?非常識だと言うのは分かった・・・いや、何となく・・・? ・・・えっと・・・ごめんなさい」

言ってから尻つぼみになっていって、最終的に謝った。

何となくサクヤの周りの空気がどんよりとしている気がする。
15年生きてきて、精神的にはおっさんなのに全く常識がないと言われてきたのだ。

サクヤは目に見えて萎れていた。
見た目は無表情だけど。

皆の目には、懐いた野良猫が『捨てないで』と訴えてるように見えていた。

「クッ! なんだコレは」
「可愛いが過ぎる!」
「これで無意識とか・・・」
「天然恐るべし」
「黒猫ちゃんだ」
「サクヤ! 大丈夫。捨てないって言ってるだろ!」

生徒会室はカオスだった。


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