月の至高体験

エウラ

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本編

10 初めてのお泊まり その壱

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連休に入る前に、例の噂は消滅した。

陽希は結局何がしたかったんだ。
そもそも、噂が根拠なさ過ぎて、1年のCクラスくらいしか信じてなかったみたいだし。

せっかく留学したんだから勉強しろよ。阿呆。

・・・・・・いかん。最近心の声が口悪くて、ポロッと表に出てしまう。気を付けよう。

僕は皇朔夜、ジパング皇国の公爵家嫡男。品行方正が求められる人間だ。
何時如何なる時も冷静に状況を見極め最適解を導き出して・・・・・・。

「部屋の中で何をブツブツ言ってるんだ?」
不意に声が聞こえた。気付かなかった!
「っ、スオウ。いや、何でもない。どうしたの?」
「ああ。いや、連休中はうちに来いって言ったろ? 家族みんな喜んで迎えるから、気兼ねなく泊まりでおいでって。明日の朝イチで向かうから、今から支度しておこうな?」
「・・・お泊まり・・・・・・」

たぶん僕の周りは花が舞い飛んでいると思う。
心なしか、頬も熱い。

「そんなに嬉しいか?」
スオウがニカッと笑うけど、僕は首をカクカクして言った。
「初めてのお泊まり」
「え」
「視察でも日帰りだし、旅行とか行った事ない」
「は?」
一瞬、真顔になったスオウはすぐにニコッとして、僕に尋ねた。
「視察で日帰りって、そんなに簡単じゃないだろ? 他の、護衛とか侍従・・・はいないのか。馬車で行くんだろうから御者とか色々いるだろう?」

それに僕はキョトンとした。

「え? 僕独りだよ? 護衛なんていないし。侍従はもちろんいない。馬車を使ったことはないよ。馬ならあるけど。そもそも僕独りで事足りるし」

なんかスオウの顔がどんどん険しくなって行くんだけど、僕、そんなにヘンな事言ってる?

「護衛はそもそも僕が強いから意味がないし、元々いないし。転移して移動するから泊まる必要もない「はあっ!?」・・・し」

え? なんかおかしな事言った?

スオウも各務も唖然としてるけど・・・何で?

「・・・転移? そんなにホイホイ出来るの?」
「え? むしろ転移出来ないとあちこち視察に時間取れないよね? 僕が行かないと誰も行かないし?」

必要に駆られて覚えたんだけど。

「それを知ってるのは・・・」
「転移魔法のこと? うーん、乳母だった花江だけかなあ。陽希と母上はもちろん父上も知らないはず。人前では使わないし」
教える相手なんて皆無だ。

「はあーっ。 サクヤ。それ、誰にも言うんじゃないぞ! うちに帰ったら要相談だ。分かったな?」
コクコク頷く。
おお、そうだった。明日からの支度をせねば!
「スオウ、荷物ってどれをどのくらい用意すれば? そもそも僕、荷物少ないけど?」
「あ、ああ。うちで用意出来るから、いつもの寝衣とかコレじゃないとってものを用意いすればいい。おそらく母がこれでもかって程の衣装を用意してるぞ」
ニカッと笑って言う。
え、そんなに要らないよ?
でもまあ、母君なら皇国の事に詳しいから、任せて大丈夫だね。



そして、朝。
忙しないけど、朝御飯は馬車の中でとりながら大公家に向かった。

さすがに転移は却下された。

馬車ごと出来るよって言ったらドン引きされた。
実際はこの寮ぐらいは簡単に転移出来るけど。言ったらヤバそう。

・・・・・・うん。さすがに僕も分かった。

転移自体高位魔法なのに、ホイホイ使える上に転移範囲が異常なんだね。

ごめん。

自分がかなり非常識なことが分かりました。

大公家で迷惑かけないように気を付けよう。

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