月の至高体験

エウラ

文字の大きさ
上 下
19 / 133
本編

16 口が悪いサクヤの前世と今世

しおりを挟む
夕御飯の時は猫を被った。

最初に泣いたことを謝ったら、逆に謝られて心配された。
いたたまれない。

のっけからスオウが猫を捨てた俺の事を暴露したので、早々に猫は脱ぎ捨てた。
と言うか、今世と前世がごちゃ混ぜで、正直自分でも区別が上手くつかないので、『僕』になったり『俺』になったり、雑な話し方になったり。

ちょっと落ち着くまで待って欲しい。

そんなことを、夕御飯の後に取って貰った時間の中で話した。


まずは、自分の前世で覚えてること。

こことは違う世界で、魔法がない。代わりに科学という物が発展し、病気や怪我の治療も薬や科学技術で行っていた。

俺は発達した治療法でも治らない不治の病だったらしく、ほとんどベッドの中で過ごした。

いるのは医者と看護士、病院に入院中の他の患者。
親は物心つく頃に一度会ったか。噂で弟がいると聞いた。元気で愛されていると。

「生きていながら、死んでいるようなそんな感じだ。医者達は仕事だから面倒を見るし、おそらく親は資産家だったんだろう。お金はあったから、世間体のために治療していたんだと思う。・・・死ぬときまで会いにも来なかったのは覚えてる」

だから、今世、最初から期待はしなかった。

「生まれてすぐに記憶があったから、周りの様子を観察して、前世と境遇が似てるなって思った。健康だったのが一番の喜びで。どこにでも自由に行ける・・・・・・そう思ってたけど」

蓋を開ければ、勉強勉強・・・。マナー、ダンス、剣術、帝王学、領地運営、魔法・・・etc.。

そのくせ、世話人はなく、食事は最低限よりも酷く、体面上衣服はくれたが質素なもので。

「もう、ひたすら無になって過ごした。ふとした時に考えるんだ。俺って居なくてもよくね?って」

それを聞いていたオクタヴィア家の面々は、この前世からの荒んだ生活のせいで言動が粗野になったのだろうと納得する。

それでもそこはかとなく品がいいのは、生まれ持った容姿と今世の教育のたまものか。

「サクヤは、前世でどんな容姿だったんだ? 覚えてる?」
スオウが聞いてきた。
皆も興味津々なのか、心なしか体を乗り出している。

「うーん。まあ、今よりずっとガリガリだったけど、ほとんど今と変わらないかな? あ、でも色は全然違う。アルビノだったんだ」
「あるびの?」
「うん。遺伝子の欠如で、生まれつき色が薄いんだ。俺は、髪は真っ白で目も薄い灰色。目はろくに見えないから眼鏡かけてた。肌も白くて、日に当たると火傷したようになるから外に出たこともない」

それを聞いた皆は絶句していた。

「だからね、今世での環境は最悪だけど、この体は最高って思ってる。生きててよかった。スオウに出逢えてよかったって思ってるから。だからね」

そんな顔しないで。

僕より辛そうで、心が痛い。

「とりあえず、僕の話はひとまずこれでお終い。また何かあったら聞いて? 皆も、こんな僕を身内のように接してくれてありがとうございます」

そう言って、最後はいっぱい猫を被ってみた。

精一杯の笑顔を添えて・・・。



それから部屋に戻ってひと息吐く。
今日一日が凄い濃密だった。
体力よりも気力が削られた。

カウチでぼーっと横になっていると、ノックと共にスオウが入ってきて、俺の向かいに座った。
「お疲れ」
スオウが苦笑してる。
「うん。疲れた。主に気疲れ」
もう取り繕う気がないので、そのまま寝転がっている。

「でも、スッキリしてるんだ。前世の事なんて誰にも言えないし、なんか、背負ってた物が減ったよね?」

だから、ありがとう。

「どういたしまして。じゃあ、体もスッキリして寝ようか」
「・・・あー、動きたくない。浄化魔法で終わりじゃ駄目か?」
気疲れで動くの億劫で。風呂好きだから入りたいけど。
「俺が世話してやるぜ?」
「え? スオウが? 世話される側だろう?」

出来るのか?

「俺だって一通りは自分でできるよ。騎士の野外訓練で野営とかするからな」
「へえ。俺は野外訓練とか経験ないな。今度やってみたい。学園で予定はなかったっけ?」
「連休明けのひと月後にあるな。後でやり方教えてやるから、とりあえず、今はこっちな」

そう言っていつの間にかスオウの部屋に連れて行かれてた。
あれ?

「こっちは檜風呂で、広いから」
「えっ!! 檜風呂?!」
サクヤがめちゃくちゃ食いついた。
「入る入る入るっ!」
珍しく暴れるサクヤ。
「おおお落ち着け!」
抑えるスオウがちょっと押されていて転びそうだ。
「お二人とも落ち着いて下さい。危のうございます!」

見かねた各務が間に入った。
後、各務一人では危ないと思ったのか影さんが二人追加で駆けつけた。

興奮してすみませんでした。

反省。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

箱庭

エウラ
BL
とある事故で異世界転生した主人公と、彼を番い認定した異世界人の話。 受けの主人公はポジティブでくよくよしないタイプです。呑気でマイペース。 攻めの異世界人はそこそこクールで強い人。受けを溺愛して囲っちゃうタイプです。 一応主人公視点と異世界人視点、最後に主人公視点で二人のその後の三話で終わる予定です。 ↑スミマセン。三話で終わらなかったです。もうしばらくお付き合い下さいませ。 R15は保険。特に戦闘シーンとかなく、ほのぼのです。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね、お気に入り大歓迎です!!

処理中です...