月の至高体験

エウラ

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本編

30 私は帝国皇帝である(sideライナス)

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私はオクタヴィウス帝国の皇帝である。
名をライナスと言う。

私には兄がいる。
臣籍降下して大公となっている。
兄弟関係は非常に良好だ。

私としては兄が皇帝になってくれた方がよかったのだが、兄は最後まで皇帝の座を固辞した。

その頃の兄には好いた令嬢がおり、その令嬢と婚姻するため、皇帝にはなりたくなかったそうだ。
羨ましい。

私は幼馴染みの令嬢と婚姻し帝位を継いだが、元々両想いだったので問題はなかった。
仲睦まじく、皇子2人と皇女1人を授かり、兄も無事に想い人と結ばれて、3人の男の子を授かった。

その3兄弟の次男が、神童と呼ばれる程の子供だったが、兄達の教育の賜か、驕る事もせず、素直にその才能を伸ばしていった。

多少やんちゃに育ったが。

その次男ースオウが学園に入学する年になり、推薦入試にもちろん押した。
そのスオウが次席と聞いて、上には上がいるものだと驚き首席の情報を見れば・・・。

学生時代からの友人であったジパング皇国の皇帝。その友人の皇弟である公爵家の嫡男だった。

・・・以前より、公爵家での嫡男の扱いをその友人である皇帝から聞かされていた。

曰く、長男を空気のように無視し、世話人も付けず、食事もろくに与えず。
反対に、次男を可愛がって我が儘させ放題。

乳母を解雇してからは誰も関わる者はおらず、公爵領の管理は長男に押し付け自分達はやりたい放題好きに過ごしていると。

『もの凄く賢い子だが、それ故、全ての状況を把握し、物心つく頃から諦観している。学園に送り出すから、助けてやって欲しい。ここではあの子は幸せになれない』

そう手紙を付けて送り出されたその子が、見事に満点合格。

試験の時に遠目でチラッと見ただけだが、もの凄い美人だった。だが無表情で、他人を拒絶しているような。
まるで棄てられた野良猫のようだった。全身で威嚇して、自分の身を守ろうとしているかのようで・・・。

「安心して。私が全力で護ってあげるよ」

皇妃にはもちろん、皇子達全員にも承諾を得て、万全の体制で臨んでいた。

そうして入学式から予想通りというか・・・スオウの溺愛が始まり、紆余曲折を経て現在。



皇朔夜が、廃嫡された。

ホントに馬鹿だ。アイツの苦労がもの凄く分かる。

だがこれでいい、とほくそ笑む。
サクヤがうちの養子になった。立ち位置としては第2皇子。
そしてスオウの婚約者になった。本人が望んだら、と条件を付けたが、不要だったな。

学園を卒業したら婚姻予定だ。

さあ、皇族になったサクヤを、アイツらはどんな思いで見つめるのか。
下手な事をしでかしたら即刻不敬罪で極刑に処してやる!
ワハハ!

なんて。
・・・私は魔王じゃないよ?

ふむ?
どうやら皇族になった事は伏せて学園生活を送るようだ。
あえて極秘にしているらしい。
アイツらのやらかしを誘うつもりか。

サクヤは復讐なんて考えないだろうから、周りの、オクタヴィア家が主導で手を回しているんだろう。

兄達も腹に据えかねているようだった。

ともかく、兄達がいるのだから、サクヤに危険はないだろう。
本人も相当強いらしいからね。
・・・ただ、相当な天然らしいから、そっちが心配だよ。




ともかく、後で一度皇城に来て貰おう。
家族になったのだからな。
家の嫁と可愛い子供達を紹介して、一緒にお茶を飲もう。

兄、リオネルの話だと、兄夫婦を『父様、母様』と呼び、ガオウを『兄様』と呼んでいるそうじゃないか。リオウはさすがに君付けだが、そのうち呼び捨てで呼ばれたいと張りきっているとか。

ーーーナニソレ羨ましすぎる!

私も早く『ライナス父様』って呼ばれたい!!
嫁も皇子達も絶対、思っているはず!!

ああ、早く夏期休暇にならないかな?
うち(皇城)に泊まりに来ないかな?
いっぱい甘えさせてあげるよ!

「・・・・・・陛下?」

ーーーはっ!
執務中だった。ヤバいヤバい。

だらけた顔をキリッと引き締めると、側近に処理済みの書類を渡す。

「ああ、そうだアーサー」
「何でございましょう?」

側近のアーサーに渡すついでに告げる。

「先程、私に可愛い子供が一人増えたんだ。皇妃と皇子達にも伝えてくれないか? きっと大喜びするから」
「・・・・・・は、もしや皇家の?」
「サクヤだ。さあ、これから忙しくなるぞ。片付けられる書類は片っ端から処理するからドンとこい!」
「・・・・・・ようございました。分かりました。頑張りましょう!」

アーサーもサクヤの件では心を痛めてたからな。



だが、これはいかがなものか?
書類が山のようだが。
いくら頑張ると言っても、これはないだろう!

私、今日部屋に帰れるかな・・・・・・。




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